ノウハウ 2021年4月施行された高年齢者雇用安定法!改正ポイントについて解説。
更新日:2024年10月17日
投稿日:2021年10月4日
2021年4月施行された高年齢者雇用安定法!改正ポイントについて解説。
2020年に改正された高年齢者雇用安定法が2021年4月に施行されました。今回の改正について何となく理解はしていても「具体的に高年齢者雇用安定法のどのような点が改正されたのかよくわからない」という方も多いのではないでしょうか。
今回の改正では、70歳までの高年齢者が雇用される機会が努力義務として加わりました。
本記事では、高年齢者雇用安定法の概要や改正ポイント、企業が必要な対応、今後70歳までの雇用についての問題点などもあわせて解説します。
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高年齢者雇用安定法とはどんな法律?
高年齢者雇用安定法とは、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)」を正式名称とする法律の略称です。
本法律の目的は「定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もつて高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与すること」(高年齢者雇用安定法第1条)とされています。
今回の改正の趣旨は、労働者として働く年齢層である生産年齢人口(15〜64歳)の減少の予測から、定年の引上げ、高年齢者の安定した雇用の確保を図り、少子高齢化社会が進んでも雇用確保や労働環境の整備する事とされています。
2021年の改正前は、2012年に「65歳までの雇用確保」の義務化を目的とした高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律(平成24年法律第78号)が成立しており、2013年4月1日に施行されました。
参照元:
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和四十六年法律第六十八号)
厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律の概要」
高年齢者雇用安定法の改正ポイントは?
本章では、2021年4月に施行された高齢者雇用安定法の改正ポイントを解説していきます。
改正前の高齢者雇用安定法は?
改正ポイントを解説する前に、改正前の高齢者雇用安定法について確認します。
改正前の高年齢者雇用安定法は大きく「60歳未満の定年廃止(高年齢者雇用安定法第8条)」と「65歳までの雇用確保措置(高齢者雇用安定法第9条)が大きな柱でした。当該労働者を60歳まで雇用していた事業主がすべて対象となります。
改正後の高年齢者雇用安定法は?
2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法は、2020年3月に改正案が成立しました。
改正ポイントは、改正前の「65歳までの雇用確保(義務)」を「65歳から70歳までの就業機会を確保(努力義務)」が追加されたことです。
具体的に65歳から70歳までの就業機会を確保するための高年齢者就業確保措置(高年齢者雇用安定法第10条の2)として、どのような努力義務が加わったのでしょうか。努力義務を確認していきましょう。
①70歳までの定年引き上げ ②定年制の廃止 ③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 ⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a)事業主が自ら実施する社会貢献事業 b)事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が社会貢献事業 |
①から③は雇用により高年齢者の就業を確保する措置です。
④と⑤は、業務委託等、雇用以外の方法で就業を確保する措置(創業支援等措置)です。
両者を合わせて「高年齢者就業確保措置に関する計画」について定める高年齢者雇用安定法10条の3第1項、第2項において高年齢者就業確保措置といいます (高年齢者雇用安定法10条の2第4項)。
厚生労働省は、高年齢者就業確保措置の実施・運用を図るために、「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」を定めているので、この指針を参照しながら行うのが望ましいです。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000689808.pdf
なお、上記①から⑤の措置のうち、複数の措置による対応も可能です。
ただし、複数の措置をとる場合、個々の高年齢者にいずれの措置を適用するかについては、当該高年齢者の希望を聴取し、これを十分に尊重して決定する必要があります。
①~⑤それぞれ選択するときの対応について、詳しく解説していきます。
①70歳までの定年引き上げ ②定年制の廃止 | これらの措置で対応する場合は、就業規則の変更が必要になります。 |
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 | 多くの企業が選択するこちらの措置で対応する場合、65歳で定年退職し再雇用希望があるなら、再雇用は自社でも他社でも可能となります。 旧法では自社や子会社、関連会社での再雇用とされていましたが、他社でも雇用ができるので自社で再雇用が難しい場合でも就業機会を確保できるでしょう。 他社で雇用される場合は、自社と当該他社事業主が「高年齢者を継続雇用する」旨の契約を締結することになります。 |
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 ⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a)事業主が自ら実施する社会貢献事業 b)事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が社会貢献事業
| これらの措置は、創業支援等措置です。 業務委託という選択肢が増えたことは画期的と言えるでしょう。 一方で業務委託は雇用の範囲外なので、諸経費もかからず企業にとってもメリットと言えます。 |
創業支援等措置(雇用によらない措置)を選択した場合、一定の記載事項を含めた計画を作成し、当該計画について過半数労働組合等(※)の同意を得たうえ、労働者に周知する必要があります。
また、下記2つの契約を締結する必要があります。
・高年齢者の就職先となる団体との契約 ・(制度導入後に)個々の高年齢者との業務委託契約や社会貢献活動に従事する契約 |
※過半数労働組合等とは、労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にはその労働組合、労働者の 過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者を指します。
参照元:
創業支援等措置の実施に関する計画の記載例等について
厚生労働省『高年齢者雇用安定法 改正の概要』
高年齢者雇用安定法改正で企業が必要な対応は?
