ノウハウ 「働き方改革」とは何だったのか。変わった or 変わらない?3年間を振り返る
更新日:2024年10月17日
投稿日:2021年07月6日
「働き方改革」とは何だったのか。変わった or 変わらない?3年間を振り返る
働き方改革が導入されて3年余り。新型コロナウイルスの影響もあり、企業での働き方に変化が見られるようになっています。
一方で、自社では働き方改革が行われていない、変わらない、といった声もあるようです。では、実際に働き方改革によって企業にどのような変化や効果があったのでしょうか。
この記事では、働き方改革の基本から変化の実例までを詳しくご説明します。
働き方改革とは?定義と背景を改めて確認
そもそも働き方改革とは、いったいどのようなことを指すのでしょうか。政府によって推進されているこの取り組みに、どのような定義付けがされているのか、また、なぜ働き方改革が求められるようになったのかを振り返ってみましょう。
働き方改革の定義
働き方改革とは、働く人が多様で柔軟な働き方を選択できるようにするための取り組みのことをいいます。その名の通り、働き方に関するさまざまな改革のことを指し、長時間労働の是正や有給休暇取得の義務化など、労働法の改正も行われています。
政府が掲げた「一億総活躍社会」の実現に向けての施策のひとつという位置づけであり、2018年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立し、その後も関連法案が整備されています。
この施策に関し、厚生労働省が発表している働き方改革の定義は以下の通りです。
“働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講じます。”
また、厚生労働省は、一億総活躍社会の実現に向けて、働き方改革が必要であるとしています。
一億総活躍社会とは、老若男女問わず誰もがあらゆる場所で活躍できる社会のことを指します。この社会が実現されれば、消費の底上げや投資の拡大、労働参加率向上などを通じて、経済成長の加速が見込めます。
では、そもそもなぜ働き方改革を行うことになったのでしょうか。
その背景には、「労働人口の減少」や「労働生産性の低下」、「長時間労働や過労死」など、現代日本が直面しているさまざまな問題があります。以下ではこれらの背景について、詳しくご紹介します。
働き方改革の背景1「労働人口の減少」
働き方改革が行われた背景のひとつに、労働人口の減少があります。労働人口とは、生産年齢人口である15歳~64歳のうち、労働の意思と能力をもっている人口を指します。この生産年齢人口は、1995年の8,716万人がピークで、その後は減少が続いています。2015年は7,629万人、2021年には7,443万まで減少しました。
参照元:
総務省:平成29年版 情報通信白書
総務省統計局:人口推計(令和3年(2021年)1月平成27年国勢調査を基準とする推計値,令和3年(2021年)6月概算値) (2021年6月21日公表)
また、日本では少子高齢化も問題視されています。
30年間で出生率が大幅に低下し、1984年には1.81であったのが、現在では1.3~1.4まで減少しました。このままいくと総人口も減少し、2020年代は毎年約60万人、2040年代には毎年約100万人のスピードで減少していくと予想されています。
このように、総人口や生産年齢人口の減少から、日本は深刻な人手不足に陥っています。さらに、この生産年齢人口にあたる人々が、育児や介護などのやむを得ない状況によって、離職したり、職場復帰が困難になったりしているケースも見られます。
そこで働き方改革では、生産年齢人口だけでなく65歳以上の老年人口も含め、労働の意思と能力をもっている人を労働力に組み込むことを目指しています。そのため、テレワークの推進や短時間勤務制度、フレックスタイム制度など、自由な働き方を選べるような仕組みや体制作りを行っています。
働き方改革の背景2「労働生産性の低下」
働き方改革が行われた背景には、労働生産性が低下していることも挙げられます。労働生産性とは、労働者ひとりあたりが生み出す成果、もしくは労働者が1時間あたりに生み出す成果のことをいいます。労働による成果を労働量(従業員数または1時間あたりの労働量)で割ることで、算出可能です。
労働生産性=労働による成果/労働量(従業員数または1時間あたりの労働量)
労働生産性が高ければ高いほど、企業の収益性が向上し、最終的には国の経済成長にもつながります。しかし、日本の労働生産性は、主要先進国のなかでも低いといわれています。首相官邸のホームページで発表されている資料によると、次のような結果が出ています。
<各国の労働生産性(2015年)>
・アメリカ:68.3
・フランス:67.6
・ドイツ:66.6
