ノウハウ これで丸わかり!契約書の電子化の進め方をイチから解説
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年05月20日
これで丸わかり!契約書の電子化の進め方をイチから解説
契約書の電子化について、何から進めるべきか?電子化に何が必要か?など様々な疑問点が浮かぶことでしょう。
今回は契約書の電子化について、電子化の手段・手順やメリット・デメリット、運用を成功させるコツを解説します。
電子化を進めるために必要な基礎知識が丸わかりとなる記事なので、ぜひ最後までご覧ください。
契約書の電子化とは
契約書を締結する手段といえば、従来は紙で作成した契約書に署名・捺印をするのが一般的でした。
しかし、近年はIT技術の発達や法整備などにより、電子署名を施した電子ファイルの契約書を送受信するという手段も社会に浸透しつつあります。
電子ファイルの契約書を送受信のうえ契約を締結できるようにする取り組みが、「契約書の電子化」です。
契約書以外に電子化できる紙書類
契約には数多くの種類があり、それぞれ用いられる契約書は異なります。
契約書の種類によっては、法律で電子化が可能なものと不可能なものがあるため注意しましょう。
電子化が可能な契約書の例としては、以下の通りです。
・売買契約書 ・取引基本契約書 ・請負契約書 ・業務委託契約書 ・雇用契約書 ・労働派遣契約書 ・委任契約書 ・代理店契約書 ・不動産売買契約書 ・賃貸借契約書 ・重要事項説明書 など |
一方で、以下の通り公正証書での契約締結が義務付けられている契約書の電子化は不可能です。
・事業用定期借地契約(借地借家法第23条) ・企業担保権の設定又は変更を目的とする契約(企業担保法3条) ・任意後見契約書(任意後見契約に関する法律3条) |
なお、契約書によっては「電子化の際は契約相手方への請求や承諾が必要」と法律で定められているものもあります。
電子化の際は、用いる契約書の種類に応じてルールを確認しておくことが大切です。
契約書の電子化の手段
契約書の電子化において一般的な手段は、電子契約システムの利用です。
電子契約システムとは、契約書の作成から送受信まで契約に関わる過程を電子的に行えるサービスを指します。
大きく分けて「当事者署名型」と「立会人型」の2種類があり、契約の法的効力を担保するための電子署名を付与する方法に違いがあります。
当事者署名型とは契約当事者の双方が専用の機器や承認用のICチップ入りカードなどを用いて、電子署名を付与するタイプのサービスです。
双方が自身で電子証明書を取得する手間がかかるのはデメリットですが、その分より強固な証拠能力を有しており、金融や特許関係などセキュリティ重視の業種に向いています。
立会人型は、事業者が提供する電子証明書を用いて電子署名を付与できるタイプのサービスです。
当事者が電子証明書を取得する必要はなく、インターネット環境があれば誰でも簡単に契約書を電子化できるという手軽さが特徴です。
相手方への負担が少ないこと、広く利用が広まっていることなどから立会人型の電子契約システムが世界的に主流となっています。
契約書を電子化する手順
契約書を電子化するには、ただ電子契約システムを導入すれば良い訳ではありません。
その後も円滑に運用できるように、入念な事前準備を済ませる必要があります。
契約書を電子化する際の基本的な手順は、以下の通りです。
1 現状の契約業務におけるワークフローを確認する 2 契約書を電子化する目的を明確にする 3 システムを利用する部署の意見も参考に電子契約システムの要件を定める 4 3で定めた要件をもとに利用する電子契約システムを選ぶ 5 電子化した契約書の申請フローを見直す 6 電子署名を付与するアカウントの管理者・電子署名の権限者を明確にする 7 利用予定の電子契約システムについて稟議する 8 電子契約への移行について取引先へ告知する 9 社内に向けて運用マニュアル作成や研修を行ったうえで運用を開始する |
長く紙ベースで契約業務を運用していた企業ほど、社内外に対する調整が重要です。
電子契約システムごとに利用できる機能は変わるため、自社に最適なサービスを見つけるためにも「なぜ電子化するのか」「契約書の電子化にどんな効果を期待しているのか」を定めることから始めましょう。
契約書を電子化するメリット
そもそも、契約書を電子化するとどのような効果が見込めるのでしょうか。
電子契約の主なメリットを、以下よりご紹介します。