70歳までの高年齢者が就業する機会を確保されるように高年齢者雇用安定法は改正されました。高年齢者の就業機会を確保するために、企業はどのような対応が必要でしょうか。
大きく下記2つの対応が必要となります。
- 想定される2つのリスクへの対応
- 70歳までの就業機会確保への対応
想定される2つのリスク
高年齢者雇用安定法が改正されて、定年が70歳まで努力義務として引き上げられた場合、企業にとっては大きく2つのリスクの発生が想定されます。
人件費の増加
高年齢者が長年の勤務で得た知識や技術、経験を企業が十分に活かせる場合、当該人件費は事業を活かす事につながるでしょう。一方、高年齢者の知識や技術、経験を十分に活かせないような、人材配置を考慮しない雇用をしてしまうと、当該人件費を事業に活かすことができない可能性があります。
また老齢厚生年金の支給が男性は2025年から、女性は2030年から65歳からに引き上げられます。高年齢雇用継続給付も縮小の流れにあるため雇用条件を下げることが難しくなるでしょう。
参照元:支給開始年齢について
労災のリスク増大
労働者が年齢を重ねる事で体力や集中力が落ち、その結果、労災のリスクが大きくなる事は事実です。
65歳までの勤務時間や休憩時間では、労働者も無意識のうちに心身に負荷がかかりミスを誘発してしまうこともあるでしょう。
工事現場などでは65歳から70歳までの労働者が高所で作業したり重いものを持ったりしないように配慮することが必要です。後輩の指導係として人員配置をするという選択肢もあります。
また高年齢者となり、持病を抱えながら働く人が増える事も予想されます。高年齢者に長く健康な状態で働いてもらうためには、定期検診を受けられるよう配慮したり通院を考慮した通勤日程を組んだりすることも必要でしょう。
体力や認知能力をチェックするシステムを導入し、労働者が万全の状態で働けるのか事業主側が把握するだけでなく労働者側が自覚することも大切なことです。
70歳までの就業機会確保への対応
企業(事業主)側は労働者の中で希望する者全員に再雇用の機会を与える努力義務があります。
あくまで努力義務なので「70歳までの就業機会確保をできるように努める」という意味でですが、何もしない場合ハローワークからの行政指導や助言の対象となる可能性もあります。
指導をされた後改善が見られない場合は、該当措置の実施に関する計画の作成を求められる可能性もあります。
企業(事業主)側は、努力義務ではありますが、雇用する労働者全てが70歳までの就業できる機会をつくる事が求められます。
参照:厚生労働省『70歳までの就業機会確保(改正高年齢者雇用安定法)』
また上記高年齢者雇用安定法改正ポイントの③~⑤にあたる継続雇用制度と創業支援等措置については、対象者を限定する基準を設けることができます。
対象者を限定する基準は過半数労働組合等と事業主が十分に協議した上で、各企業の実情に応じて決定します。しかし十分に協議された基準であっても、企業(事業主)側の主観的な考えにより特定の高年齢者を対象者から除外することは禁止されています。
厚生労働省が定める「基準として不適切な例」を下記の4つです。
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参照元:
厚生労働省『高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)』(令和3年2月26日時点)
このように客観的に基準に達していないと判断しづらい場合、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するので上述したような基準は設けないようにしましょう。
では次にどのように基準を定めるべきか、意識するべき点を2つご紹介します。
1.意欲や能力を具体的に測れる基準であること(具体性) | 労働者自ら基準に適合するか否かを一定程度予見することができ、到達していない労働者に対して能力開発等を促すことができるような具体性を有するものであること。 |