・イギリス:52.4
・日本:43.0
※1労働者1時間あたりの名目GDPを示す。購買力平価によってドル換算している。
参照元: 首相官邸:働き方改革フォローアップ会合
上記の通り、アメリカやフランスと比べ、日本の労働生産性は20ポイントも低い値となっています。この原因には、日本における労働時間が多いことが挙げられます。労働生産性が高い国の多くは日本よりも1人あたりの総労働時間が少なく、その差は最大で年間約300時間もあります。
前述したように、日本では労働人口の減少も起きています。そのため、より少ない労働でより大きな成果を出すことが求められています。働き方改革では、労働生産性を高めるために、有給休暇取得の義務化や勤務間インターバルなど、働きやすい仕組み作りを実施するとしています。
働き方改革の背景3「長時間労働や過労死の問題」
長時間労働や過労死など、労働上の問題も働き方改革が行われることになった理由のひとつです。日本では、高度成長期以降、プライベートを犠牲に業績向上を目指す姿勢がよしとされる文化が根付き、長時間労働の常態化が起きています。
前述の通り、日本の1人あたりの総労働時間は諸外国と比べて多い傾向にあり、労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2019」によると、2018年の1人あたり平均年間総実労働時間は以下の通りです。
各国の1人あたり平均年間総実労働時間(2018年)
・アメリカ:1,786時間
・日本:1,680時間
・イギリス:1,538時間
・フランス:1,520時間
・ドイツ:1,363時間
参照元:データブック国際労働比較
長時間労働が続くと、身体的・精神的に疲労が溜まり、最悪の場合過労死につながるおそれがあります。実際に、長時間労働が原因とされる過労死が大手企業でも発生しており、訴訟にまで発展した例もあります。その結果、現在では長時間労働が原因となる過労死は減ってきていますが、ゼロではありません。
上記の問題に対応するためには、長時間労働を是正し、従業員が健康的に働ける環境をつくらなければなりません。そこで働き方改革では、時間外労働に上限を設けたり、有給休暇の取得を義務付けたりして、労働時間を見直すための対策を行っています。
私達の働き方に直結「働き方改革の3つの柱」
働き方改革は、労働人口の減少や労働生産性の低下、長時間労働の常態化といった問題を見直すべく始められました。改善の方針として、「労働時間の是正」「正規・非正規間の格差解消」「多様で柔軟な働き方の実現」という3つの柱が中心となっています。ここでは、それぞれの柱について、どのような取り組みがなされ、どの程度の結果につながったのかをご紹介します。
労働時間の是正
長時間労働を是正するため、いち早く行われたのが労働時間の見直しです。1947年に労働基準法が制定されてから近年に至るまで、長時間の残業(月45時間・年360時間以上)に対しては行政指導が入るのみで、罰則などはありませんでした。つまり、事実上は残業時間に上限がなく、長時間労働を生み出す原因の1つだったのです。
それが2019年の労働基準法改正によって、残業時間は原則、月45時間・年360時間までという罰則付きの上限が設けられました。これにより、1日当たり約2時間までしか残業は認められなくなりました。時間外労働の上限規制は、大企業は2019年4月より、中小企業は2020年4月より適用されています。
参照元:昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法
なお、臨時的な特別の事情がある場合に限り、残業時間延長は認められています。しかし、この例外を適用する場合でも、単月100時間(複数月平均80時間)・年720時間までという上限は守らなければなりません。また、例外が認められるのは年間6ヶ月までと定められています。
改正労働基準法を受けて、さまざまな企業が休日出勤の禁止を規定したり、残業の事前申請制を導入したりと、労働時間の是正に向けて取り組みました。実際、「一般社団法人 日本経済団体連合会」が2020年9月に公表した「2020年 労働時間等実態調査」によると、総実労働時間の年間平均について、2018年は2,031時間だったのに対し、2019年は2,000時間と大幅に減少しています。
参照元:一般社団法人 日本経済団体連合会:2020年 労働時間等実態調査
また、2019年の改正労働基準法では、時間外労働だけなく、年次有給休暇の取得についても企業に義務付けられました。内容は、年間10日以上の有給休暇を付与する労働者に対して、年5日は使用者が指定した時期に有給休暇を取得させなければならないというものです。