コストの削減
契約書を紙で作成すると、印刷に伴うインク代や契約相手へ書類を送るための郵送料などが発生します。
また、契約書の種類によっては収入印紙が必要なため、印紙税もかかります。
電子契約書ならメールで送受信のうえ締結できるため、インク代・郵送料はかかりません。
また、電子契約書は収入印紙の適用条件に該当しないため印紙税も不要となり、コスト削減につながります。
検索性の向上
契約業務を紙ベースで運用すると、取引件数が増えるほど必要な契約書を探すことが難しくなります。
契約書を保管しているファイルを1ページずつめくって探す作業で大きなロスタイムが生じ、業務効率の低下を招きます。
契約書を電子化すれば、書類の種類・契約相手・締結日などの条件で絞り込み検索をして必要な書類を即時確認することが可能です。
業務効率の向上
紙の契約書では、書類作成・印刷・社内回覧と承認・郵送手配・契約相手からの返送という業務フローが発生します。
一方で電子契約書なら、一連の業務フローをすべてオンライン上で完結させることが可能です。
煩雑な事務作業を削減できるため、契約業務における効率向上に期待できます。
保管スペースの軽量化
取引件数が多いと、相応に大量の契約書を保管するためのスペースも必要になります。
契約書を電子化すれば物理的な書類が発生しないため、契約書で圧迫されない分オフィスのスペースを有効活用できます。
オフィス内の整頓に悩む企業、さらなるコスト削減を図りコンパクトで賃料の安い物件への移転を考えている企業なら特に嬉しいメリットです。
契約書の紛失防止
保管する紙の契約書の数が増えると、スペースを消費するだけでなく紛失リスクも高まります。
しかし紛失リスクを下げるための整頓を徹底しようにも、整頓に時間を取られて業務効率までも低下する恐れがあります。
電子契約書なら、契約書ファイルをデータ上で一元管理できるため紛失の心配がありません。
さらにバックアップやアクセス制限を設け、契約書の管理体制をさらに強化できます。
BCP対応ができる
BCPとは、自然災害・火災・パンデミックなどの非常事態が発生しても企業活動を継続するための対策です。
紙の契約書だと自社が災害を被った際に破損・紛失する可能性があり、企業活動の継続が困難となります。
一方で電子契約書は、データ化されているため有事の際も当初と変わらない状態で保存し続けることが可能です。
万が一従業員の出社が困難な状況となっても、各従業員がスマホ・パソコンなどの端末とインターネット環境を持っていれば速やかにリモートワークで対応のうえ事業を継続できます。
契約書を電子化するデメリット
契約書の電子化には業務効率化やBCP対策などにつながるメリットが複数ある一方で、以下のようなデメリットがある点も留意しましょう。
電子契約システムの選定に工数がかかる
電子契約システムは数多くの事業者から提供されており、その中から自社に合ったものを選ぶ必要があります。
電子署名の付与方法・料金・機能・法令への対応可否など複数のポイントをチェックしながら、自社の目的を達成するために有効なものを選ぶには手間がかかります。
契約書の電子化は思い立ったらすぐに実現できるものではなく、スケジュールに余裕をもって準備に取り組むものという認識が大切です。
文書整理が必要
既存の契約書を電子化するにあたって、まずは電子化する(できる)契約書をまとめておく必要があります。
そのうえで契約書を1枚ずつスキャンのうえ電子化する作業が生じるため、契約書が多ければ相応に準備にも時間がかかります。
ルールの整備が必要
電子契約を導入すると既存の業務フローも変わるため、事前に新たな業務フローや電子契約システムの使い方に関するルールを整備しなければなりません。
現状の業務について実情を把握し、従業員に電子契約の必要性を説明しながら社内調整を進め、業務フローやルールの整備を進める手間もかかります。
さらに契約相手からも電子契約への移行に関して理解を得る必要がありますが、ITシステムに馴染みのない相手だと不安感や抵抗感を覚える可能性に注意が必要です。
スムーズに理解を得るため、相手とのコミュニケーションも重視した進め方を意識しましょう。
電子契約の運用を成功させるポイント
電子契約をスムーズに導入し、運用を開始するために大切なポイントを解説します。
契約書の電子化に関連する法律を確認する
契約書を電子化するにあたって遵守すべき法律は契約の種類によって変わりますが、「電子帳簿保存法」や「e-文書法」はどんな契約にも関わる法律です。
