ノウハウ デジタル手続法施行で電子申告義務化?企業に必要な対応とは
更新日:2024年10月17日
投稿日:2021年06月25日
デジタル手続法施行で電子申告義務化?企業に必要な対応とは
リモートワークがすっかり定着してきた今日この頃、行政手続もオンライン化の時代がやってきています。その足掛かりとなる法律として「デジタル手続法(デジタルファースト法案)」があります。
しかし、企業の事業活動において、電子申請が義務化した?これから義務化する?など、法案成立によって具体的にどのように変化したのかピンとこない方々も多いのではないでしょうか。
ここでは、企業において必要な、税務・労務等様々な行政手続(主に行政に対する申請手続)を行うにあたって、デジタル手続法制定によっていかなる変化があるのか、これから企業はいかに対応していく必要があるのかを解説します。
デジタル手続法とは
名称について
2020年5月、国の進めるデジタル・ガバメント実行計画の一環として、「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律」が施行され、同年12月に公布されました。
この正式名称が長いため、「デジタルファースト法」や「デジタルファースト法案」、または「デジタル手続法」などと呼ばれています。内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室が使用している略称が「デジタル手続法」なので、ここでは「デジタル手続法」と呼びます。
その内容は?
まずは条文(全19条)の中身がどうなっているのか見てみましょう。
簡単に要約すると、まず1条で、行政手続の利便性・簡素性・効率性を高めるために行政手続の原則オンライン化をするために必要な事項を定める法律である、という目的設定をします。簡単に言えば、オンラインにすれば申請業務が効率的になってメリットがたくさんあるから、オンライン化を目指しましょう、ということです。
次に、2条で利便性・簡素性・効率性を高めるための基本原則3つを掲げます(内容は下記参照)。
そして、ポイントになるのが、6条、7条、11条です。
今まで法令上「書面」でやってくださいとされていた行政手続(申請手続)は、オンラインでやることもできますと定めたのが6条で、申請に対する行政側の応答についてもオンライン上ですることができる旨を定めたのが7条です。
同じく、今まで法令上、行政手続(申請等)をする際に添付することを求められていた書面等があっても、行政側がオンライン上で情報を確認できるのであれば、添付は不要となる旨を定めたのが11条です。
つまり、デジタル手続法自体は、「書面でやれ」と定めているものもオンラインでできる!オンラインでやれば面倒くさい添付書類もいらない!ということを定め、これからの原則オンライン化へのシフトに対応できるよう法令を変えただけなのです。
書面での申請等を排除するものではなく、オンラインでもできるとしただけで、国民に行政手続のオンライン義務化を定めているような法律ではないのです。
条文の構造(全19条)
1条:目的
デジタル技術を活用し、行政手続等の利便性の向上や行政運営の簡素化・効率化を図るため、行政のデジタル化に関する基本原則及び行政手続の原則オンライン化のために必要な事項等を定める。
2条:基本原則
①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する
3条:定義規定
略
4,5条:情報システム計画、国の行政機関等による情報システムの整備等
政府は、オンライン化のためのシステム整備計画を立てて(4条)、実際にシステム整備してね(5条)という規定。
6条:電子情報処理組織による申請
「書面等」で行うよう定められている行政手続(申請手続)について、「電子情報処理組織を使用する方法」すなわち電子申請によってもできる旨を定めた規定。
7条:電子情報処理組織による処分通知等
6条と同じように、申請に対する行政機関からの応答についても、オンライン上ですることができる旨定めた規定。
8,9条:電磁的記録による縦覧等、電磁的記録による作成等
6,7条と同じように、法令上「書面等」で行うよう定められている「縦覧等」「作成等」もデジタル縦覧、デジタル作成ですることができる、という規定。
10条:適用除外
略
11条:(添付書面等の省略)
オンライン化により、行政機関間の情報連携等によって入手・参照できる情報に係る添付書類について、添付を不要とする規定。
引用元:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/pdf/digital_gaiyo.pdf
以下略、全19条。
デジタル手続法のメリット・デメリット
