ノウハウ 稟議書の電子化のメリット、デメリットとは?そもそも稟議書ってなに?
更新日:2024年10月17日
投稿日:2021年08月30日
稟議書の電子化のメリット、デメリットとは?そもそも稟議書ってなに?
これまで紙で締結をされてきていた稟議書ですが、稟議にかかる時間・手間を省くために近年電子化が進んできています。
稟議書は日本独自の文化であり、意思決定のスピードを重要視する海外の企業ではほとんど見られません。承認までに時間がかかることもあり、めんどくさいと感じる方も多いでしょう。一方で、多くの人が意思決定に関われるという点で、みんなが納得することによって物事が進んでいく日本の企業文化に非常に則しているといえます。
まずはこの稟議書そのものについての説明から、稟議書の電子化におけるメリットやデメリットについて本記事でまとめました。
稟議書とは?
稟議書は、自身の裁量や権限で決定できない事項について、上層部からの承認を得るための文書です。稟議とは会社に承認を得ることをいいます。
日本の企業では、会議などの合議体によって意思決定が行われます。しかし、会議は時間と経費を必要とするため、簡単な業務は、起案者に一任することもあります。その際に、多数の関係者を巻き込み、より慎重かつ広い視野で事案を検討する仕組みが、稟議です。
また、あとあと第三者から監査が行われる可能性を考えると、形成された意思の内容及びその形成過程は、文書の形で残しておくことが望ましいといえます。
稟議によって意思決定する場合には、まず立案者が最終的に決定される意思内容を示した文書を作成し、この文書を回覧し、決裁することによって、最終的な意思決定が行われます。
稟議書は、購買・調達、人事関連、受注、投資などに関するものが多く、内容や扱う金額などにより、企業ごとに様々な稟議ルールが決められています。
稟議書の電子化とは?
これまで稟議書は紙で作成されることが多かったのですが、近年ではワークフローシステムで稟議書を電子化する企業が徐々に増えています。ワークフローシステムとは、組織内の様々な申請・承認を電子化して、効率的に回覧するためのシステムです。
稟議書をテンプレートで作成したり、ExcelやWordで作成したフォームをアップロードしたりすることによって、回覧や承認のフローもシステム上で行われ、電子印鑑や承認もクリック一つで行えます。
ワークフローシステムは「クラウド型」「オンプレミス型」に分類できます。
オンプレミスとは、サーバーやネットワーク機器、ソフトウェアなどを自社で保有し運用するシステムの利用形態です。クラウド型は、これらを自社で保有するのでなく、サービスとして提供されているものを利用してシステムを運用する形態です。
社内ローカルネットワークのオンプレミス型は初期導入にかなりの投資が必要です。少人数の企業にとって実用性が高いのはクラウド型といえます。
ワークフローシステムの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
▶関連記事:ワークフローシステムとは?導入メリットや方法を解説
電子化できる書類の範囲
業務に用いる文書の中でも、以下に該当する文書以外であれば電子化ができます。
・事業用借地権設定契約書(借地借家法第23条第3項) ・農地の賃貸借契約書(農地法第21条) ・任意後見契約(任意後見法第3条) |
上記は各法律により「公正証書で作成すること」と決められているため、電子化ができないからです。
また、国税関係帳簿や決算書類の一部は電子化が可能な一方で、そのデータを紙に出力して手書きで編集のうえスキャンして再び電子化するというやり方はできません。
稟議書は無料で電子化できるが注意が必要
ワークフローシステムの多くは有料で提供されていますが、中には無料版も用意されているサービスもあります。
そのため、稟議書を無料で電子化すること自体は可能です。
しかし稟議書の場合、ただ文書を電子化するだけでなく申請・承認フローから管理まで行う必要があります。
さらに社外とやり取りする場合、セキュリティ対策のためにタイムスタンプや電子署名を付与しなければなりません。
これらの機能が搭載された無料システムは少ないため、実際に業務へ取り入れるのであれば機能が充実している有料版の利用をおすすめします。
紙の稟議書は何が問題なのか
稟議業務といえば従来は紙ベースでの運用が主流でしたが、紙の稟議書には以下のようなデメリットがあります。
・承認者が複数人だと回覧に時間がかかる ・承認の進捗状況が確認しにくい ・保存に無駄なコストやスペースを費やすことになる |
稟議を頻繁に行う企業ほど、上記のような弊害がより顕著となります。
すでに「稟議業務の効率が悪い」「稟議書がなかなか承認してもらえない」といった悩みを抱えている場合、その原因は紙ベースの運用にあると考えられます。
稟議書を電子化するメリット
プロセスを可視化できる