電子化の前に、この2つの法律は理解しておきましょう。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法とは、税法で保存が義務付けられている国税書類や取引関係書類を電子保存するための要件、電子データでやり取りする取引書類の要件を定めた法律です。
契約書の場合は紙をスキャナ保存する場合と、作成から保存まで電子データで行う場合によって満たすべき要件が異なります。
また、電子取引でやり取りした契約書は、原則として電子帳簿保存法により紙での保存が認められません。
e-文書法
e-文書法とは、税法・商法・会社法・保険業法などにおいて紙での保存が義務付けられた書類の電子保存を認める法律の総称です。
具体的には、以下2つの法律で成り立っています。
・民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律 (約250の法律に関わる書類の電子保存を認める法律) ・民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 (上記の法律ではカバーしきれない部分を整備する法律) |
e-文書法が適用される法律に関わる契約書を電子保存する場合、e-文書法で定められた要件を満たす必要があります。
参考:民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律 | e-Gov法令検索
民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
電子署名法
電子署名法は、電子署名が付与された電子文書の真正性を認める法律です。
民事訴訟法では、契約書などの文書に対し「本人またはその代理人の署名や押印があるときは真正に成立したものと推定する」と明記されています。
電子署名法の要件を満たす電子署名法を電子契約書に付与すれば、それも本人またはその代理人の署名や押印が施された契約書として認められ、法的効力を担保できます。
参考:電子署名及び認証業務に関する法律 | e-Gov法令検索
システムによって機能性が変わるため精査する
電子契約システムには、主に以下のような機能が備わっています。
・契約書のテンプレート機能 ・アクセス・編集権限の付与機能 ・契約書の検索機能 ・電子署名の付与機能 ・タイムスタンプの付与機能 ・契約書の回覧・申請のワークフロー管理機能 |
紙の書類を用いた契約から電子契約へ移行するならテンプレート機能や電子署名・タイムスタンプ付与機能、契約情報を効率的に管理したいなら検索や権限付与機能…といったように、目的によって適した機能は異なります。
電子契約システムごとに備わっている機能の内容は変わるため、電子契約システムの導入後に期待する効果に合わせて利用するものを選ぶことが大切です。
また、同じ機能を備えていても電子契約システムごとに性能の程度が変わるため、よく精査しましょう。
OCRを活用する
OCRとは、カメラで撮影された紙の書類に印刷された文字を読み取り、電子データに変換できる技術です。
OCR機能が備わったシステムに書類を取り込めば、紙の書類の内容をコンピューター上で編集・コピーできるようになります。
さらに、AI技術を利用した「AI-OCR」なら高精度に文字を認識できるため、癖のある手書き文字で記載された書類も簡単に編集・コピーが可能です。
契約書の管理にあたって、契約書の内容の入力が必要となる場面もあります。
入力作業の手間を省き、契約書管理の効率をより向上させたいならOCR・AI-OCR機能の有無にも注目して電子契約システムを選びましょう。
電子契約の進め方で迷ったらシステムの活用がおすすめ!十分に準備して円滑な運用を
契約書を電子化する手段は複数ありますが、おすすめなのは導入のハードルが低い「立会人型」の電子契約システムです。
システムを活用して契約書の電子化を進めるなら、目的の設定・利用するシステムの十分な精査・社内外での調整といった準備に取り組みましょう。
また、電子帳簿保存法・e-文書法・電子署名法の他、自社で取り扱う契約に関わる法律も再度確認し、要件に反さない形で電子保存できるようにすることも重要です。
契約書の電子化にはコスト削減・業務効率化・BCP対策など多数のメリットがあるため、現在も紙ベースで運用を続けている方はぜひ契約書の電子化をご検討ください。