ノウハウ 契約不履行とは?4種類の要件と対応方法を分かりやすく解説
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年06月4日
契約不履行とは?4種類の要件と対応方法を分かりやすく解説
契約不履行とは、契約で定めた内容が果たされないことを意味します。契約不履行は4種類に分けられ、いずれのケースでも、一方の当事者が契約通りの義務を果たさないと、損害賠償請求など何かしらの対応がなされます。
本記事では判例、契約不履行が起きた場合と起こさないための対処法を取りあげ、契約不履行の状態と対応について分かりやすく解説しています。
契約不履行とは、分かりやすく解説
正当な理由なく一方の当事者が契約内容を果たさないことを意味します。
商品代と送料を期日までに支払ったにもかかわらず、商品が送られてこないといった事例が該当します。
契約不履行と似た言葉に「債務不履行」があります。民法では契約不履行の文脈で債務不履行を使用します。要するに、両者は同じ意味の用語と捉えて問題ないということです。
履行と契約の違い
契約関係において両者は深い関係があります。違いは、締結した契約が完了するまでのどの段階を指すかです。
履行は、契約で決められた条件や義務を果たすことです。支払いを完了させる、注文された商品を送るなどの行為を指します。
契約は、果たすべき条件や義務について定めて、当事者が合意することです。
契約で合意した内容を履行することで契約関係が成り立つと言えます。
契約不履行の種類、要件
- 履行遅滞
- 履行不能
- 不完全履行
- 履行拒絶
上記4種類に分けられます。
どのようなケースで不履行と見なされるのか、種類別に解説します。
履行遅滞
債務の履行が遅れることです。
債務とは相手のために何かしらの行為をする義務を意味します。例えば、支払いや商品の発送といった行為です。
合意した期限までに債務が履行されないことも、履行遅滞と言います。
民法412条で3パターン定められています。
- 確定期限のある場合(412条1項)
- 不確定期限のある場合(412条2項)
- 期限の定めのない場合(412条3項)
確定期限のある場合、確定期限を過ぎた時から履行遅滞と見なします。
例えば「2024年4月30日までに支払うこと」で合意したのであれば、確定期限は2024年4月30日です。確定期限までに支払いがなければ、今回の例では、2024年5月1日以降に履行遅滞が発生したことになります。
不確定期限のある場合、期限を明確に定めていないものの将来的な履行が確定しているものについて、下記いずれか早い方を基準に履行遅滞と見なします。
- 債務者(債務を負う義務を持つ人)が履行の請求を受けた
- 債務者が期限の到来を知った
例えばAが亡くなった時にBに土地を贈与する、と書面を交わしたケースです。
BはAが亡くなったことを知らないと相続手続きできないことから、期限の到来を知った日から履行遅滞となります。
期限の定めのない場合、履行の責任を受けた時点で履行遅滞と看做します。
例えばAがBから借金をしていた場合、Bから返済を求められた時点で履行遅滞が発生したことになります。
履行不能
債務の履行ができないことです。民法412条の2に定められています。
債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
履行遅滞は、履行そのものは可能であることが前提です。
対して履行不能は、履行することができない状況にあります。例えば、自然災害によって契約で合意した内容を物理的に負うことができない、などが履行不能です。
契約成立時に履行ができない事案、例えば契約締結時に実在しない物品の売買をしようとした場合なども、履行不能と見なされます。ただし、履行不能による損害賠償を定めた民法415条により、損害賠償請求されることはあります。
民法413条の2により、履行遅滞中か受領遅滞中に履行不能が発生するケースも想定されます。
受領遅滞とは、債権者(債務の履行を要求できる権利を持つ人)が債務の履行を拒んでいるか、履行を受けられない状態にあることです。
履行遅滞中に当事者どちらにも原因がなく履行不能となったものについては債務者、受領遅滞中の履行不能については債権者に原因があると看做されます。
不完全履行
履行はされているものの、一部の内容・状態が不完全であることです。
例えば注文した商品が納品されたものの数が少ない、借金を返してもらったが約束より返済額が少ないなどを指します。
