ノウハウ 契約業務の非効率さを解消する方法
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年06月14日
契約業務の非効率さを解消する方法
法務の中心的な業務である契約業務ですが、契約業務は正確性が重んじられる一方で効率性が犠牲となっている面が多々見られます。
こうした契約業務における非効率性は契約業務の性質上、やむをえないものなのでしょうか。
本記事では、契約業務の非効率性を解消する方法についてご紹介します。
契約業務の全体像
まずは契約業務の全体像を見ていきましょう。契約業務は以下のようなプロセスで構成されています。
①原案・修正案の作成依頼
まずは契約書案の作成や修正案の作成依頼から契約業務はスタートします。事業部門などの要望をヒアリングしたうえで進めていきます。
②原案・修正案の作成
①でヒアリングした内容を元に契約書案や修正案を作成します。契約書へは取引の内容やトラブルが起きた際の対処法などについて盛り込んでいく必要があります。
③相手方との交渉
自社の案が出来たら相手方へ自社の案を送り、相手方の検討を経たのちに相手方との交渉がスタートします。なるべく自社にとって有利な契約書案となるように相手方の説得に努めます。
④再修正
相手方から修正の要望があり、それを受け入れる場合には再修正を行います。
⑤締結のための郵送(返送)
修正案を作成し、内容について互いに合意が得られたら契約の締結作業に入ります。
契約の締結にあたっては、紙の契約書の場合には正本2通を作成し押印し、相手方に郵送する必要があります。そして、相手方が郵送した契約書に押印し、1部を返送することで契約の締結作業が完了します。
⑥契約書の保管
締結した契約書は、保管しておく必要があります。契約書管理台帳などを作成し、どこの誰とのどのような契約なのか分かるような形で保管しておく必要があります。
⑦有効期限の管理
多くの契約書には有効期限があり、自動更新の契約になっていない限り、有効期限を満了した契約書は効力を失います。そのため、ビジネスに必要な契約が締結されている状態を保つためには有効期限を管理して契約の更新手続きを適切に行う必要があります。
契約業務で法務が感じる課題、非効率
契約業務において非効率と法務部門が感じるものや課題にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは契約業務における非効率や課題について解説します。
相手方案がPDFで送付された場合の修正工数の煩雑さ
契約書案を相手方から提示される場面はよくありますが、契約書案のファイル形式がPDFファイルなどの場合、Wordファイルと異なり編集履歴が残せず、編集にも限界があるため、作業効率が大幅に低下してしまうという問題があります。
審査の意図が読み取れず交渉が進まない
契約書の修正案等を作成した場合、多くの場合には事業部門が窓口となって相手方と交渉を行います。この時、事業部門が法務が行った修正の趣旨をある程度理解していないと交渉が上手く進まず、時間がかかってしまうといった事態に陥ります。
紙の契約書の押印手続きに社内でリードタイムが発生する
紙の契約書の場合、押印手続きが社内で必要になります。こうした押印手続きは承認まで時間がかかることが多く、契約書締結までにリードタイムが発生することになります。
紙締結に手間と時間がかかる
契約締結までには、契約書に押印し、相手方に返送し、さらに一部返送を受けるという手間が発生します。紙の契約書の場合、リードタイムになるのは押印手続きだけではありません。
契約書の締結には双方の押印が揃う必要があるため、契約書の正本2部にこちらが押印した後、相手方に送付し、相手方も押印を行い、さらに一部を返送してもらうという手間が必要になります。
これには案外時間がかかるものです。特に海外企業との契約の場合には、この手間だけで数か月かかることも少なくありません。
必要な契約書を取り出すのに時間がかかる
契約の締結が完了したら契約書は保管します。しかし、紙形式で保管した場合、後から契約書の内容を確認しようとしても必要な契約書にたどり着くのにかなりの時間を要する場合があります。
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エクセルの契約管理台帳は更新時期の見逃しなどが発生する
締結済みの契約書の管理を契約書管理台帳を用いて行うケースはよく見られますが、この契約書管理台帳をエクセルなどで管理している場合、契約の更新時期の管理は担当者が手作業で行う必要があります。
そのため更新時期を見落としてしまい、契約の有効期限が切れてしまったといった事態になりかねません。
契約業務で事業部が感じる課題、非効率
契約業務において事業部門が感じる課題にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは事業部門が感じる課題や非効率について解説します。
ノウハウが属人的でうまく交渉できない
契約業務を通じた交渉は経験やノウハウによって行われている部分が少なくありません。
そのため、交渉のノウハウは属人的なものになりやすく、こうした交渉のノウハウを持った先輩などに聞いて回らないと進まないといったケースがあります。
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各担当者で滞留し時間がかかる
契約書の交渉は法務部門での契約書案の作成、事業部門による相手方への提示、相手方事業部門の受領、相手方法務部門による確認、と関与する担当者の数が多いことが挙げられます。
そのため、各担当者での滞留時間が長くなるとリードタイムが非常に長くなってしまうといった課題が挙げられます。
進め方が分からず調べたり考える時間が必要
契約の締結までには内容の交渉もありますが、内容が確定した後は社内で承認を得る必要があります。こうしたそれぞれの社内鉄続きについてなれるまでは調べたり考えたりする時間が必要となります。