前述のように、デジタル手続法1条は、“行政手続の利便性・簡素性・効率性を高めるために行政手続の原則オンライン化をする”との目的設定をしています。つまり、オンライン化によって行政手続の利便性・簡素性・効率性が向上することが期待されます。
これは、企業にも多くのメリットを及ぼします。
例えば、これまでの行政(申請)手続は多くの書類を作成、添付資料の取得をして郵送するといった時間的コストのかかるものでした。しかし、デジタル手続法や関連法令によって電子申請可能になった行政手続は、オンラインで一度情報を入力するだけでよく(2条:基本原則)、添付書類も必要なくなり(11条)、大幅な時間の短縮が見込まれるなど申請業務の効率化が見込まれます。
また、オンライン化により書類の保管も不要となり、書類の保存場所の問題も解決できます。
一方で、オンライン化に対応するためには、パソコンなどのITツールを使いこなす必要があります。ITインフラの整っていない企業にとってはこの点がデメリットになるでしょう。
しかし、以下で紹介していくように、今後は各種行政手続の電子化が進み電子申告の義務化も広がっていくことが予想されます。すると、ITインフラが整っていないと申告自体ができず、無申告と扱われるということにもなりかねません。デジタル化にむけて迅速な対応が迫られています。
行政手続における電子申請義務化
上述のように、デジタル手続法自体は、申請手続について電子申請を義務化したような法律ではありません。いわば行政手続のオンライン化に向けて交通整理をしただけの法律です。
しかし、電子申請義務化という言葉を耳にしたことはないでしょうか。
実際、すでに一部の対象企業において、一部の申請手続について電子申請が義務化されているものがあります。
そもそもどの手続が義務化されている?義務化の根拠はどこにあるの?義務化の対象とされる企業の基準は何?以下では、デジタル手続法と関係の深い、電子申請義務化について、その根拠・対象について解説していきます。
その根拠は?
デジタル手続法が義務化を定めていないのだとすれば、義務化の根拠はどこにあるのでしょうか。それは、法律ではなく省庁による省令等です。
具体的には、以下の省令があげられます。
厚生労働省令により、健康保険・厚⽣年⾦保険・労働保険・雇用保険の電子申告義務化
財務省の平成30年度税制改正により「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税の電子申告が義務化(厚生労働省令)
義務化の対象は?
電子申請(申告)が義務化されたといっても、現時点ではその対象は一部の大法人に限られます。
具体的には、
○資本⾦、出資⾦⼜は銀⾏等保有株式取得機構に納付する拠出⾦の額が1億円を超える法人
○相互会社(保険業法)
○投資法人(投資信託及び投資法⼈に関する法律)
○特定目的会社(資産の流動化に関する法律)
です。
つまり、資本⾦…の額が1億円を超える法人は上記各保険、法人税等について、すでに電子申告が義務化されています。
企業が取るべき対応
そもそも、デジタル手続法も、国が進めるデジタル・ガバメント実行計画の一環として制定されたものです。国がオンライン化を積極的に促進している以上、資本金額1億円以下の企業など現時点で対象とされていない企業についても、いずれは義務化の対象となっていくことが考えられます。また、義務化される手続自体も、現段階の上記各種保険、法人税等以外にも徐々に拡大すると思われます。
当然、オンラインの義務化がされた場合に、紙での申告手続を行っても、無申告扱いとなってしまいます。
したがって、現在対象外の企業においても、電子申請が義務化されても慌てることのないよう、今から準備することが必要です。ITインフラが整っていない場合には、今のうちにインフラ整備を進めるべきでしょう。最近では、電子申告に対応しているクラウドサービスを導入するなど、効率的にITインフラを整備することもできます。
これからのデジタル社会への対応
ここまで述べてきたように、行政手続の電子化は徐々に進んできています。それに伴い、各企業のITインフラの整備が進み、日常業務の電子化も推進されていくことが予想されます。
デジタル手続法が制定され、行政のオンライン化が進んだことをきっかけに、契約業務の電子化で業務効率の改善に着手する良いタイミングと言えます。
こちらの記事では、電子契約を導入するにあたっての選定ポイントや導入の流れまでを解説していますので、契約業務の電子化を検討される方はぜひこちらもお読みください。
まとめ
デジタル手続法は、これから行政手続がオンライン化していくための足掛かりのような法律です。これにより各種法令が順次改正されていき、コロナ禍も相まって行政手続のオンライン化が急ピッチで進んでいくことが想定されます。
この流れへの対策方法を検討し、契約業務など各種業務について電子化を進め、業務を円滑かつ効率的に行える体制について今から準備をすすめていきましょう。