ノウハウ 企業法務の役割とは?実務の例や必要スキル、内製化のポイントまで総合解説
更新日:2024年10月17日
投稿日:2021年10月4日
企業法務の役割とは?実務の例や必要スキル、内製化のポイントまで総合解説
企業において法務の役割は重大です。一方で、具体的な担当者が現在おらず、外部の機関や弁護士の方に具体的な実務や判断を任せているという企業も少なくないのではないでしょうか。
ここでは、企業法務の仕事について解説し、求められるスキルやこの業務を内製化するポイントなども分かりやすくご紹介します。
企業法務とは?
企業法務の「法務」とは、法律や司法に関する業務のことです。企業法務の業務で扱うのは、企業にまつわる法令などです。
まずは、企業法務の概要から掴んでいきましょう。
企業法務とは、企業活動に関する法律事務を行うこと
企業法務とは、「企業活動に関する法律事務」を意味します。
例えば、契約書の作成、取引先や消費者との法的問題の解決、組織運営にあたって法令に準拠できているかどうかのチェックなどを行います。
具体的な業務内容は企業の活動内容によって異なりますし、すべてを挙げていくときりがないほど多様です。ただ、共通しているのは法的な問題を取り扱うということです。法令に抵触しないこと、そして、その範囲内で最適化していくことを目指します。
企業活動となればその規模が個人と比べてかなり大きくなり、関係者・利害関係の幅も広がるため、よりシビアにチェックしていく必要があります。取引先や消費者からの信頼を重視する企業という存在にとって、企業活動の安定的継続を維持する法令遵守が欠かせません。
そこで、大きな企業であれば社内に法務部など専門の部署を置くケースが多いです。
一方、中小企業では専門の部署が置かれていることはそれほど多くありません。しかし、法務が重要であるということは中小企業であっても変わりはありませんので、弁護士に頼んだりアウトソーシングをしたりすることでカバーすることが多いです。総務などの人員が法務を兼ねることもありますが、最低限のチェック機能しか働かないことからリスキーです。
今、企業法務の重要性は増している
企業法務の役割が重要であるという点は昔から変わりないのですが、近年ではさらにその重要性が増していると考えられています。
その理由としては、「事業環境が変化したこと」「予防法務の認知拡大」が挙げられます。
事業環境の変化については、イノベーションやグローバル化の加速が大きく影響しています。特に情報技術の発展はIT業界のみならず、あらゆる業界・業種、個人の生活にまで影響を与えています。グローバル化を進める一要因でもあり、容易に国境を跨いだ拠点との連携が可能となることで、海外企業も多く日本国内に進出するようになっています。逆に、国内企業の海外進出もハードルが下がりました。
また、時間や手間をかけてでも法務を行い、後々起こり得る訴訟リスクを下げたり、社会的信用の低下を防いだりすることを重視する企業が増えています。実際に法的トラブルが原因で大きな損害が生じた事例などを目にすることで、予防法務の認知が広がっています。
昨今はSNSの登場によって個人の発信力も高まり、従来世に出ることのなかったような不正が明るみに出るケースも増えています。些細な原因で取り返しのつかない事態に陥る可能性が高くなっているのです。こうしたことからも、法務の役割が重要であるとの認識が広く持たれるようになっています。
企業法務が担う役割
社会規範や倫理観など法令以外に関してもコンプライアンス意識が高まっているために、知らないうちに違反を犯すリスクが高まっています。故に、組織が注視すべきリスクの範囲が広がってきています。
ガーディアンとしての「守る」役割
企業法務の役割1つ目は、企業のガーディアンとして組織を守る役割です。
企業法務としてイメージしやすいのもこの役割でしょう。企業活動が法令に抵触していないかどうかをチェックする内部規制を行ったり、取引において自社が危険な状態にさらされていないか、外部との関係をチェックしたりします。
組織運営の体制に問題がないかどうか、最新の法令に準拠しているかどうか、また、直接法に背いてはいないもののトラブルになりやすそうかどうかなど、専門的な知見に基づいて確認していくのです。