使用者が時期を指定するよう義務付けられたのは、日本の有給休暇取得率が49.4%と低く、その背景には有給休暇の申し出がしにくいという事情があるためです。厚生労働省が2020年に公表した「就労条件総合調査」によると、2019年の1人当たりの有給休暇取得率は56.3%(前年比3.9%上昇)となっており改善が見られます。
参照元:厚生労働省:就労条件総合調査
正規・非正規間の格差解消
厚生労働省が発表した「非正規雇用の現状と課題」によると、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用労働者の人数・割合は、2019年まで増加を続けていました。働き方改革が実施される直前、2019年のデータでは、非正規雇用労働者は約2,165万人、労働者全体に占める割合は38.3%に及んでいます。
参照元:厚生労働省:非正規雇用の現状と課題
これだけの数がいるにもかかわらず、現状、非正規雇用労働者の立場は弱いといえます。なぜなら、さまざまな面で、正規雇用労働者との間に格差が生じているからです。そのなかでも、特に大きいのが賃金格差です。国税庁が2019年に実施した「令和元年分 民間給与実態統計調査」から、正規雇用労働者の平均給与が503万円であるのに対して、非正規雇用労働者の平均給与は175万円にとどまることがわかります。
参照元:国税庁:令和元年分 民間給与実態統計調査
非正規雇用労働者には短時間のアルバイトや時短勤務も含むため、フルタイムで比較するとこれほどの差はないかもしれませんが、無視できる格差ではありません。この格差を埋めるために、「同一労働同一賃金」が示されました。
同一労働同一賃金とは、雇用形態にかかわらず、労働内容が同じであれば、それに見合う待遇を確保するという取り組みです。2020年に改正された労働者派遣法(正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)によって定められました。条文には“雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、(中略)通常の労働者の待遇との間において、(中略)不合理と認められる相違を設けてはならない”と記載されています。
参照元:昭和六十年法律第八十八号 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
これによって、正規雇用労働者と同じ労働を行っている非正規雇用労働者には、正規雇用労働者と同じ賃金や年次有給休暇を付与する義務が生じました。同一労働同一賃金は、大企業では2020年4月より、中小企業では2021年4月より適用されています。
また、非正規雇用労働者を減らし、正規雇用労働者を増やそうとする動きもあります。2015年に同法が改正された際、派遣労働者が同じ組織の同業務に継続して従事する期間は3年間と定められました(3年ルール)。これにより、企業が派遣労働者を3年以上雇用し続けたい場合、雇用を安定させる必要が生じます。
派遣労働者に適用される「3年ルール」以外にも、2013年に労働契約法によって定められた、契約労働者に関する「5年ルール」というものもあります。こちらは、同一事業所で5年以上働いた労働者が、使用者(企業)に対して無期雇用を申し込む権利を得るというものです。この申し込みは、企業の都合で拒否することはできません。
参照元:平成十九年法律第百二十八号 労働契約法
こうした取り組みの成果か、2019年には約2,165万人いた非正規雇用労働者が、2020年には約2,090万人になったとデータに表れています。また、労働者全体に占める割合も2019年の38.3%から、2020年には37.2%に減少しています。
参照元:厚生労働省:非正規雇用の現状と課題
多様で柔軟な働き方の実現
企業活動を持続させ、国際競争力を強化するためにも、労働人口の減少や労働生産性の低下は取り急ぎ食い止めなければなりません。
そこで、労働者が柔軟に多様な働き方を実現できるような、快適な労働環境をつくるためのさまざまな制度が生まれました。テレワークや短時間勤務制度、フレックスタイム制度がこれにあたります。
テレワークとは、情報通信技術を活用した、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方のことです。テレワークによって、育児や介護により出社が困難な方や、地方在住の方が大幅に働きやすくなりました。昨今の感染症拡大防止に向けた取り組みにより、知名度と導入率を大きく伸ばした働き方です。
総務省が公表したテレワーク導入に関するデータによると、企業のテレワーク導入率は2018年に13.9%、2019年に19.1%と増加しています。新型コロナウイルスの感染拡大が問題視されたのが2020年以降であることを考えると、感染症拡大防止に向けた取り組みとは別に、働き方改革としてテレワーク導入に踏み切った企業も多いようです。
