ノウハウ 海外の電子契約の現状とは?市場規模やサービスの選び方など解説
更新日:2024年10月31日
投稿日:2024年04月17日
海外の電子契約の現状とは?市場規模やサービスの選び方など解説
近年国内では、電子化した契約書で締結する電子契約の普及が拡大しています。
しかし、海外企業との取引にも電子契約は使えるのかどうかも気になるポイントのひとつです。
そこで今回は、海外の電子契約の現状として5つの国ごとに普及状況や法的取り決めを解説します。
海外取引における電子契約のメリット・デメリット、サービスの選び方もご紹介していますので、海外取引に電子契約の導入を検討する際の参考としてみてください。
海外における電子契約の現状
電子契約は、すでに海外の様々な国で導入が進んでいます。
特に新型コロナウイルスが流行し始めた2020年以降、当事者同士が対面しなくても契約を締結できる電子契約の普及率は増加の一途をたどっています。
Adobe社が2020年12月に実施した「電子サイン使用に関するグローバル調査」によると、過去2年間で電子署名を1回以上使用した経験があるユーザーの割合について、国別で以下の結果が出ています。
・フランス:67% ・アメリカ:66% ・シンガポール:59% ・ドイツ:36% ・日本:18% |
また、民間企業への電子署名導入をすすめてほしいか?という問いについては、グローバル平均で71.5%のユーザーが導入促進を希望していることが分かりました。
なお、電子契約は上記以外にも様々な国で導入と法整備が進んでいます。
以下より、アメリカ・台湾・タイ・ドイツ・エストニアの5ヵ国における電子契約の現状や法的取り決めについて詳しくご紹介します。
アメリカ
アメリカは電子契約の市場規模に関して世界でトップクラスに大きい国で、2018年の時点で3,900億の市場が形成されました。
1999年には電子署名の使用に関する法的枠組みであるUETA法 (Uniform Electronic Transactions Act) 、2000年には48州で同等に電子署名の法的効力を認めるe-Sign法が制定され、法整備も進んでいます。
とはいえすべての州で電子署名が有効なわけではなく、未だ一部の企業や組織で「ウェットインク(物理的な署名方法)」が利用され続けている点について指摘する声もあります。
参考:E-Signatures and the Coronavirus | Troutman Pepper
台湾
台湾は2001年に電子署名法が施行されており、署名や印鑑の使用が必要な場合において、双方の合意があれば電子署名での取引が法的に認められています。
とはいえ、日本と同じく契約におけるハンコ文化が未だ残っているのが現状です。
また、内務省・司法省・財務省・労働省など合計17の省庁と8の地方政府が電子署名を適用外としています。
政府によるサポートが少ない中、民間企業で電子契約の普及が拡大するには時間がかかる見込みです。
その一方で金融機関では電子署名法の施行から早くに公文書の電子署名に対応している他、医療機関でも電子カルテや電子署名の管理システムが積極的に導入されている傾向もあり、今後のさらなる普及拡大に注目したい国のひとつです。
タイ
タイでは2001年に電子取引法が施行され、要件を満たす電子署名を使った電子契約なら法律上の有効性が認められています。
具体的な要件としては「署名の本人確認ができること」「変更履歴を確認できること」など、日本の電子署名法にも共通するポイントがあります。
ただし、不動産売買契約・3年を超える不動産の賃貸借契約・抵当権設定契約・相続に関する取引などには、電子署名の使用が認められません。
近年はパンデミックによる移動制限の影響で需要が加速している傾向にありますが、公的機関や民間の企業・組織における導入実績は未だ多くないのが現状です。
ドイツ
ドイツでは、すべての欧州加盟国に適用されるeIDAS規制に基づき電子署名が法的に有効とされています。
eIDAS規制とドイツの法律に準拠する形で様々な契約に電子署名が活用されていますが、一部の重要な契約については、適格証明書に基づいた「QES」と呼ばれる高度電子署名の利用が必要です。
現状の市場規模としてはヨーロッパにおいてトップクラスであり、2030年までには8.98億ドルにまで拡大することが見込まれています。
参考:E-Signature Market Size, Growth & Forecasts, 2024-2030
