ノウハウ 【2022年施行】年金制度改正法の成立!改正ポイントと与える影響は?
更新日:2024年10月17日
投稿日:2021年09月30日
【2022年施行】年金制度改正法の成立!改正ポイントと与える影響は?
2022年4月に、年金制度改正法が施行されます。業種や年齢を問わず、幅広い世代に影響のある年金制度は、今回の改正でどのような点がポイントとなってくるのでしょうか。
本記事では、日本における年金制度の概要や、2022年4月に施行される「年金制度改正法」についてわかりやすく解説しています。年金制度の改正によって想定される影響や、企業が必要な対応などについても紹介していますので、法務や人事、労務に関わる業務の参考としてお役立てください。
そもそも日本の年金制度はどうなっている?
年金制度改正について理解する前知識として、そもそも日本の年金制度はどうなっているのかについて押さえておきましょう。
国民の生活を支えるための制度
日本の年金制度とは、一定の条件に該当する場合に、国から公的にお金が支給される制度をさします。
年金を受給するためには、年金制度へ加入することに加え、加入中は決まった額のお金を年金として納めることが必要です。
年金には「国民年金」と「厚生年金」のほか、任意で加入できる「私的年金」の3つに大きく分けられます。
種類ごとに見る年金制度
「国民年金」「厚生年金」「私的年金」の3つの年金制度は、それぞれ下記のような特徴を持っています。
国民年金
20歳から60歳までの、日本に住むすべての人が加入する公的年金です。状況に応じて減免制度などもありますが、学生や自営業者、専業主婦など、職種を問わず加入義務のあるもので「基礎年金」とも呼ばれます。
「老齢基礎年金」「遺族基礎年金」「障害基礎年金」など、受給する際の名称がことなる場合でも、同じ基礎年金から支給されるものです。
国民年金の納付額は一律ですが、毎年見直しが実施されるため、改定によって金額が変わることもあります。
厚生年金
会社員や公務員などが加入する公的年金です。厚生年金は収入に応じて納付額がことなります。国民年金に上乗せする形で納付するもので、納付額は事業者と従業員が折半する形となり、給与から差し引かれて支払われます。
私的年金
国民年金と厚生年金以外に、希望する人が任意で加入する年金です。「確定給付企業年金」や「確定拠出年金」「年金基金」と呼ばれるものがこれにあたります。
職業や扶養状況によって加入している年金はことなる
国民年金のうち、企業や国に雇用され、給与収入を得ている従業員は「第2号被保険者」、自営業者や個人事業主は「第1号被保険者」、専業主婦や学生は「第3号被保険者」と呼ばれます。
第2号被保険者は国民年金と厚生年金の2種類へ加入している場合がほとんどで、任意で私的年金の3種類に加入している人もいます。
第1号被保険者と第3号被保険者は、基本的に国民年金のみの加入となりますが、任意で私的年金へ加入している場合には、2種類の保険料を納めている場合もあるでしょう。
また、現在厚生年金へ加入していなくても、過去に加入していた期間があれば、その期間分は受給対象となります。
年金制度改正法とはどんな法律?
年金制度の概要についてわかったところで、年金制度改正法(令和2年法律第40号)の概要についても見ていきましょう。
2020年に公布された年金制度の改正法
年金制度改正法とは、上記で挙げた年金制度のうち、現代社会に即した形へと見直すための法律です。
年金制度改正法の公布は2020年6月に行われており、2022年4月に施行されました。
改正されたポイントについては後述しますが、全体的には女性の社会進出や高齢者の就業促進、国民の経済的な基盤の充実などを図るため、従来の年金制度を強化する内容となっています。
年金制度改正法のポイント
2022年4月に施行された年金制度改正法のうち、ポイントとなるのは以下の点になります。
・被保険者の適用拡大
厚生年金の適用要件のうち、雇用する従業員の総数が少ない企業においても適用となるよう、範囲が拡大されることとなりました。
また、厚生年金へ加入できる従業員の要件についても、一部要件の撤廃が行われ、これまで加入できなかった従業員も厚生年金への加入が可能となります。
・在職時年金受給に関する見直し
65歳以上の厚生年金加入者は、いくら厚生年金を納めたとしても、70歳になるか、退職するまで年金受給額が増額されなかったところを、今回の改正によって、納付額に応じた受給額の見直しが行われることとなりました。
また、在職時に支給停止となる賃金の上限額も大幅に引き上げられています。
・年金受給開始時期の改定
年金の受給開始時期について、これまで60~70歳の間となっていたところを、今回の改正によって60~75歳まで引き上げられています。
・確定拠出年金の加入要件見直し
確定拠出年金についても、加入可能な年齢や受給開始時期の選択肢が見直され、拡大されています。
このほかにも、未婚のシングルマザーが国民年金の減免対象要件に追加や、児童扶養手当と障害年金の併給調整、年金生活者支援給付の対象者の見直しなど、さまざまな点が段階的に改正されています。
年金制度改正法施行で何が変わる?