参照元:
総務省:令和元年 テレワークの導入やその効果に関する調査結果
総務省:令和2年版 テレワークの推進
短時間勤務制度とは、3歳に満たない子を養育する従業員が、1日原則6時間の時短勤務を利用できる制度のことです。2009年、育児・介護休業法の改正によって、企業には短時間勤務の導入が義務付けられました。
厚生労働省が2018年に公開した「平成29年度雇用均等基本調査」によれば、2017年時点で66.4%の企業が短時間勤務を導入しています。最近では、職場にキッズスペースを設置する企業も現れるなど、子育てをしながらでも働きやすい環境が整えられつつあります。
参照元:厚生労働省:平成29年度雇用均等基本調査
フレックスタイム制度とは、企業が一定期間における総労働時間を定めた上で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自分で決められる制度のことです。労働者は日々の都合に合わせて、仕事とプライベートを配分できようになります。とはいえ、完全に自由裁量では業務に支障が出ることが想定されるので、多くの企業ではコアタイム(必ず出社していなければならない時間)を設けた上で、フレックスタイム制度を導入しているようです。
フレックスタイム制度自体は、今回の働き方改革以前から導入されている制度ですが、2019年の改正労働基準法によってより使いやすくなりました。具体的には、フレックスタイム制度の「清算期間」が1ヶ月から3ヶ月に延長されました。清算期間とは、規定労働時間と実際の労働時間との過不足に応じて賃金清算を行う期間のことです。清算期間が1ヶ月のときは、以下のような賃金清算が行われていました。
フレックスタイム制度(清算期間が1ヶ月の場合)
・1月の規定労働時間:170時間、実際の労働時間:190時間
⇒20時間分の割り増し賃金を支払い
・2月の規定労働時間:170時間、実際の労働時間:170時間
⇒規定通りの賃金を支払い
・3月の規定労働時間:170時間、実際の労働時間:150時間
⇒20時間分は欠勤扱いとし、不足分を控除した賃金を支払い
これが3ヶ月ごとの清算となったことで、1月の20時間超過と3月の20時間不足が相殺されるようになりました。労働者は3ヶ月スパンでのスケジュールが立てられるようになった他、企業にも管理が簡単になるなどのメリットがあります。フレックスタイム制度について、詳しくは厚生労働省の発行するフレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引きをご覧ください。
加えて、多様な働き方の1つとして、2019年に「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」が創設されました。これは、特定の対象者に対して、労働時間ではなく労働の成果に対して給料を支払う制度です。裁量労働制と似た制度ですが、対象者が極めて限定的な点や、高プロ対象者には労働基準法が適用されない点が異なっています。
労働者にとって、自由な時間に働ける上、成果さえ上げれば短時間労働で済むことはメリットです。一方、成果が上げられないと労働時間が長くなったり、労働基準法が適用されないため合法的に残業代がカットされたりするおそれもあります。そのため、高プロの適用にはさまざまなルールが設けられています。以下が必要な条件の一部です。
高度プロフェッショナル制度の適用に必要なルール(一部)
・高度な専門知識が必要と認められ、かつ労働時間と成果が結び付きにくい業務に携わる労働者が対象となる(市場アナリスト、研究開発など)
・仕事の内容が明確に決まっていること
・対象者に平均給与額の3倍(1,075万円)以上の年収があること
・労働者本人が希望していること
・行政官庁への届け出を行うこと
・使用者(企業)が雇用者の総労働時間を把握するための措置をとっていること
・使用者(企業)が健康確保措置を実施すること
法律制定から3年 従業員の働き方は変わった?
働き方改革関連法が本格施行されてから3年近く経過し、統計結果ではいくらかの導入効果があったことはご紹介しました。それでは実際、現場ではどのように受け止められているのでしょうか?
ここからは、東京都産業労働局が2021年5月に公開した「働き方改革に関する実態調査」をもとに、働き方改革による労働環境改善の実態を確かめていきましょう。
「時間外労働の上限規制」しても3割は何も変わらないと実感
働き方改革の柱として、労働時間の是正を掲げていたことは先にご紹介しました。実際、総実労働時間の年間平均に関して、2018年から2019年にかけて大幅に減少したことはデータにも表れています。しかし、もう一歩踏み込んでみるとどうでしょうか?