エストニア
エストニアは、ドイツと同様にeIDAS規制のもと日常的に電子署名が利用されています。
官公庁でもほとんどの手続きのオンライン化が進んでおり、電子契約がスタンダードな方法として認識されています。
また、身分証明書システムの充実性と普及率が高いことも特徴です。
エストニアでは氏名や生年月日といった基本的な本人情報の他、認証と電子署名のどちらにも使える電子証明書が格納された「e-ID」が交付されています。
日本でいうマイナンバーカードのようなものですが、普及率は98%とほとんどの国民に利用されていることがわかる数値です。
エストニア国民にとってe-IDを用いた電子契約は、紙契約よりも簡単かつ安全なものという認識が浸透しています。
海外取引に電子契約を用いるメリット
日本よりも電子契約の導入が進んでいる海外企業との取引において、電子契約の利用「相手にとってスタンダードだから」だけに留まらず様々なメリットを得られます。
郵送コストの削減
海外企業と紙契約をするとなれば、国内企業との契約のように対面で契約書を交わすことができません。
そのため、海外に対応したサービスを使って契約書を郵送する必要があります。
海外へ書類を郵送するには印刷費・郵送費・国際配送費といったコストがかかるだけでなく、相手方へ到達するまでに時間もかかります。
加えて、郵送中に封筒がダメージを受けて破損したり紛失したりといったリスクも高いです。
電子契約なら契約書のデータを作成のうえオンラインで送受信できるため、郵送コストや破損・紛失リスクの心配もなく迅速な契約締結が可能になります。
契約時のコミュニケーションが簡単になる
海外企業との紙契約では、時間や距離などの事情から直接的なコミュニケーションの機会が限られるため、契約締結までのやり取りに時間がかかります。
電子契約なら、作成した契約書のデータをメールや電子契約システムを介しオンラインで即時共有できます。
その後の質問や修正・変更の依頼といったやり取りも同じくオンラインで可能なため、契約締結に必要なコミュニケーションが取りやすくなることもメリットです。
事業のグローバル展開の促進
契約書の送受信やコミュニケーションがスムーズとなる電子契約を導入することで、海外企業との契約に対するハードルが下がります。
また、電子契約システムの中には複数の言語に対応したサービスもあるため、上手く活用すれば英語圏をはじめ様々な国の企業との取引がさらに容易となります。
結果的に事業のグローバル展開の促進につながり、自社を国際的な成長へ導きやすくなることでしょう。
契約データの一元管理が可能
電子契約を用いたケースのいずれにも共通するメリットとして、契約書の管理が簡単になる点も挙げられます。
紙契約の場合は取引の件数が多いほど契約書の管理に手間がかかるだけでなく、必要なときにすぐに取り出せなかったりオフィスのスペースを圧迫したりといったデメリットが生じます。
一方で電子契約なら、契約書はすべてデータとして端末やクラウドサービスに保存できるため管理がしやすく、検索機能を用いて必要な契約書を即座に取り出すことが可能です。
これにより、契約業務の効率向上にもつながります。
【関連記事】電子契約の導入メリットとは?手順やおすすめクラウド型システムも紹介
海外取引に電子契約を用いるデメリット
海外取引において電子契約は様々なメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
国ごとで法的有効性が違うことに注意が必要
先述した世界各国における電子契約の現状でも触れた通り、電子契約に関わる法律の内容は国によって異なります。
国ごとに電子契約の法的な有効性が認められていない契約があったり、電子契約そのものが認められていなかったりする点に注意が必要です。
また、契約するにあたってどちらの国の法律を基準とするかについても決めなければなりません。
これを明確化のうえ契約書に記しておかないと、契約に関してトラブルが生じたときに適切な対応ができなくなる恐れがあります。
英文での作成が一般的
海外取引に用いられる契約書のほとんどは、英文で作成されます。
契約書には法的な専門用語や応用的な言い回しも多用されるため、単に英文のスキルに優れているだけでは適切な内容に仕上げることができません。
英文で契約内容を正しく記載するには、海外取引のサポートに特化した弁護士によるリーガルチェックが重要です。