履行拒絶
債務者によって債務の履行を拒絶する意思が明確に示されることです。民法415条2項2号に定められています。
書面で伝えられたなどの場合に履行拒絶が発生したと言えます。
損害賠償が請求された判例
消費者(A)が、旅行会社のHPを見て旅行業者(B)に旅行の手配を依頼した事例です。
BはAの希望とは異なる内容の旅行を手配していました。HPに掲載していた内容が翌年のものであったために生じたミスということです。
希望と違うことを理由に、Aは旅行に参加しませんでした。そして、手配委託契約の債務不履行を理由に、Bに損害賠償請求しました。結果、旅行代金と弁護士費用の損害賠償請求が認められました。
契約不履行(債務不履行)の時効
損害賠償請求できる期間が決められています。民法166条1項により、権利を行使できると知った時から5年、権利を行使できる時から10年と定められています。
契約不履行が起きた場合の対応方法
契約解除や損害賠償請求以外の手段もあります。状況に適した対処をしましょう。
契約解除
民法540条では契約の解除権の行使について、540~548条ではどのように解除権を行使できるか定められています。
契約不履行も解除権行使の対象です。
541条により、一般的には相手方に履行するための相当の期間を設けた上で催告し、期間内に履行がなされなかった時、契約解除できます。
ただし、先に紹介した債務不履行のケースに当てはまる場合に関しては、542条により、通告なく契約解除が可能です。債務不履行の原因が債権者にある場合は、543条によって契約解除できない点にご注意ください。
履行の強制
債務者が債務を履行しない場合、民法414条に則り、履行の強制を裁判所に請求できます。
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
損害賠償請求
民法415条より、債務不履行が発生した時、債権者は債務不履行で生じた損害の賠償を請求できます。
416条では、損害賠償の範囲について定められています。
原則、債務不履行によって一般的に生じると考えられる損害のみ、賠償請求の対象です。ただし、例外的な事情であっても、債務者が予測すべき事態であったと見なされれば、賠償請求できます。
損害賠償請求するのであれば、時効にも注意しましょう。
権利を行使できると知った時から5年、権利を行使できる時から10年ということは既に説明しましたが、この時効が適用されるのは、2020年4月1日以降の事案です。民法改正に伴い設定された時効であるためです。
2020年3月31日以前の事案の時効は、権利を行使できる時から10年です。
また、人の生命・身体が侵害された場合の損害賠償請求の時効も新たに設けられました。
権利を行使できると知った時から5年以内、かつ、権利を行使できる時から20年以内が時効です。
追完請求
契約内容に適合しないものを引き渡された際に売り手に契約に沿った履行を求める、つまり完全な履行を求めることです。
民法562条で定められています。
以下の形の追完を請求できます。
- 目的物の補修
- 代替物の引き渡し
- 不足分の引き渡し
ただし、買い手の原因で契約内容に適合する形で履行できない場合は、追完請求できません。
減額請求
追完を求めたにもかかわらず履行がなされない場合、民法563条に則り、買い手は不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます。
追完請求同様、買い手が原因の場合は請求できません。
契約不履行を防止する方法
契約書はトラブル防止に有効な手段のひとつです。
契約書で規定する
合意した内容通りに履行されない事態を防ぐためには、損害賠償について明記しておくことをおすすめします。ただし、不当に高額な賠償金は、民法90条により公序に反すると見なされて無効になる恐れがあります。
どのようなケースを契約不履行と看做すか、契約不履行が発生した時の対応についても契約書でまとめておくと安心です。
契約不履行を起こした場合のリスクが分かると、起こさないよう気をつけるでしょう。結果、発生しにくくなると期待できます。
まとめ
契約不履行の定義と種類、起きた場合の対処法や起こさないための方法を解説しました。
どのようなケースで契約が履行されないのか、そして履行しない場合のリスクを知れば、トラブルなく契約を成立させる重要性とポイントが分かるでしょう。
【関連記事】契約業務におけるリスク管理とは?課題の解決方法もご紹介