入力、回覧など作業工数が多い
社内の承認システムによっては入力の手間や回覧までのハードルが高いケースがあり、こうした場合には入力、回覧などの作業工数が多く、本来の業務を圧迫してしまうといった事態も考えられます。
法務が感じる非効率の解消方法
では、法務が感じる非効率はどのように解消することができるでしょうか。ここでは非効率の解消について解説します。
ワードファイルでの受け付けを原則とする
PDFなどのファイル形式による作業効率の低下については、ワードファイルでの受付を原則とすることで大幅に緩和することができるでしょう。
修正案にコメントで趣旨を入れるなどし、相手方に直接趣旨が伝わるようにする
事業部門が修正の趣旨を理解できない場合には、ワードのコメント機能を活用するのも一つの方法です。
コメントに修正の趣旨を書き込み、場合によっては相手方の法務に直接それを伝えることで交渉がスムーズになる可能性があります。
電子契約書の導入を検討する
押印手続きのリードタイムの問題や、相手方への返送などの手間の問題は電子契約書の導入を行うことで解決することができます。
契約書管理システムを導入する
契約書の保管の問題や更新時期の見落としの問題については、契約書管理システムを導入することで解決することができます。
特に契約書の更新時期の見落としの問題については契約書管理システムに付属するアラート機能が役立ちます。更新時期が近づくと自動的に知らせてくれるため、見落としリスクを一気に減らすことができます。
事業部が感じる非効率の解消方法
では、事業部門が感じる非効率はどのようにして解消できるでしょうか。
ナレッジ管理を実施する
顧客との交渉のノウハウが属人的で聞きまわらないといけない、うまく交渉できないことについては、交渉に関するナレッジを管理できるように整備し、知りたい人が知りたいときに情報を探せる状態を作るようにすることで解消できます。
過去の同じような案件の交渉履歴が見れるような状態だと逐一やり方を教えずともある程度の理解は進むでしょう。
滞留原因を調べ対策を講じる
各担当者で滞留するので契約のリードタイムが長いことについては、なぜ滞留しているのか原因を調べ対策を講じる必要があります。
定量的には、各工程での開始時間、終了時間を取り、工程ごとのリードタイムと担当部署が取れると原因が究明できます。定性的には、担当者や部署に作業工程をヒアリングし、なぜ滞留しているのか調査することで対策の方針を決めることができます。
ナレッジ管理を行う
契約業務の進め方がいまいちわからず調べたり考える時間が必要な場合は、事業部門内でナレッジ管理を行い、業務フローを明確にすることで、担当者が行わなければならない業務内容を明確化することが重要です。
また、業務の進め方が分かるようにマニュアルを刷新したり、マニュアルが機能しない場合は手順が誰にでも分かる仕組みを導入したりといった工夫が可能です。
業務改革を行い自動化、連携を考える
入力、回覧など作業工数が多いことについては、必要な作業なのか見直しを行い、業務の効率化を図ることが重要となります。
見直した結果、それぞれのシステムが相互に連携していないことが原因であれば連携できるようにシステム構造を見直し情報連携させることで二重入力を減らす。単純作業については、自動化することで作業工数を下げるといった工夫ができます。
契約業務の改善の方法
では、契約業務の改善にはどのような方法が考えられるでしょうか。ここでは契約業務の改善方法について解説します。
PDF等に対応したレビューシステムを導入する
リーガルテックにはいくつかサービスがありますが、その中でもPDFファイルにも対応したレビューシステムの導入はPDFファイルなどの形式で送られてきたファイルのレビューを大幅に効率的にしてくれるでしょう。
また、契約書レビューにはノウハウや経験といった属人的な能力が必要となりますが、レビューシステムはAIやシステムが契約書のレビューを行ってくれるため、品質の平準化やノウハウの共有にも役立ちます。
このようにレビューシステムの導入は単にPDFファイルの契約書を効率よくレビューできるだけでなく、法務が抱えがちな課題であるノウハウの属人化といった課題の解決にも役立つ点で有用といえるでしょう。
電子契約システムを導入する
契約書の押印手続きに時間がかかるという問題や締結までの押印と返送等に時間がかかるといった問題は契約書が紙であることに由来しています。こうした課題は電子契約システムを導入することで解決できます。
電子契約書では電子署名の方法によって契約書を締結するため、互いの署名がそろえば契約が締結できます。
したがって、署名のためにこちらが署名して、さらにそれを相手方に送付して、返送を受けるといった手間が全て解決されるのです。
契約書管理システムを導入する
紙の契約書のため、必要な契約書にアクセスするのに時間がかかってしまうという問題や契約書の期限管理を見落としてしまったといった問題については契約書管理システムの導入によって解決することができます。
契約書管理システムは契約書ファイルをドラッグアンドドロップするだけでデータベース化する機能を有するものもあるため、簡単に契約書管理台帳を作ることが可能です。
こうして契約書をデータベース化することで必要な人が必要なタイミングで契約書へ簡単にアクセスすることができるようになります。
また、契約書の有効期限の見落としについても前述の通りアラート機能があるため、手作業によるために発生していた見落としといったヒューマンエラーを防ぎ、ビジネスに必要な契約が全て有効に締結されている状態を保つことができます。
【契約業務を一気通貫で改善】CLM(契約ライフサイクルマネジメント)とは?
まとめ
契約業務は絶対にミスがあってはならない業務のため踏むべきプロセスが多く、そのために非効率化や課題が生じがちといった問題を抱えているといえるでしょう。
こうした課題の多くは契約書管理システム等のリーガルテックを導入することで解決することができます。リーガルテックの導入を検討し、効率よく契約業務を進めていきましょう。