前出の「働き方改革に関する実態調査」によると、時間外労働の上限規制による労働時間の変化について、従業員の49.0%が“変化があった”、31.2%が“変化はなかった”と回答しています。つまり3割、無回答・わからないを除くと4割近くの従業員が、「働き方改革による労働時間の変化はなかった」と感じているのです。
参照元:東京都産業労働局:働き方改革に関する実態調査
“変化があった”と回答した方に対して追加で質問した、具体的な変化の内容についても見てみましょう。上位2回答は、“上司が声掛けをするなど時間外労働しないように働きかけるようになった(70.1%)”“時間外労働を事前申告制にするなど労働時間の管理が厳しくなった(57.4%)”というもので、これらからは具体的な改善につながっているかは読み取れません。
わかりやすく改善が読み取れる“従業員間の仕事の配分が見直された(24.9%)”“会議や打ち合わせの時間が短くなった(15.3%)”は低い割合にとどまっており、まだまだ改善の余地がありそうです。
次は、事業所に行ったアンケートへの回答も確認しましょう。改正労働基準法によって、残業時間は原則、月45時間・年360時間と決定されましたが、3.4%の事業所が月45 時間超、3.8%の事業所が年360時間超と回答しました。なお、この数値をけん引しているのは上限時間の適用猶予適事業(2024年4月より適用)の「建設業(月平均:56.1 時間、年平均:535.0 時間)であり、法律上の問題はありません。
続いて、年次有給休暇の取得状況をご説明します。同調査によると、年次有給休暇を10日以上付与されている方の取得状況について、86.7%が“年5日以上取得できた”、12.8%が“(5日以上)取得できなかった”と回答しています。さらに、“(5日以上)取得できなかった”との回答は全体平均で12.8%ですが、「宿泊業、飲食サービス業」に絞ると40.0%と割合が非常に高くなっています。
取得できなかった理由については、“業務量が多いため”“人員が不足しているため”などが目立ちます。なかには“年次有給休暇取得に対して否定的な上司・同僚がおり、取得しにくい雰囲気があるため”という回答もあるなど、企業の真摯な対応が求められる結果となりました。
同調査に寄せられた働き方改革の従業員調査の意見のなかには、
“働き方改革として国で動いてくれていても、実際のところはうまくごまかされ労働時間や有休取得などあまり変化はありません。”
引用元:令和2年度 働き方改革に関する実態調査 従業員調査
という厳しい声もあります。働き方改革の現状について、遠くから見て成果が得られているようでも、実際のところは改革途上といったところでしょう。
働き方改革による残業禁止が生んだ新たな問題
時間外労働の上限規制に対し、“上司が声掛けをするなど時間外労働しないように働きかけるようになった”という変化を挙げている方が7割を超えています。この声掛けが「時短ハラスメント(ジタハラ)」として、新たに問題提起されるようになりました。
時短ハラスメントとは、具体的な対策がないにもかかわらず、部下に残業時間の削減や定時退社を強いるハラスメントのことです。2019年に改正された労働施策総合推進法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)に抵触するおそれがあるので、注意しなくてはなりません。
参照元:昭和四十一年法律第百三十二号 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
時短ハラスメントのもっとも大きな問題点は、残業時間を減らすための取り組みを企業が積極的に行っていないところにあります。そのため、従業員の生産性やモチベーションが低下したり、ストレスにより職場環境が悪化したりするのです。時短ハラスメントを防止するには、業務ツールや電子化サービスなどのITツールを活用し、労働生産性を向上させるのが効果的です。
新型コロナウイルス感染拡大の影響による働き方の変化
働き方改革の推進と結果的に時期が重なった新型コロナウイルス感染拡大も、従業員の働き方に大きく影響を与えました。令和2年度 働き方改革に関する実態調査に関する調査でも、感染拡大の影響による働き方の変化があったという回答が7割弱となっています。
詳しくは、緊急事態宣言期間中の総実労働時間について、“減った”が65.0%、“増えた”が25.6%という内訳です。奇しくも新型コロナウイルス感染拡大が、「時間外労働の上限規制」に寄与する結果となりました。
働き方改革のデメリットが顕在化
働き方改革を実行していくなかで、デメリットが明確になってきたのも事実です。企業側・従業員側ともに、以下のようなデメリットが挙げられています。
企業側のデメリットには、時間外労働の上限があることによって、未完のままの業務が発生していることがあります。時間外労働の上限は、従業員の業務効率化が実現しなければ、ただ労働時間が短縮されているだけになりかねません。たとえば、これまでは1週間で終わっていた業務が2週間かかり、利益を得られるのが遅くなるような事態も発生するでしょう。このように未完の業務が発生すると、企業の利益自体も減少してしまいます。
従業員側のデメリットには、業務効率化のための過度な負担が挙げられます。会社そのものの仕組みは変わらずに働き方改革を取り入れるとなると、従業員がスケジュール管理や作業の省略によって効率化を実現しなければなりません。しかし、仕組み自体が変わらないことには効率化にも限界があるため、休憩時間に働くなど、従業員への負担がかかっているようです。また、労働時間の短縮によって、給料が減ることもデメリットとして挙げられます。さらに、非正規雇用切りや、正社員間における性別・年齢・子どもの有無などによる格差が生まれる可能性があるという問題点も無視できないでしょう。
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まとめ
より働きやすい環境を目指して行われている働き方改革ですが、3年経った今、結局変化が見られなかったり、新たな問題が発生したりと、よくない面も見えてきました。しかし、労働人口の減少や過労死などの問題を考えると、こうした問題を乗り越え、働き方改革を進めていくことは非常に重要です。
今後、企業と従業員が軋轢を生まずに働き方改革を実現するためには、業務を効率化させるITツールの導入が手段のひとつとして挙げられます。政府も、新たなツール導入のコストを一部負担する助成金などを設けているため、積極的に導入を検討してみてはいかがでしょうか。