「守る」ということに着目した企業法務は、リスク管理の観点から経営の意思決定にも関与します。基本的にはリスクを最小限に留め、損失が生じないように目指します。
パートナーとしての「攻める」役割
もう1つは、企業が進展していく上で攻めの姿勢を保つための役割を担います。
企業はリスクをなくすだけでは業績を伸ばせません。新たな取り組みを始めるなど、ビジネス拡大に努めなければなりません。そこで法務部門は他部門を法的に支援し、事業や業務の執行を適正化し、戦略的かつ効率的な企業活動を実現する環境を整えます。
例えば、現行のルールや解釈を分析することで、事業が踏み込める領域を広げることはその後の競争に大きく影響します。ルール変更も視野に入れた取り組みを行い、法律や契約を使いこなすことで競争力を高める機能を果たします。
機関法務、予防法務、戦略法務とは
機関法務とは
株主総会や取締役会など社内の執務の意思決定を行う機関や、企業を構成する機関を適切に運営する業務を指します。
「商事法務」「コーポレート法務」とも呼ばれます。
企業活動はあらゆる業務をこなすことで成立していますが、中には株主総会や取締役会での判断が必要なものもあります。株主の利益に影響を及ぼしたり、代表取締役に一任させるのにあまりに重大な事項も含まれるためです。
どのような手続きが必要か仕分けるのも機関法務の仕事です。
株主総会などの決定が有効となるよう、以下を所定の形式に一致するよう整えることも行います。
- 招集通知の作成・発送
- 会の進行
- 議事録の作成・保管
事務に似た業務も多いことから、総務部が担う会社もあります。ただし、専門性の高い業務のため、独立した部署の有無に関係なく、豊富な知識が求められます。
機関法務を怠ると法令違反を起こしかねません。企業の信頼が失われたり、最悪のケースでは、損害賠償請求に応じなければなりません。
機関法務は、法令に則った企業活動のための業務を担っていると言えるでしょう。
臨床法務
クレームや不祥事、倒産処理、訴訟や損害賠償請求などへの対応を行う業務です。
実際にトラブルが発生した時に対処する役割を担います。「紛争法務」とも言います。
顧問弁護士との連携も求められる仕事です。
予防法務
法的紛争などを防ぐため、起こる前に対策を講じる業務です。
例えばコンプライアンスの遵守状況を確認したり、トラブルを想定した契約書の作成などを行います。
戦略法務
企業活動で起こり得る法務問題を経営戦略の視点から検討して対応策を考えたり、法律の知識・スキルを用いて業務の効率化や売上アップといった経営戦略の考案・実現を行う業務です。
法律はもちろん、経営に関する知識や視点も求められます。
企業法務の経営上の重要性
企業法務は、企業の信頼性を担保する上で欠かせません。
雇用関係の締結、顧客と取引するためなど、契約書が必要となる場面は多いです。
契約書の不備が原因で紛争となれば、訴訟に対応するためのコストがかかったり、損害賠償に応じなければならないだけではなく、信用問題にも波及します。
紛争に至らずとも、問題のない契約書を事前に用意できない企業に対して不信感を抱かれてもおかしくありません。
コンプライアンスが重視されてきた社会の流れを踏まえると、法令や規則にとどまらないで従業員が働きやすい環境を整備したり、クライアントや顧客から必要とされる組織であり続けるための意識の周知・徹底まで法務が担当するものと考えられてきています。
海外との取引があるなら、現地のルールや社会通念などの把握も信頼獲得には欠かせません。
法務は契約と深く関わります。丁寧なチェックなどリスク管理には時間がかかります。しかし、就業時間を守るためには効率アップも大切です。システムの活用などで効率化と両立したリスク管理が求められます。
法務実務の具体的な仕事内容
法務部門では、具体的にどのような実務をこなしているのでしょうか。特に重要な6つの仕事内容を紹介します。
契約に関する業務
企業は様々な取引先と契約を日々交わしながら活動を続けますが、その際、契約書の作成が伴います。契約書は常に書面として存在しなければ契約が成立しないというものではありませんが、後から約束事に関してトラブルにならないようにこれを作成します。
