ノウハウ 【2022年施行】雇用保険法の改正!企業が必要な対応とは。
更新日:2024年10月17日
投稿日:2021年08月26日
【2022年施行】雇用保険法の改正!企業が必要な対応とは。
2022年(令和4年)1月1日より、雇用保険法が改正されます。
今回の改正では、65歳以上の副業者でも労働時間を合算して週20時間以上であれば、雇用保険に加入できるようになります。
今回の改正で、具体的にどの部分が改正され、改正されたことで企業やフリーランスの方がどのような対応を取ればいいのか気になる方もいるでしょう。
そこで本記事では、そもそも雇用保険法とはどのような法律なのかや、今回の改正ポイント・改正法により企業が必要な対応について解説します。
雇用保険法とはどんな法律?
そもそも雇用保険法とはどのような法律なのか、改正のポイントや企業が必要な対応について解説する前に、おさらいしておきましょう。
雇用保険法とは、以下のような目的が定められている法律です。
第一条 雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。
政府が管掌する強制保険制度でもあります。
雇用保険に加入していることで、失業したり収入が減ったりした場合でも、条件を満たすことで、以下のような給付を受けられます。(今回紹介するのは、主要な給付事業である7つです。)
給付事業名 | 内容 |
基本手当 | 条件を満たした求職活動中の求職者に支払われる手当。 |
傷病手当 | 病気やケガで就職できない求職者に、基本手当の代わりに支払われる手当。 |
特例一時金 | 短期雇用特例被保険者(季節労働者など)が失業した際に支払われる手当。 |
教育訓練給付金 | 就職の促進を図るために、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了して、支給要件期間が3年以上の時に支払われる手当。 |
高年齢雇用継続給付 | 60歳以上65歳未満の労働者のうち、賃金が一定の割合に低下した場合に支払われる手当。 |
介護休業給付金 | 介護休業を開始した日前二年間に、みなし被保険者期間が通算して十二箇月以上の時に、支払われる手当。 |
育児休業給付金 | 育児休業を開始した日前二年間に、みなし被保険者期間が通算して十二箇月以上の時に、支払われる手当。 |
雇用保険は労働者だけでなく事業所に対しても支援が行われています。
障がい者や母子家庭の母親・高齢者など就職が困難だとされている者を雇用した際に、支給される特定求職者雇用開発助成金を支援してくれます。
また、非正規労働者が企業内でキャリアアップするための取り組みを行っている企業に支給されるキャリアアップ助成金なども支援可能です。
ちなみに、職業経験や技能・知識などが不足していることで、安定した就職が難しい求職者を一定の期間試行雇用した企業に給付されるトライアル雇用奨励金なども、雇用保険によるものであることを覚えておきましょう。
雇用保険法の改正ポイントは?
それでは、2022年(令和4年)1月1日より施行される雇用保険法の改正ポイントについて、解説していきます。
今回の改正では、65歳以上の兼業・副業者に対する雇用保険適用が拡大されます。
現在は、1つの事業者ごとに週20時間以上の勤務をしていて、31日以上継続して雇用される人が被保険者となります。
そのため、◯社での労働時間が15時間で、△社での労働時間が15時間として、合算して30時間働いたとしても、雇用保険の被保険者資格はありません。
しかし、今回の改正により、以下の3項目を満たすことで、雇用保険の被保険者となれます。
- 1事業主における一週間の所定労働時間が20時間未満であること
- 2つ以上の事業主に雇用される65歳以上であること
- 1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること
ただし、今回の改正で雇用保険適用となるのは、あくまで「労働者からの申し出」になります。
そのため、上記の3項目すべてを満たしているからといって、自動的に被保険者になるわけではないので、気をつけてください。
雇用保険法改正で企業が必要な対応は?
今回の雇用保改正で企業が必要な対応とはなんでしょうか。
現在、政府による副業推奨の方針を受け、兼業・副業を解禁した(もしくは解禁する方向で検討している)企業も多いでしょう。
そんな中、高年齢者に限らず複数就業者の雇用保険加入についても、今後は幅広く適用されていくものと見込まれます。
しかし、これと併せ、複数就業者に対して長時間労働やそれに起因する労災認定が懸念されます。
そのため、社内の兼業・副業ルールの見直しなどに、目を向ける必要があります。
なぜなら、事業主には安全配慮義務の観点から、従業員の就業状況に関わる適正な把握・管理が求められるからです。
また、従業員の私生活について、正しい情報管理が困難であることから、兼業・副業を禁止している企業の場合でも、実態として複数就業を黙認する状況があれば、万が一の際に事業主としての責任は免れられません。
もちろん、労働者側から申し出があった場合、事業主はその申し出を不当に拒むことや、申し出をした労働者に不利益な扱いをすることは認められません。
ちなみに、兼業・副業者の労災補償における現行制度上の課題として、以下の2つが挙げられます。
- 労災認定した場合の給付額を事業ごとの賃金を基に決めている
- 労災認定する際の業務上の負荷を事業ごとに判断している
労災認定した場合の給付金額について、事業ごとの賃金を元に決めている(災害補償責任ありとされる就業先での賃金のみが算定基礎)とされています。
しかし、被災労働者の稼得能力等を考慮すれば、すべての就業先での賃金額を加味するのが妥当と言えるのです。
画像出典:【参考1】複数就業者に係る労災保険給付について(参考資料)
また、たとえば、就業先Aで週に40時間、就業先Bで週に25時間業務に従事した労働者が、脳・心臓疾患を発症した場合、労災認定はされません。
それぞれの就業先での労働時間のみが考慮されるからです。
