ノウハウ 契約業務のリスク管理を徹底解説。課題解決の具体的方法もご紹介
更新日:2024年10月31日
投稿日:2024年04月25日
契約業務のリスク管理を徹底解説。課題解決の具体的方法もご紹介
法務部門のコア業務である契約書関連の業務には、いくつかのフェーズがあり、それぞれのフェーズごとに異なるリスクや注意点があります。
そこで本記事では、契約業務におけるリスク管理、よくある課題、その対処法について解説します。
契約業務の重要性
契約業務は法務部門の中心的な業務であり、最も重要な業務の一つと言っても過言ではありません。では、なぜ契約業務がこれほど重要なのでしょうか。
それは、契約書がビジネスにおいて極めて重要な役割を果たしているからです。
契約書には、ビジネスにおけるトラブルが発生した際の対処方法やリスクヘッジ、当事者の基本的な役割など、ビジネスに必要な情報が明確に定められています。したがって、契約書がなければ、当事者はそのビジネスにおいてどのように行動すべきかが不明確になってしまいます。
このような契約書の内容をどう定め、締結した契約書を適切に管理するかは、ビジネスにおけるリスクヘッジやコンプライアンスの遵守などの観点から非常に重要です。
したがって、契約書の作成や審査を行う契約業務は、企業のビジネスにおける法的リスクを回避する上で極めて重要な役割を担っていると言えるでしょう。
契約業務の種類
契約業務には主に、契約書の審査・作成業務と契約書の管理業務があります。
契約書審査業務は、相手方から提示されたひな形や書式をチェックし、自社に不利な内容や法令上の問題がないかを確認する業務です。
契約書作成業務では、契約書のドラフトや修正案を作成します。この業務では、これまでの経験やノウハウを活かし、契約や取引の条件を具体的な条文に落とし込む作業が行われます。
これに対して、契約書管理業務は、審査や作成を経て締結された契約書を管理する業務です。ただし、契約書を単に保管するだけでは不十分です。契約書は、後から確認が必要になる場合があるため、必要な時にいつでも取り出せる状態で保管しておく必要があります。
さらに、契約には有効期限があるため、継続を希望する場合には契約を更新する必要があります。
このように、契約書管理業務では、単に契約書を保管するだけでなく、さまざまな点に配慮して行う必要がある点に注意が必要です。
契約業務の流れ
契約業務は次のような流れで進んでいきます。
①相談・契約書審査作成依頼受付 ②内容のヒヤリング ③契約書審査・作成 ④相手方と契約書案に関する交渉 ⑤契約書締結 ⑥契約書管理・保管 |
契約業務でリスクの高い状態とは
前述の通り契約業務は非常に重要な意味を持つ業務です。そのため、法務部門による契約業務が正常に機能していない状態ではリスクの高い状態に陥る可能性があります。
契約のリスクが分らない状態で締結されている状態
契約書の内容が法務の確認を経ておらず、契約リスクが不明なまま締結されている状態は、法務による契約書審査業務が正常に機能していない場合に起こりうるリスクの1つです。
法務による確認がないため、契約書に潜むリスクが把握されておらず、トラブルが発生した際にそのリスクが顕在化する可能性があります。このような状態は非常にリスクが高いため、社内で契約書の法務確認ルールを徹底することが必要です。
法令遵守ができていない状態
契約書の内容が把握されておらず、法令遵守ができていない状態です。特に、下請法などのように契約内容に法定された事項が定められている契約書については、法務部門が契約内容を把握するだけでなく、取引を遂行する事業部門も契約や関連法令について十分に理解しておく必要があります。
しかし、事業部門が契約内容を十分に理解していない場合、契約書通りに取引を行わず、結果として法令違反を引き起こすリスクがあります。
契約書の期限管理ができていない状態
契約書の期限管理ができておらず、必要な契約書の有効期限が切れている状態です。前述の通り、契約書には有効期限が設定されていることが多くあります。
契約書を保管する際には、期限管理を行い、ビジネスに必要な契約が常に有効な状態であることを保つ必要があります。
しかし、契約書管理業務が適切に行われていない場合、期限管理が不十分となり、必要な契約書の有効期限が切れ、契約が締結されていない状態に陥るリスクがあります。
契約業務のリスク管理における重要な要素
では、契約業務においてリスク管理における重要な要素はどういった点にあるでしょうか。ここからはリスク管理における重要な要素について解説します。
契約書の重要性が全社で共有できていること
契約書の重要性が理解されていない場合、法務部門をスキップして契約を締結してしまうことがよくあります。
このような事態を防ぐためには、ビジネスにおける契約書の重要性を法務部門だけでなく、全社で共有しておくことが必要です。
契約書の法令上のリスクを共有できていること
法令違反には罰金や課徴金などの金銭的リスクだけでなく、会社の社会的評価が低下するというレピュテーションリスクもあります。そのため、法令違反は絶対に回避すべきです。
その対策として、契約書に定められている法令遵守事項については事業部門としっかり共有し、周知徹底して遵守することが必要です。
契約書が無い状態のリスクが共有できていること
時折、信頼できる相手や良好な関係性があるために、契約書が不要と考え、契約書なしでビジネスを進めてしまうケースがあります。しかし、たとえ信頼できる相手であっても、認識の相違やちょっとした行き違いから契約内容に関するトラブルが発生することは十分に考えられます。契約書がない場合、そのようなトラブルの解決方法が不明確になってしまいます。
このため、契約書がない場合にビジネスを進めた際のリスクを事業部門と共有し、その重要性を理解してもらうことが重要です。