ただ、その約束自体が違法なものだと契約が無効になることがありますし、契約書に記載されている事項に、一方的に自社が不利になるような条項が含まれている可能性もあります。このチェックをする業務は「契約法務」などと呼ばれます。法務部の重要な仕事の一つです。
企業に大きな利益をもたらすこと、取引先と健全な関係を続けること、費用やリスクを最小限に抑えることなどを目指して契約法務は行われます。
そこで、契約書に取引内容が適格に反映されているか、締結によるリスクはいかなるものか、といったことを判断していきます。
専門知識がなければ一見しても判断できないことが多いです。例えば、書面に記載されている文言に複数にわたる解釈の余地があると、自社が意図していることと相手方が意図していることに齟齬が生じる可能性があります。曖昧さがあると書面として残すことの意義が薄れてしまいますので、そういった箇所には適宜修正を行います。
紛争・訴訟対応
紛争・訴訟の解決のための業務です。
先方から訴訟を起こされた際の対応はもちろん、訴訟に至らずとも顧客・クライアントとのクレーム対応も業務に含まれます。
従業員間のトラブル対応も業務のひとつです。
揉め事が発生した時、スムーズなコミュニケーションをはかったり、何かを主張する際には交渉を進めるなど、自社と取引先および顧客、もしくは従業員同士の橋渡しのような役割を担います。
法務を扱う従業員が専門的な知識を有しているとは言え、大きい事案でより専門的なアドバイスが必要になることもあると思います。アドバイスが必要な時には弁護士など外部の専門家と連携して対応することもあります。
コンプライアンスに関する業務
企業内部の問題にも目を向けなければなりません。ここで重要になるのが「コンプライアンス」です。大企業ではコンプライアンス部門が設けられることもあるほど重視されています。
契約法務は対外的な関係に基づいていましたが、コンプライアンスに関しては基本的に社内のルールや、従業員の行動、組織の管理体制などに着目します。
特に、何をしてはいけないのか、どのようにするべきなのかを従業員に周知することが大切です。法務部門だけが正しい行いをしていたのでは意味がありません。法務部門や経営層が中心となって行動指針を打ち立て、これを従業員に知らせ、設けた社内ルールに従った行動を促します。
また、ルールを書面で知らせただけでは十分な実効性が得られない可能性を考慮し、法務研修を実施したり、eラーニングを使った定期的な学習をしたりといったことも検討します。
債権の回収
未払い債務を回収するための支払い督促や訴訟の対応を行います。
債務の管理については他の部署が担当することが一般的ですが、契約書の書き方や破産手続きなど法的な知識が求められる時にはサポートします。
労務・労働問題に関する業務
コンプライアンスとも近いですが、労務・労働問題はどの企業にも関わる重要な課題です。
就業規則の作成や、労働基準法に準拠した労働環境になっているかどうかのチェック、雇用契約書の作成などを行います。従業員とのトラブルが発生すると訴訟にまで発展する可能性もありますが、初期の段階ですぐに弁護士に依頼するとは限りません。まずは法務部門が、自社に法的問題がないかどうか、相手方の言い分は適正なのかどうか、といった状況を確認します。
知的財産権に関する業務
法務と区別されることもありますが、知的財産権に関する業務を法務部門が担うケースも多いです。しかし、ともに法律に関わる仕事とはいえ、業務の性質は少し異なります。法律一般のスペシャリストとして弁護士がいるものの、知的財産権に関するスペシャリストとして弁理士が存在している点にもその特殊性が現れています。
なお、知的財産権とは発明や著作物、商標などを作った場合に生じる権利のことで、企業がこれを守ることは非常に重要です。知的財産権の出願や管理業務を適切に遂行できていなければ、コピー商品が作られてしまうおそれもあり、独自開発の意味がなくなってしまいます。企業の競争力を維持し、将来にわたって優位を確保するためにも知的財産権に関する業務は怠ることができません。
その他のトラブルで弁護士に依頼するケースがあるように、状況によっては弁理士に相談を持ち掛けることがあり、その場合の懸け橋としてやはり法務部門が機能することになります。
株主総会への対応