紙の稟議書だと、回覧してからどの承認者まで承認を得られているのかという進捗状況の確認が難しくなります。
一方で電子化した稟議書なら、誰が・いつ承認しているのかをシステム上で確認できます。
承認までのプロセスが可視化され、進捗状況の確認がスムーズになる点は電子化システムにしかないメリットです。
決裁までのプロセスが迅速化
紙の稟議書は、一人一人に回覧していく必要がありました。
しかし、電子化システムでは、案件に合わせて、オンライン上で複雑な承認ルートを設定して、承認依頼を出すことができます。
そして、システム上で履歴が残るので、起案者を含む全員が進捗を確認できます。
また、稟議書を電子化すれば出社していない人にも承認をもらうこともできるので、結果的に、稟議の申請から最終決裁までスピーディーな流れを作ることができます。
申請側と承認側の手間の削減
電子化システムを用いて稟議を申請すると、自動的に承認者へ承認が必要である旨メッセージが届きます。
申請するために席を立って承認者へ稟議書を手渡す申請者側の手間、稟議書を受け取って1枚ずつ確認のうえ押印する承認者側の手間のどちらも省くことが可能です。
決裁までのプロセスに伴う負担が減るため、各々は自分の主業務に集中する余裕が生まれて業務効率化にもつながります。
ペーパーレス化を実現
稟議書を電子化することで、紙を印刷する必要がなくなります。紙の稟議書がなければ、用紙代や印刷代なども節約できます。保管するスペースや人件費も省けます。
また、電子化することによって件名や日付、起案者などの情報を簡単に検索することができます。
さらに、電子化システムは、基本的に承認後に文書の改ざんができなくなっています。
稟議書の電子化は改ざんや盗難のリスクも防ぐことができ、重要書類の取扱いも安心して行えます。
リモートワークに対応可能
新型コロナウイルスが流行している昨今では、リモートワークが推奨されている企業も多いでしょう。
稟議書を電子化すれば、オンラインで稟議の申請から決裁までを完結することができるので、出社が不要となります。社員を感染リスクから守ることができます。
稟議書を電子化するデメリット
稟議書を電子文書化してメールで送信するのは問題解決にならない
稟議書の電子化として、WordやExcelで稟議書を作成し、承認者にメールで送信する方法を取るというケースがあります。新しいシステムを導入しなくて済むので、手軽な方法といえます。
しかし、この場合、起案者が稟議の進捗を確認できなかったり、複雑なワークフローの場合はメールを送受信するのが面倒となったり、稟議の潜在的な問題を解決できないことがあります。
システムが企業の特性に合わない場合がある
ワークフローシステムには非常に様々なものがあります。そのため、システムの機能をよく調べないまま導入しても、その企業の業務の実態に合わない場合には、システムのメリットが感じられないといった問題が生じてしまいます。
また、システムによっては既存のシステムと連携できないものがあります。この場合、システムごとに同じデータを入力しなくてはならなくなります。
せっかく高い料金を支払って導入したのに操作が複雑でうまく活用できなかった場合、導入コストが高いと感じてしまうでしょう。
まずは、従来のフォームをそのまま活用できるかどうかという点や既存のシステムと連携できるかという点に注目して導入の検討をすることをお勧めします。
ワークフローシステムについてはこちらの記事をご覧ください。
社員の電子化に対する意識が低い場合運用しづらい
パソコンなど機械に慣れていない社員が多い場合、稟議書の電子化に抵抗することがあります。「電子化により稟議業務を効率化する」という目的を社員に説明し、ITリテラシーの向上を推奨していくことが大事です。
また、導入する際も、まず一部門から初め、徐々に広範囲に導入していく方法も考えられます。パソコン以外のスマートフォンなどで操作できるかなども重要なポイントとなるかもしれません。
定着のための活動が必要
稟議業務を長く紙ベースで運用していた場合、急に電子化へ移行するとなれば業務に大きな変更が生じます。
特に、電子化システムやパソコンの操作に慣れていない従業員だと抵抗感を覚える可能性もあります。
そのため電子化する場合は説明会などの時間を設け、「電子化が必要な理由」や「電子化のメリット」などの周知や使い方の指導をしておき、電子化システムを社内に定着させることが大切です。
稟議書を書くときのコツ
テンプレートを用意する
まずはテンプレートを用意しましょう。使い慣れた様式の方が作成が楽ですし、内容を確認しやすくなります。
記載すべき項目
項目については、下記は記載が必要とされています。