上記で挙げたような年金制度改正法が施行されることで、年金の何が変わるのでしょうか。
また、今回の改正について、企業側ではどのような対応が必要となるのでしょうか。
被保険者の適用拡大によって変わること
これまで、厚生年金は正社員や従業員数501人以上を抱える企業で働くフルタイムのパート、アルバイトなどに限られてきました。
そのため、従業員の少ない企業で働く短期間労働者は、厚生年金保険、健康保険に加入する事ができず、老後の暮らしに不安を抱える人が増えており、問題となっていたのです。
今回の年金法改正では、厚生年金の加入要件の1つである「従業員数501人以上」について、段階的に101人以上(2022年10月)、51人以上(2024年10月)まで引き下げられます。
この改正によって、110万人ほどの従業員が厚生年金加入の対象となる見込みです。
企業側の対応としては、対象となる規模に該当する人事部門などにおいて、適宜社会保険加入への手続きを進めていくこととなるでしょう。
厚生年金は従業員と事業者との折半で支払うこととなるため、加入対象となる人数分の人件費を確保する必要もあります。
在職時年金受給の見直しによって変わること
60~64歳で就労している従業員について、改正前は賃金に見合った年金受給額の増額がなされませんでした。
また、年金を受給しながら働いている場合には、一定以上の賃金を得ると支給停止となっていました。
これらの制度が、高齢者の働く意欲を損なう要因となりやすかったため、今回の改正によって大幅に見直されています。
改正後は、年金の支給停止上限額について、60~64歳はこれまでの28万円から47万円まで引き上げられました。
また、年金受給額についても毎年見直しが実施され、賃金に応じて受給額に反映できるようになっています。
企業側の対応としては、就労している高齢者のうち、改正対象に該当する場合には就労の幅を広げる意欲があるかなどを把握し、担当業務に応じた賃金や雇用契約の見直しなどが必要となるケースもあるでしょう。
受給開始年齢の拡大によって変わること
年金受給の開始時期が60~70歳のところを、改正によって60~75歳へと拡大されることとなりました。
この改正によって、人によっては75歳まで年金の受給開始を延ばし、将来の受給額を増やす選択肢が取れることとなります。
この改正制度改正は、2022年4月1日以降に70歳に到達する方(昭和27年4月2日以降に生まれた方)が対象です。なお、現在65歳からとなっている年金支給開始年齢の引上げは行いません。
高齢の従業員が多い企業や、高齢者を積極的に採用している企業では、定年を迎えた後の働き方などについて、体制を見直す必要があるかもしれません。
確定拠出年金の要件見直しによって変わること
年金制度改正によって、私的年金である確定拠出年金の加入要件にも改正が行われることとなりました。
企業型DCなどの場合は加入可能年齢が65歳未満から70歳未満へ、個人型では60歳未満から65歳未満へそれぞれ引き上げられています。
中小企業向け制度の範囲拡大や、個人型確定拠出年金の加入要件緩和などについても併せて改正となりました。
これらの年金型サービスを提供している事業者は、対象者のリストアップや契約内容の見直しといった対応が必要となるでしょう。
参照元:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html
年金制度が与える影響は?