一人企業や同族経営をしているケースでは株主総会を意識することはあまりありませんが、一般的な株式会社では、株主総会への対応が大変な負担となってきます。
会社の所有者である株主に対してしっかりと状況の説明をし、適切に議決権の行使をしてもらわなければならないからです。
そこで法務部門は、株主総会に向けた招集通知を行い、総会の議事録を作成したり結果に応じて登記の手続を行ったりします。総会の目的を達成できるよう下準備し、円滑な進行に寄与しなければなりません。
招集通知に関しては会社法等に準拠して、日時や場所、投票の方法、総会の目的など、必要な事項を記載し、一定の期限を守って発送しなければいけません。
下準備に関しては、株主による質問を想定することが大事です。想定した質問に対する問答集を作成し、企業の意向に納得してもらえるような回答をしなければいけません。特に投資家が気にする点は、収益の状況、予算、決算に関することです。総務や経理とも協力しつつ総会のシナリオを作成していくことになります。
法律面のアドバイス
普段は法務に携わる仕事をしていなくても、企業活動では法律と関わる業務が生じてもおかしくありません。
従業員が法令を守って業務を進められるよう、何を懸念しているか汲み取り、対策を提案できることが求められます。
コンプライアンスの遵守
コンプライアンスとは、法令や社内規則、時代に即した道徳観や社会規範などを守ることです。
企業の法令違反や信用の失墜を防ぐため、コンプライアンスが企業でも求められるようになっています。
法令などを知らないと意図せず違反する恐れがあります。コンプライアンス研修で全ての従業員に周知して守れるようにすることが必要です。
社内規則を定めて周知することも、コンプライアンスに関わる業務です。
違反が起きた時に事実を把握できないとすぐに対処できません。そこで、通報窓口の設置を担当することも、コンプライアンスの遵守に欠かせない仕事と言えます。
法令調査
法令などコンプライアンスに関わることは時代にあわせて変化します。最新の状況を知らないと、違反のリスクが高まります。
企業法務に携わるのであれば、法律の改正などは把握していて当然と言っても過言ではありません。
事業を海外まで拡大しようとしている企業であれば、海外の法令まで調査することが必要です。
弁護士との連携
法務に携わる従業員が高い知識・スキルや経験を有していても、高度な問題だと弁護士など専門家の協力が必要なことは十分あり得ます。
法務部門だけでは解決が難しそうな事案は、顧問弁護士に相談するのもひとつの手です。
ただし、何かある度に従業員が個別に相談すると、やりとりが多くなるなど弁護士の負担が大きくなるかもしれません。従業員の問題を整理して代表として専門家と対応することも、業務の一環です。
企業法務担当者が理解しておくべき主な法律
企業法務では法的問題を取り扱うため、当然、法律についての理解がなければなりません。法律にも様々な種類があり、そのすべてを網羅している必要はありませんが、以下の法律については関連性が強く、理解を深めておくことが求められます。
会社法
企業法務は、企業活動を支えるという重要な役割を担うため、会社組織の運営等についてルールを定めた「会社法」の理解が欠かせません。
会社法には、株式会社の設立から株式に関する事項、株主総会や取締役といった機関、持分会社、さらには社債、組織変更、合併などビジネスに関する非常に幅広い分野が網羅されています。
大きく、株主との関係や企業運営を規律している「ガバナンス領域」、資金調達に関して規律した「ファイナンス領域」、M&Aなどを規律する「事業再編領域」に分類できます。
数ある法律の中でも企業活動と密接に関わるものであり、さらに複雑な分野でもあるためルールの数も非常に多いです。しかも会社法だけでは完結せず、「会社法施行規則」に詳細なルールの委任もされています。そのため、より細かな規律を確認する場合には会社法だけでなく会社法施行規則についてもチェックすることが大事です。
なお同法は会社に関する広範な規律が設けられているものの、労働関係や消費者との関係など、対外的な規律に関しては別の法律でカバーされていることが多いです。そのため、同法は主として内部規律、運営に関するルールを定めたものであると捉えておきましょう。