2.必要とされる能力等が客観的に示されていて、該当するかどうか予見できるもの(客観性) | 企業や上司等の主観的な選択ではなく、基準に該当するか否かを労働者が客観的に予見可能で、該当の有無について紛争を招くことのないよう配慮されたものであること。 |
参照元:
厚生労働省『高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)』(令和3年2月26日時点)
高年齢者雇用安定法成立から50年以上経過して、定年制は60歳から65歳、努力義務ではありますが70歳と引き上げられています。少子高齢化が進むなかで、労働人口の確保、社会保障制度維持の観点からさらなる定年制の引き上げや将来的に撤廃される可能性もあります。
企業(事業主)側は将来の定年制引き上げ、撤廃を見据えて、高齢者の雇用機会確保や契約書の見直し、リスクの想定などの準備を進める事が大切です。
社会保障制度を維持するため?なぜ高年齢者雇用安定法は改正されたのか?
本章では、なぜ2021年に高年齢者雇用安定法を施行することになったのか、法律の改正が実施された背景を解説します。
また、雇用を延長することに関する現状や今後の課題をあわせて知ることで、企業側・労働者側の双方が法律について理解する事が大事になります。
- 高年齢者雇用安定法改正の背景
- 雇用延長の現状と今後の課題
高年齢者雇用安定法改正の背景
少子高齢化が加速している近年、労働人口の減少は避けられないため、労働力の確保として定年を引き上げることが必要不可欠と言えるでしょう。
また年金や医療、介護にあてられる社会保障給付費が膨れ上がり、労働世代の減少に対し給付対象である高齢者の増加を食い止められないのが現状です。
2025年には65歳以上の高齢者人口が約3,600万人(人口の約30.5%)となることが予想されることからも、労働人口のバランスを考えた制度を打ち出す必要があるでしょう。
そのため政府が今回の改正を行ったのは、社会保障制度を維持するためでもあると言えます。
雇用延長の現状と今後の課題
60歳以降は社員のまま雇用されることは少なく一度社員としての契約を終了してから、パートやアルバイトとして再雇用する企業が多いです。そのため貢献度の高い労働者の場合、低賃金で社員と同様の働きを求められている可能性もあるでしょう。
「60歳または65歳以降は働きたくない」と考えている高年齢者も多く、全ての高年齢者に働く意欲や体力、健康状態が期待できるわけではありません。
一方で65歳以降働かずに年金のみで生活することは難しいとも言えます。人生100年時代突入となり、65歳で退職しても30年以上働かずに生活するには、年金以外にも個人での貯蓄が1,500~3,000万円必要と言われています。
金融庁が2019年に金融審議会市場ワーキンググループで報告した「老後資金2,000万円不足」問題も話題になりました。
高年齢者自らが働き老後の資金を増やすことが、少子高齢化の現代には必要なのです。
参照元:
金融庁『金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」令和元年6月3日』
まとめ
本記事では、2021年4月に施行された高年齢者雇用安定法の改正について解説してきました。
高年齢者雇用安定法は、少子高齢化社会が進んでも雇用確保や労働環境の整備する事が目的とされています。
2021年の施行では改正ポイントとして、70歳までの高年齢者が雇用される機会が努力義務として加わりました。
高年齢者の雇用の機会が創出される事はメリットですが、人件費や労災リスク、再雇用の対応などが企業側で必要な対応となります。
政府主導での社会保障制度を維持する事も、今回の改正も目的とも言えます。
高年齢者雇用安定法改正により、就業規則改訂などの社内文書の見直しなどの業務の発生が予測されます。契約業務の電子化で業務効率化、契約DXを推進しましょう。