「決裁区分」:最終的な稟議結果を表示する項目。 「申請日、決裁日」:起案者が申請日、決裁者が決裁日を記入する項目。 「承認欄」:決裁者が記名押印をする項目。 「件名」:稟議内容を簡潔に記入する項目 「稟議内容」:稟議内容を詳細に記入する項目。 「発注先、取引先」:会社概要や所在地、資本金、社員数を記入する項目。 「金額」:必要となる金額、見積書など。 |
稟議書の承認者の多くは、現場の業務についてほとんど理解していないことが多いです。そのため、業務に関わりのない人が読んでもわかるように、なるべく詳細に書きましょう。
承認されない場合はだいたい稟議内容の説明不足であることが多いので、申請に至った経緯、稟議内容のメリットや効果、リスクまできちんと記載することがおすすめです。
特に、メリットや効果については、「〜%のコストを削減できる」、「業務を〜日間短縮できる」など数値化すると承認者にとってわかりやすくなります。リスクについては、その回避方法まで示すと承認が通りやすくなるでしょう。
稟議業務の生産性を上げるためのポイント
稟議業務の生産性を向上させるには、ただ電子化システムを取り入れるだけではなくいくつかのポイントを押さえる必要があります。
まず、現行の承認プロセスを改めて確認しておきましょう。
申請・承認に関わるプロセスを十分に把握していないと、電子化への移行がうまく進みません。
いざ電子化を実施しても、従来の業務に潜んでいた問題点が改善されずスムーズに運用できなくなります。
また、電子化システムの導入が初めてだったり知識がない従業員が多い場合は、サービスを選ぶ際に「シンプルな操作性」を重視すると良いでしょう。
簡単な入力だけで申請から決裁まで進むようなシステムなら、誰でも稟議業務の電子化に適応できます。
稟議書を電子化する方法
稟議書を電子化する主な方法は、以下の通りです。
既存のシステムを使う
自社で活用している基幹システムや、文章管理システムを稟議書の電子化にも活用する方法です。ワークフロー機能が内包されていれば、その機能を使い回覧を行うことも可能な場合があります。
既存のシステムを活用するために、追加費用が掛からない場合もあり社内の人にとって使い慣れたツールであればあるほど社内説明の手間もカットすることも可能です。
オンプレミスのシステムで新しく開発する
現状のシステムをでは求める機能が足りず、クラウドサービスでも対応不可能な自社独自の運用を行いたい場合、自社のためにシステム開発を行うオンプレミスシステムを検討してみましょう。
自社にベストマッチするものが作れる半面、開発期間、費用が長期化、高額であるため導入にはより慎重になる必要があります。
クラウドサービスを利用する
必要に応じてアカウントを増やし、使用できる人数を増やしたり減らしたりとコントロールが効くため組織の成長や変化に柔軟に対応できます。
また、オンプレミスのシステムと比較して、初期投資やランニングコストが低く抑えられることがあり、必要なリソースを必要な分だけ使用することで、無駄な費用を節約できます。
自社に合ったシステムを選ぶ
稟議業務の電子化に失敗しないためには、自社に最適なシステム選びが重要となります。
どんなシステムを選ぶべきかはケースバイケースですが、使いやすさを重視するなら以下のポイントに注目すると良いでしょう。
・直感的に操作できるか ・既存システムとスムーズに連携できるか ・紙の稟議書に近いビジュアルで作成・閲覧できるか ・書類の追加・修正も簡単にできるか |
とはいえ、ホームページ上に記載されている情報だけでは具体的な使用感までは把握できません。
システム選びに迷った場合は、一定期間は無料で有料版と同等の機能を試せる「無料トライアル」があるシステムからピックアップしていくのもおすすめです。
サポート体制を確認する
電子化システムの中にはサポート体制が充実していないものもあり、システム障害などのトラブルが発生しても迅速に解決できないリスクを伴います。
まだ決裁していない稟議書がある場合、トラブルが発生するとそこで流れが止まってしまい、改めて紙で作り直す手間がかかります。
万が一トラブルが発生しても稟議業務に支障が出ないように、サポート体制が充実したシステムを選ぶことをおすすめします。
また、どんなサポートが行われるのかもシステムによって変わります。
サポート窓口は電話・メール・チャットのうちどの問い合わせ方法に対応しているのか、そもそもどんなサポートを行ってくれるのかなど、詳細情報もよく確認しておきましょう。
まとめ
電子帳簿法による規制が緩和されたことによって、書類のペーパーレス化がますます進んでいくと考えられます。
稟議書の電子化は、社内のルールや社員の意識を変えていかなくてはならない点、システムの導入にそれなりのコストがかかる点でデメリットもあります。
しかし、一方で、承認プロセスの迅速化やペーパーレス化によるコスト削減、不正防止などメリットもたくさんあります。
様々な電子システムをを比較検討してから、自社の業務に適切なワークフローシステムを導入して効率的な業務を実現していきましょう。