民法・商法
私人にとって最も基礎となるルールを定めたものが「民法」です。ビジネスに関わらず、あらゆる場面で適用される法律です。
例えば、誰が法律行為をなしえるのか、法人にはどんな性質があるのか、権利の時効やその期間の計算方法、意思表示や代理に関するルールなど、基礎的なことが多く定められています。他にも、所有権や抵当権などの物権、債権債務など、ビジネスにも関わる内容もここで基礎的ルールが設けられています。
企業法務として特に関係するのは「契約」について示す第3編第2章です。同章では、総則として契約の成立条件や契約の効力、解除に関することなどが定められており、続いて「贈与」や「売買」「消費貸借」「賃貸借」「雇用」「委任」「請負」などの典型契約についてもとりまとめられています。
例えば、売買契約書を作成するにあたっては、大前提として売買の意味がわかっていなければなりません。抽象的なイメージで済ますのではなく、法律の文言を正確に捉えていきます。この部分が、契約成立可否にも影響してきます。同様に、請負契約を締結するのであれば民法に置かれている請負についてのルールも確認しておくべきです。
なお、あくまで民法は基本ルールですので、ビジネス上の行為については「商法」の確認も欠かせません。一般に適用されるのが民法で、商人が行う特定の行為については商法による、という関係を知っておきましょう。
また、典型契約以外に関しては消費者契約法や特定商取引法など、他の法律についても必要に応じて確認すべきです。
個人情報保護法
顧客の情報を管理する場合には「個人情報保護法」の内容を理解し、同法に準拠した運用をしていかなければなりません。
同法は、個人情報の適切な取扱いにより個人の権利利益を守るとともに、効果的な活用によるビジネスの発展、経済社会の活性化などを目的としています。
個人情報を取扱う企業が遵守すべき義務など定めており、データの利活用が重視される昨今においては特に配慮すべき法律であるといえます。世界的にも個人情報の取扱いについては注目が集まっており、ずさんな管理体制によって情報を漏洩してしまったときには社会的な信用を大きく落としてしまいます。
また、同法は法改正が比較的頻繁になされています。2022年4月にも改正法が施行され、従来とはルールが変わりました。例えば、本人による請求権が拡充され、重大な漏洩が発生したときや利用する必要がなくなったときにもデータの利用停止や消去が求められるようになります。企業側には、漏洩発生後、個人情報保護委員会および本人への報告が義務付けられますし、罰則の重さも引き上げられています。法人には重い罰金が科されるため、これまで以上に個人情報の扱いには留意する必要性が高まっています。
労働基準法
従業員を雇用する企業のすべてが「労働基準法」に従わなければなりません。どのような企業運営をしていようが、同法は国家公務員などを除くすべての労働者に適用されるからです。
この法律は雇用に関する規律を定めたものですが、主に労働者側を保護するという目的を持ちます。本来、契約は法人であろうと私人であろうと対等な立場で締結できるのですが、企業と一労働者では事実上の力関係に差があり過ぎるからです。一方的に不利な契約を押し付けられるおそれがあるため、これを避け、最低限の労働環境を守るために同法が設けられています。
そのため経営者などの使用者、労務管理をする担当者、法務部門などは労働基準法を理解して労働環境を構築していかなければなりません。
また、関連するその他の法律として、労働者の安全確保と快適な職場の形成を目的とする「労働安全衛生法」、労働者が対等に交渉できることを目指す「労働組合法」、安全で円滑な労働契約実現を目指す「労働契約法」などもあります。
これらの法律も比較的社会情勢の変化が反映されやすいため、改正の動向はチェックしておくことが大事です。
その他、業務内容に応じて知っておくとよい法律
企業法務に必要な法律を多数紹介してきましたが、知っておくべき法律は他にもあります。
上述した内容は基本的にどの企業にも求められるものですが、業種や業務スタイルによって個別にチェックすべき法令があります。
例えば、契約などに係る「景品表示法」「独占禁止法」「下請法」、知的財産権などに係る「特許法」「商標法」「著作権法」「意匠法」、債権回収や債権管理などに係る「民事保全法」「民事執行法」があります。
