ノウハウ 取締役委任契約書とは?記載事項・作成時の注意点は?
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年06月4日
取締役委任契約書とは?記載事項・作成時の注意点は?
取締役と株式会社の委任契約に必要なのが取締役委任契約書です。取締役は労働者ではないため、株式会社とは委任契約を結ぶことになります。取締役委任契約書とはどのような取り決めをまとめた書類なのでしょう。
本記事では、契約書が必要となるシーン、作成する時の注意点と共に解説します。
取締役委任契約書とは
株式会社と取締役間で結ぶ契約書のことです。
取締役は会社法で言うところの役員に含まれます。会社とは雇用契約ではなく委任契約を結びます。
委任契約は民法643条に則ります。
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
取締役委任契約書の登場パターン
- 取締役の報酬を決める時
- 現在の取締役を再任命したり、新たに取締役を任命する時
- 取締役の業務内容や権限についての取りまとめ(内容に変更が生じる時も含む)など
上記は取締役委任契約書が交わされる一例です。
民法648条第1項より、原則、取締役は報酬を請求することができません。
受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
「特約がなければ請求できない」とあることから、委任契約書で定めることで報酬を得られるということです。なお、取締役の報酬は定款に記載がない場合、株主総会の決議によって定めると会社法361条に定められています。委任契約で報酬を定める前に決議の有無を確認しましょう。
報酬に変更が生じた時も、契約書が必要になります。
書面がないと、会社と取締役間の約束が果たされないといったトラブルにつながりかねません。トラブル防止に委任契約書の存在が一役買います。
取締役委任契約書の記載事項
取締役は民法644条と645条によると、委任された業務を遂行し、組織の利益を最大限にするために動くことと、依頼があれば業務の状況を報告することが求められます。
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
第六百四十四条の二 受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
取締役の任務や権限についてまとめることはもちろん、委任契約書に記載すべきことは他にもあります。
目的
取締役は株主総会を経て選ばれることが一般的です。
株主総会を開催した日時・目的を記載することで、どの総会で取締役が選ばれたか分かります。
「甲は令和○年○月○日付臨時株主総会において、乙を甲の取締役として選任し、乙は就任を了承するものとする」といった文言を入れます。
ちなみに取締役会設置会社において、取締役を置く目的は、代表者独断の意思決定を避け、社内の監視機能を強化するためです。
任期
会社法332条で原則2年以内と決められています。ただし、定款や株主総会の決議で短縮されることはあります。
監査等委員会設置会社の取締役の任期は1年以内です。
公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く)では、定款で10年まで延長できます。
「乙の任期は、選任後○年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする」といった書き方がされます。
地位
委任関係は、お互いにいつでも契約関係を解消できる関係です。辞任や解任をもって、委任契約は解除されます。
故に契約書では、委任契約終了時の損害賠償責任の範囲などを定める必要があります。
解任などで委任契約は解消されますが、原則、従業員の法的地位は守られます。契約解除後の地位について別途定める必要がある場合も、契約書に残すことが必要です。
報酬
報酬や退職金、振込先や支給日などを記載します。
以下のような文言です。
甲が乙に対して支払う報酬等は、毎月甲の就業規則、給与規則、その他社内規則に定める期日までに、年俸を12ヶ月に均等割りした金額を、乙の指定する口座に振り込んで支払う。
報酬は定款か株主総会の決議で決められます。
遵守事項
会社と取締役の委任関係は、両者が並列の関係です。会社からの指示で業務をこなすのではなく、会社から認められた裁量権をもって委任された業務を達成するために動けます。
ただし、会社に対して守ることが義務とされること、例えば忠実義務や善管注意義務を守らないと、損害賠償請求される可能性があります。
※忠実義務:会社法355条で定められた、取締役は法令・定款・株主総会の決議を守って会社のために職務を全うしなければならないとされる義務
※善管注意義務:善良な管理者の注意義務のこと。何かを委任された人は、一般的に要求される程度の注意を払う義務が生じます。
会社法423条で、取締役が任務を怠って会社に損害を与えた場合、賠償する責任を負うとされています。
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
任務には忠実義務や善管注意義務も含むと見なされることから、遵守事項に違反することで損害賠償請求されてもおかしくありません。
競業避止義務期間
取締役退任後、同業他社や競合する事業に関わることを制限するために設けられる期間です。
法令では定められていませんが、2年以内に設定することが多いです。憲法の「職業選択の自由」に配慮しながら決めることが求められます。
従業員の引き抜きを禁止することを定めても構いません。
以下のような文面となります。
乙は、甲の取締役を退任するにあたり、退任後○年間は、甲の定款で定めている業務と競合関係にある事業を自ら開業し、又は競合関係に立つ事業者の役員に就任しないこととする。
乙は、契約の終了後○年間、甲の役員又は従業員に対し、任用や雇用の勧誘をしてはならない。
秘密保持条項
取締役は、会社の重要事項の決定に関わります。従業員・顧客の個人情報やクライアントに関する情報、内部の経営状況、特許技術といった機密情報にアクセスできます。
よって、機密情報の不正使用や漏えい防止を目的に、秘密保持を約束することが求められます。
在任中に加え、退任してから一定期間も秘密保持を義務づけることをおすすめします。取締役の退任時には、機密情報にまつわるデータや資料の返却か適切な破棄も約束しておくと良いでしょう。
反社会的勢力排除条項
「反社会的勢力の排除に関する条項」や「暴力団排除条項(暴排条項)」とも言われる条項です。
契約締結時、会社も取締役も反社会的勢力とは無関係であること、そして、暴力的な要求をしないことを約束するために契約書に盛り込まれます。
取締役が反社会的勢力の関係者となれば、会社自体も反社と関係のある組織と見なされ、信用の失墜やイメージ低下など、自社に不利益がもたらされます。
契約書に条項がなければ、取締役に任命した人物が反社の関係者と判明したことを理由に一方的に解任したら、会社が損害賠償請求の訴えを起こされる恐れがあります。
反社条項を含むことで、トラブルなくスムーズな委任契約の解消を期待できます。万が一の時には相手方に損害賠償請求できる点でも安心です。
取締役委任契約書作成上の注意点
- 取締役の権限
- 競業避止義務の期間
- 基本的に割増賃金が発生しない
取締役の権限
取締役会設置会社か否かで、取締役がどこまで権限を持つか異なります。
取締役会設置会社では、契約締結の権限は代表取締役が持つことが原則です。取締役に与える場合、代表取締役の委任や取締役会での決議が必要です。
競業避止義務の期間
取締役退任後の競業避止義務の期間について配慮が求められます。根拠なく長い期間が設定されると、無効となる恐れがあります。
基本的に割増賃金が発生しない
取締役は労働者ではありません。つまり、労働基準法が適用されないことから、労働基準法で定められた割増賃金の支払いが義務ではないということです。
取締役に任命された人が割増賃金が支払われないことを理解した上で契約に合意したことを証明するためにも、割増賃金が対象外であることは文面に残すことをおすすめします。
まとめ
取締役委任契約書は、株式会社と取締役との間で結ばれる契約書です。報酬や取締役の権限を明確にする他、競業避止義務や秘密保持などを約束するために用いられます。
基本的には割増賃金が発生しないことを確認すること、そして、取締役退任後の競業避止期間に配慮することで、会社と取締役双方が納得できる委任契約となるはずです。