また、電子契約に関わる法律は国ごとに異なるため、同じ英文でも別の取引先と交わした契約書の内容は使い回さず、その都度専門家に相談しながら作成すると良いでしょう。
電子契約による海外取引で注意すべきポイント
法律も文化も異なる海外の企業と円滑に契約を進めるためにも、以下のポイントを意識することが大切です。
契約の前提となる事実を明記する
海外取引で最も重要なのは、契約の前提部分を契約書に明記することです。
具体的には、以下のような点を明確化する必要があります。
・どちらの国の法律を基準とするか ・契約に関して紛争や裁判へ発展した場合に裁判を行う国 |
海外取引においてすべてのトラブルを想定しながら条件を定めることは難しいですが、最低限上記の条件については明確化しておきましょう。
法律や紛争・裁判の発展時に関する対応方法が曖昧だと、万が一トラブルが生じた際に争いの泥沼化を招く恐れがあります。
また、相手方の企業が実在するのか、相手方の担当者は契約の決裁権を持っているのかといった点の扱いも、国内外で異なる場合があるため注意しましょう。
双方の商習慣・常識におけるズレを埋められるよう努める
法律だけでなく、ビジネスに関する習慣や社会常識も日本と海外とで大きく異なる場合があります。
契約書の内容を精査すれば、そういったズレも埋めることが可能です。
日本では当然とされている習慣・常識が海外ではイレギュラーな可能性があるという点を意識して、国ごとに柔軟な姿勢で契約条件を定めましょう。
契約書作成は電子契約システムの活用がおすすめ
電子契約の手段は、大きく分けて「自社で文書作成から電子署名・タイムスタンプの付与まで対応する」か「電子契約システムを利用する」かの2通りです。
前者は電子署名・タイムスタンプを付与するために電子証明書を取得する手間がかかるため、より効率的かつ簡単に電子契約を導入するなら、電子契約システムの活用がおすすめです。
英文対応かつ電子署名機能が備わった電子契約システムなら、電子証明書などの準備をしなくてもすぐに海外取引で使える契約書の作成・送受信ができます。
【関連記事】電子化できない書類とは?法律の要件や改正ポイントを解説!
海外取引に用いる電子契約システムの選び方
数ある電子契約システムの中から、自社にとって取引の円滑化に有効なサービスを見つけるなら、以下のポイントを意識した選び方がおすすめです。
英語に対応しているか確認する
先述した通り、海外取引の契約書はほとんどの場合英文で作成されます。
そのため、海外取引に使える契約書を効率的に作成するなら英文に対応したサービスが必須です。
セキュリティ対策の充実度を確認する
国内外とわず共通しているポイントですが、電子契約システムにおいてはセキュリティ対策も重要です。
データの改ざんや不正アクセスといったリスクが抑えられたサービスを選ぶことで、海外取引でも契約の安全性を確保できます。
サービスごとの安全性を見極めるうえで、情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格である、「ISO/IEC 27001」を取得しているかどうかが主な指標となります。
双方にとって扱いやすいサービスを選ぶ
契約業務を効率化させるため、双方の実務担当者にとって扱いやすい仕様になっているかも確認しておきましょう。
特に国内ではITシステムの扱いに慣れていない人も珍しくなく、自社の実務担当者が電子契約システムの操作に抵抗感を覚える可能性もあります。
しかし実際の使用感はサービスの情報を見ただけでは分からないため、無料トライアルが用意されているものを探して試用期間を設けてみるのも手です。
海外において電子契約はスタンダード!信頼できる電子契約システム選びが重要
海外、特にアメリカやヨーロッパではあらゆる分野で電子署名が用いられており、今や電子契約がスタンダードという状況です。
コミュニケーションの円滑化・コスト削減・グローバル展開の促進といった観点から、国内企業も海外取引のために電子契約を導入するメリットは大いにあります。
ただし国内での取引では当たり前とされている習慣や常識が海外では通じない可能性もあるため、万が一のトラブルに備えて契約書の内容は慎重に精査することが大切です。
海外企業との電子取引をより効率的に行うなら、英語・電子署名・タイムスタンプなど必要要件の精査を行ったうえで検討を進めましょう。