法務部門で従事する場合には自社での業務で必要な分野を特定し、まずはその分野内で知識を深めることで、コンプライアンスの遵守とリスク回避につながります。
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企業法務の担当者に必要なスキル
企業法務に必要なものは知識だけではありません。知識を上手く使いこなし、企業を守るとともに発展に寄与するためのスキルがなければなりません。
コミュニケーション能力
様々な仕事で「コミュニケーション能力が重要である」と説かれますが、企業法務もその例外ではありません。しかしながら、その具体的な意味は職種によって異なります。
例えば、企業法務において重視されるコミュニケーション能力は「事業部門と建設的対話ができる能力」「リスク最小化に向けて十分な協議ができる能力」などです。
こうした社内でのコミュニケーションに加え、契約審査などにあたって関係者と直接相対することもあるため、この場面でのコミュニケーション能力も大事です。社外の者とも積極的・主体的にコミュニケーションを取り、法的見地に基づいた議論・調整ができなければなりません。
わかりやすい説明能力
法務部門がする仕事は専門性が高く、他の部署からするとよくわからないというケースもあります。
このとき、法務担当は法令に詳しくない者に対して説明をしなければならないのですが、この説明が上手くできなければ企業法務全体としての機能にも支障をきたします。
噛み砕いて説明をするには法律的な緻密さをある程度損なうことになりますので、「何を欠いても良いか」が判断できる能力は重要です。
リスクの発見・分析能力
企業法務にはガーディアンとしての役割もあると説明しましたが、そのためにはリスクが発見できる能力や、リスク分析能力が必要です。
一見問題のないように見える案件からも潜在的なリスクを見つけ、取れるリスク・取れないリスクの見極めをしなければいけません。リスクはゼロであるほうが良いですが、リスクを避けるばかりでは発展できません。そこである程度のリスクを許容しつつ、攻めた活動も必要です。
法務担当には、リスク回避と機会喪失のバランス感覚が重要なのです。
ソリューションの提案力と判断力
リスクの分析だけでなく、その結果をもとに、経営陣・事業部門等へリスク低減策などのソリューションが提案できる能力も必要です。客観的な法的分析に加え、企業行動との関連付けもできなければなりません。
そのため、企業法務には既存のルール内で最適化させるだけでなく、改革も視野に新たな提案ができる判断力や情報収集能力も求められます。
英語力
グローバル化が進んでいることから、国際法務を担当する可能性もあります。
そういったケースでは英語で作成された契約書や条文を理解したり、それを自社内で説明するために正確に翻訳したりする必要があります。さらには、外国企業と交渉をすることもありますので、英語でディベートができるほどの力があると理想的です。
取得すると役立つ、企業法務に関連する資格
企業法務は資格を取得していないと従事できない仕事ではありませんが、資格を持っておくとより積極的に業務に関与できますし、資格取得に向けた取り組みが実務で役立つこともあります。
例えば、弁護士や司法書士、行政書士などは法律系資格の代表例です。試験はここで紹介した民法や商法、会社法などから出題されるため、実務を経験する前でも各法令への理解を深められます。他にも、知的財産権に関する業務を多く扱う企業であれば弁理士資格が役立つでしょう。
また、これら国家資格へのチャレンジはハードルが高いと感じる方でも、「ビジネス実務法務検定」「ビジネスコンプライアンス検定」「個人情報保護士」「知的財産管理技能検定」などはおすすめです。弁護士や司法書士などを目指す場合に比べて、試験対策が長期化しにくいですし、より特定分野に特化した、実務向きの検定もあります。
特にビジネス実務法務検定はその名称通り、特に法務担当者に向いています。ビジネスにおける法務の実務に即した法律知識が出題されますので、法務担当のみならず営業担当者や経営者が受験する例もあります。
中小企業が企業法務を内製化するポイントは?