年金制度が改正されることにより、働き方や年金に対する意識などについて、以下のような影響があると考えられます。
厚生年金の加入者が増え、老後の安心を得やすくなる
今回の改正によって、これまで厚生年金に加入できなかった多くの人が加入対象となります。
「サラリーマンを支える専業主婦」「定年後は元気でも年金のみを頼りに暮らす高齢者」といったステレオタイプなライフプランだけでなく、多様な働き方を選ぶことができるようになるでしょう。
「出産後数年間は専業主婦として家庭に入り、育児と共に段階的に就労時間を延ばす間も厚生年金に加入できる」となれば、働く際の選択肢も増えていくでしょう。
また、60~64歳までの従業員のモチベーションにも良い変化が出ると期待されます。改正前に抱えていた不満が改正後に取り除かれれば「元気なうちはできるだけ働いていたい」と考える高齢者も増えると予想されます。
少子化で人手不足に悩む企業にとっても、熟練した技術を有する人材が長く残ってくれることは、大きな支えとなるでしょう。
何よりも「老後に受け取る年金が充実する」という点は、多くの人にとって安心となると予想されます。
年金に対する意識の変化
年金制度の改正によって、これまで加入対象でなかった人や、就労しても年金が減ることはあっても、増額に繋がらなかった人にとっては、年金に対する意識を高める材料となるでしょう。
国民年金や厚生年金への加入に対して積極的になる人が増加すれば、年金制度はより強い基盤を作ることが可能です。
「厚生年金に加入できる職場であるか」「高齢であっても年金に反映される賃金が得られる企業であるか」といった視点を持つなど、年金に対する人々の意識も高まると予想されます。
私的年金への加入者増加が見込まれる
国民年金や厚生年金といった公的年金だけでなく、任意に加入する私的年金制度についても、法改正後は興味を示す人の割合が増えると予想されます。
今回の改正では、企業型DC加入者がiDeCo(個人型DC)へ加入する際の要件が緩和されたり、私的年金への加入可能年齢が引き上げられたりしています。
「公的年金だけでなく、年金の運用で老後を安定させたい」と考える人にとって、こうした要件の緩和は、私的年金加入への後押しとなるでしょう。
「老後の年金」以外の年金制度についての周知
年金というと「老後に受け取るもの」とイメージしがちですが、実際には配偶者が亡くなった際に支給される年金や、事故や病気で障害を抱えた際に支給される年金、児童扶養手当といった若いうちに支給されるものも年金に含まれます。
今回の改正では、児童手当と障害年金の併給調整や、未婚のひとり親家庭の年金減免といった要件についても改正が行われています。
こうしたことから、老後の収入としてだけでなく、生活において万が一に備えるための制度として、年金は重要なものであるという周知が期待されるでしょう。
さまざまな状況や年代の人々が暮らしの安定を得て、企業規模や勤務時間に縛られることなく年金制度の恩恵を受けられるようになれば、就労に対する意欲も向上すると予想されます。
企業側でも、必要に応じて該当者へ個別に面談を行ったり、研修などを通じて年金制度の周知に努めたりすることで、従業員と良好な関係を築くきっかけとすることができるでしょう。
担当部門においては、従業員ごとに契約内容の見直しや、手続きに変更点がないかのチェックアップが急務となります。
契約書や名簿などの管理・チェックをスムーズにできる制度の導入なども、検討が急がれることとなるでしょう。
まとめ
年金制度は、日本に暮らすほとんどの人が加入している制度で、多くの場合は国民年金と厚生年金の2階建てにより、老後の受給額を一定以上確保できるものです。
これまでの年金制度では、サラリーマンや規模の大きな企業で働く人、60歳までの従業員など、限られた条件の人以外は年金を有効活用しにくい問題点がありました。
今回の改正では、厚生年金の加入要件拡大や、高齢者の年金受給額の見直し、受給中の従業員が支給停止となる賃金上限の引き上げなどをメインに改正が施行されています。
年金制度の改正によって、年金制度に加入できる人口が増え、就労意欲も高まることが期待されます。
企業側でも、改正に応じる形で、適宜契約などの見直しが必要となるでしょう。
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