契約業務のフェーズごとのよくある課題
契約業務には様々なフェーズがありますが、各フェーズにはどういった課題があるでしょうか。ここではよくある課題をご紹介します。
相談受付
相談受付の段階では以下のような課題があります。
・相談者がどのような内容を伝えればよいかわからないため、相談時間や回数が増加しがち
|
契約書作成
契約書作成の段階では以下のような課題があります。
・適切でないひな形をベースにしたドラフトが作成されるため、作り直す際に工数がかかる ・契約書のドラフトにリスクが高い部分が含まれており、修正に工数がかかる ・契約書の作成方法がわからず他部署に依頼するため締結までに時間を要す |
契約書審査
契約書審査の段階では以下のような課題があります。
・契約書審査に関するナレッジが属人化しており、審査基準が不明確 ・業務の効率化が進んでおらず、審査に時間がかかる ・ナレッジの共有がなされていないため、審査ポイントの指導に時間がかかる ・相手方との交渉に時間がかかる ・書式や体裁の修正に時間がかかる |
審査・承認
審査・承認の段階では以下のような課題があります。
・契約書の審査・承認の相手先がわからず、確認などに時間がかかる ・誤って申請されたものを差し戻すため、時間がかかる。 ・審査のノウハウが共有されておらず、問題ないという結論が出しにくく、時間がかかる ・どこに申請を出せばよいのかわからず他部署に質問することにより全社的に業務効率が下がる |
契約書管理
契約書管理の段階では以下のような課題があります。
・締結済みの契約書が各部署で適切に管理されているか不透明な状態になっている ・紙で管理するため契約書を探し出すのに時間がかかる ・期限管理を見落としてしまい、期限管理漏れ、更新不要の契約書の更新をしてしまう ・契約更新が必要なものを誤って契約を終了させ、再締結の工数がかかる |
その他
その他、以下のような課題も考えられます。
・契約書なしで業務を開始したところ、相手方に情報漏洩されてしまった。契約書がないため、守秘義務といった条項がなく、義務違反の主張が難しくなってしまった ・契約業務の効率化のために様々なツールを導入したが、ツールごとに互換性がないため、転記などの作業量が増加 ・業務がブラックボックス化しており、属人化が進んでいる。他の担当者がサポートすることができない ・マニュアルを作成しても使われず、内部統制上のリスクがあるやり方が続けられてしまっている |
課題解決方法
以上のような課題を解決するためには以下のような方法が考えられます。
法務研修の実施
契約書の重要性や内容について理解し、周知するためには、事業部門の担当者を対象に法務研修を実施することが有効です。
研修では、契約書の基本的な構成や法的な観点、よくあるミスやそれに対する対策を取り上げ、実務に即した具体的なケーススタディを通じて学ぶことができます。これにより、担当者が契約書の重要性を認識し、適切に取り扱うことができるようになります。
契約書のひな型に関する情報を社内のイントラネットに掲載する
契約書のひな型について適切な使用がなされない場合には、よくある誤りや典型的な使い方を社内イントラネットに掲載し、情報を発信することが有効です。
イントラネットには、契約書のサンプルやテンプレート、正しい記入方法に関するガイドラインを掲載し、常に最新の情報を提供することで、担当者が迅速に必要な情報にアクセスできるようにします。これにより、契約書作成時の誤りを減少させることができます。
システムを導入し、適切な業務体制を整備する
契約業務に課題があり、リスク管理が難しい状態であれば、システムを導入し、最適な業務体制の整備を図ることも有効です。
契約管理システムを導入することで、契約書の作成から管理、更新、履行までのプロセスを一元管理し、業務の効率化を図ることができます。システムの導入により、契約書の管理が容易になり、業務の透明性とトレーサビリティが向上します。
また、導入するシステムによって最適なツールが異なるため、自社に合った最適なツールを選定することが重要です。自社の業務フローやニーズに合ったシステムを選び、導入後も継続的に評価・改善を行うことで、業務効率の最大化を図ることができます。
AI契約書審査ツールを導入し、ノウハウの共有やスキルの平準化を図る
契約書審査や作成には法的知識だけでなく、類似の事案から得た経験やノウハウも必要です。AI契約書審査ツールを導入することで、AIが契約書の抜け漏れを自動的に指摘し、契約書審査に必要なノウハウをAIによる指摘を通じて得ることができます。これにより、契約書審査の精度が向上し、業務の属人化やブラックボックス化といった課題を解決することができます。
AIツールの活用により、全体のスキルの平準化を図ることができ、チーム全体の知識とスキルを均等に保つことが可能です。これにより、契約書審査の効率が向上し、業務の標準化が進みます。
まとめ
契約書に関わる業務には様々なフェーズがあり、そのフェーズごとに課題があります。
契約書のビジネスにおける重要性に鑑みると、リスク可能性の高い契約書について法務部門をスルーして契約書を締結されるといった事態は最も避けなければいけない状態と言えるでしょう。
こうした事態を避け、契約書や契約書を守ることによって守ることができる法令などの重要性を事業部門に周知・理解してもらうためには法務が情報を発信していくこと、業務が効率的に行えるようプロセスを整備することが重要です。
契約書業務の多くの問題は分りにくさや業務の属人化といった点から生じているため、現場などが使いやすいと感じるツールを導入することで解決できる課題が少なくありません。
自社が現在どのような課題を抱えており、どのフェーズで問題が起きているのかまずは自社の状況を分析し、適切な解決策を講じてみましょう。