中小企業の場合、法務部門を置くのが難しいケースもあるでしょう。しかし、法務の業務自体はどの企業にも必要です。そこで、以下では中小企業における法務の内製化に関するポイントを紹介します。
アウトソースする業務を洗い出し、弁護士と提携する
まずは、どの業務をアウトソーシングするのか、コストパフォーマンスや業務の性質などを鑑みて洗い出すところから始めます。
あらゆる業務を内部で対応すれば外注する費用はカットできるものの、かえって業務効率の悪化を招きますし、知識やノウハウが足りないまま対応するとリスクが高まります。そのため、社内でどこまでカバーできるのか、効率的に業務がこなせるのかを検討し、必要に応じて外部の専門家に委託するという選択肢も持っておくことが大事です。
洗い出しができれば、アウトソースすべき業務について弁護士との連携を図ります。顧問弁護士を置くことまではできなくても、何かトラブルが起きたときやわからないことがあったとき、すぐに相談できる弁護士を見つけておくことが大切です。
信頼できる弁護士を探すためには時間が必要であり、異常事態に陥ってから着手したのでは対応に遅れてしまう可能性があります。
研修の実施など、企業法務担当への教育を行う
担当者のスキルアップも非常に重要です。内部で十分なノウハウが蓄積され、知識を持った人員が集まっていれば、外部に依頼する範囲も縮小できますし、よりスムーズに各業務へ対応できるようになります。
そこで、いくつかの方法によって担当者への教育を実施しましょう。
例えば、企業法務担当者向けに実施されている外部研修を利用したり、ロースクールへ短期留学させたりするなど、コストをかけてでも教育は行うべきです。海外企業との取引が多いのであれば、海外のロースクールへの留学や、海外で実地研修させるといった方法も有効です。特に語学に関する事項については、机上の知識よりも実際の会話など、実地での経験を通じて習得した方がより高度な能力が身につきます。一時的に稼働人員が減少するといったデメリットもありますが、長期的な視野で人材育成を行うことも重要です。
また、法務業務そのものへの理解に加え、自社の経営状況や商材への理解を深めることも大切です。その観点からは、経営会議や事業部門会議に参加したり、他部門の業務を兼務したりすることも有効な学習機会となります。
企業法務事務を効率化するシステムの導入
最近では法務業務を効率化するクラウドサービスも多く展開されており、これらの活用も内製化の一助となります。また、最も短期的に成果を出せる手法ともいえます。
例えば、「ContractS CLM」というクラウド型契約マネジメントシステムであれば、ワンプラットフォームで契約書の作成から管理までが実行できます。契約書関連の負担が大幅に削減でき、コンプライアンス上のリスク回避にもつながります。
他にも多様なシステムがあります。自社のWebサイトに訪問してきた者のパーソナルデータを守るための複合された機能を持つシステムや、契約書などの翻訳を自動で行えるAI自動翻訳システムなどがあります。自社の状況に応じたシステムを導入することによって、より効率的かつ低リスクの企業法務事務が実現できるようになるでしょう。
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まとめ
企業法務を部署として設けていない企業も多いですが、法務事務が十分に機能していない状態は非常にリスクが高いです。コンプライアンス上の不備が発生したり、外部との取引で不利な立場に立たされたりするおそれもあります。
法務担当者に求められる能力は、多様な法律に関する知識や高度なコミュニケーションスキルなど多岐にわたるため、能力を備えた人材を確保するだけでなく継続的に教育を行うことが重要です。
また、社内で十分な体制構築やノウハウ蓄積がなされていない段階でも、弁護士と連携したり、法務に関するシステムを導入したりすることでカバーできます。