一方で、仮に1社で週65時間の業務に従事していた場合には、月100時間を超える時間外労働が認められ、労災認定されます。
画像出典:【参考1】複数就業者に係る労災保険給付について(参考資料)
以上2つの労災保険制度の課題を受けて、労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会では、以下の画像のような方向性に沿って、制度変更によって想定される様々な問題の解消を含めて、可能な限り速やかに結論を得るとなりました。
画像出典:【参考1】複数就業者に係る労災保険給付について(参考資料)
兼業・副業の形態については、労災補償の対象とならない「個人事業主」としての就労も想定されます。
また、政府は雇用類似の働き方に関する保護等の在り方についても具体的な検討に入っているため、今後の議論の展開に注意しましょう。
雇用保険料の引き上げ検討?雇用調整助成金とは
「雇用調整助成金」とは、「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、「労使間の協定」に基づき、「雇用調整(休業)」を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成する制度です。
また、事業主が労働者を出向させることで雇用を維持した場合も、雇用調整助成金の支給対象となります。
9月末まで現在の水準を維持したまま延長する予定でしたが、雇用維持の支援として現在の助成内容を11月末まで延長される方針が示されました。
12月以降の助成内容については、感染が拡大している地域・特に業況が厳しい企業に配慮しつつ、10月中に改めて発表する予定です。
現在の特例措置の助成内容として、原則1人1日あたりの上限額が13,500円で、助成率は中小企業が最大9割、大企業が最大7.5割です。
ただし、特に厳しい状況に置かれている事業主については、1人1日あたりの上限額を15,000円(助成率は最大10割)として、助成率等を引き上げた特例を設けています。
具体的には、以下のような事業主が雇用調整助成金の対象となります。
- 売上高等の生産指標が最近3か月平均で前年又は前々年同期に比べ30%以上減少している全国の事業主(業況特例)
- 緊急事態宣言対象区域において、特定都道府県知事の要請を受けて営業時間の短縮等に協力する事業主(地域特例)
- まん延防止等重点措置を実施すべき区域において、都道府県知事の要請を受けて営業時間の短縮等に協力する事業主(地域特例)
また、新型コロナウイルスの影響により、雇用調整助成金の給付決定額が4兆円に超過し、財源が不足していることから厚生労働省は、雇用保険料の引き上げを検討しているとの報道もあります。
雇用保険料を引き上げた場合は、企業側が対策として、社員で対応する業務とそうではない業務を社内で整理した上で、業務委託契約を増やすなど、人事・経営戦略を見直すことも検討しましょう。
最後に、雇用保険料の計算方法を頭に入れておきましょう。
雇用保険料は、以下の計算式で算出できます。
「雇用保険料」=「給与額または賞与額」×「雇用保険料率」
雇用保険料率は、失業保険の受給者数や積立金の残高などに応じて毎年見直しが行われ、変更がある場合には4月1日から施行されます。
また、事業の種類によっても、労働者と事業主の保険料率は異なり、以下のようになります。
具体的な雇用保険料の労働者負担額を以下の例をもとに、計算してみましょう。
(雇用保険料は、毎月の給与だけでなく、賞与にも発生します。そのため、賞与が発生する月に計算する時は、注意するようにしましょう。)
- 一般の事業に従事している
- 税金・社会保険料など控除前の給与額が25万円
- 税金・社会保険料など控除前の賞与額が50万円
【給与にかかる雇用保険料】
25万円×3÷1,000(「労働者負担」と「一般の事業」の交差部分)=750円(雇用保険料)
【賞与にかかる雇用保険料】
50万円×3÷1,000(「労働者負担」と「一般の事業」の交差部分)=1,500円(雇用保険料)
また、雇用保険料の労働者負担額を源泉徴収する際に、1円未満の端数が出た場合には、原則として、「50銭以下の場合は切り捨て、50銭1厘以上の場合は切り上げ」となります。
ただし、「すべて切り捨て」など、労使間で慣習的な端数処理などの特約がある場合は、従来どおりの端数計算方法で取り扱うことも認められています。
具体的な端数が出た場合の雇用保険料を以下の例をもとに、計算してみましょう。
- Aさんの給与総額25万6,097円
- Bさんの給与総額25万6,900円
【Aさんの雇用保険料】
25万6,097円×3÷1,000=768.291円→768円
※端数が50銭以下の場合は切り捨て
【Bさんの雇用保険料】
25万6,900円×3÷1,000=770.7円→771円
※50銭1厘以上の場合は切り上げ
まとめ
本記事では、2022年(令和4年)1月1日より行われる、雇用保険法改正について解説してきました。
雇用保険法とは、雇用保険法とは雇用保険について定めた法律で、労働者の病気や失業などに備えた社会保険制度です。政府が管掌する強制保険制度でもあり、失業したり収入が減ったりした場合でも、条件を満たすことで、金銭的な給付を受ける事ができます。
今回の改正では、65歳以上の副業者でも労働時間を合算して週20時間以上であれば、雇用保険に加入できるようになります。
但し、雇用保険の適用はあくまで「労働者の申し出」になることをしっかりと覚えておきましょう。
また、雇用保険法改正に基づき、安全配慮義務の観点から、今一度、社内の兼業・副業ルールの見直しに目を向ける事が大切です。
そして、新型コロナウイルスの影響により、雇用調整助成金の給付額が4兆円を超えてしまい、財源が不足していることから、雇用保険料の引き上げが検討されているとう報道もあります。
雇用保険料を引き上げた場合は、企業側・経営者側の対策として、社員で対応する業務とそうではない業務を社内で整理した上で、業務委託契約を増やすなど、人事・経営戦略を見直すことも検討しましょう。