ノウハウ 取締役会の決議事項を一覧で解説!会社法に沿った運営方法も
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年04月1日
取締役会の決議事項を一覧で解説!会社法に沿った運営方法も
取締役会では、会社の業務執行に関わる事項を決めることができます。
その事項を「決議事項」と呼びますが、具体的にどんな内容が含まれているのかはご存知でしょうか。
今回は会社法で定められた取締役会の決議事項の内容を中心に、報告事項との違いや取締役会議事録の書き方なども徹底解説します。
取締役会とは?
そもそも取締役会とは、3人以上の取締役で構成された機関のことです。
主に会社の業務執行に関わる意思決定を執務としており、会社法327条にて以下の会社に設置が義務付けられています。
・公開会社 ・監査役会設置会社 ・監査等委員会設置会社 ・指名委員会等設置会社 |
また、取締役会を設置した場合は最低でも3ヵ月に1回は開催する必要があります。(会社法363条2項)
▶取締役会とは?会社法に沿って開催頻度・議題・議事録作成など解説
取締役とは
取締役会に参加する「取締役」とは、会社法348条で1名以上置くことを義務付けられている重要な役職です。
取締役会と同じく会社の業務執行に関わる意思決定を執務としており、小規模な会社は取締役のみ置くケースも珍しくありません。
取締役と取締役会の違いとしては、後者は業務執行に関わる意思決定だけでなく取締役の監督・監視や代表取締役の選任・解任も行うことが挙げられます。
取締役の権限
取締役会をおかない会社においては、原則として、取締役は1名でも2人以上でも全員に業務執行権と会社の代表権があります。
ただし定款の定めに則り特定の取締役から代表取締役を選任する場合、代表取締役が代表権を持つことになります。(会社法349条1~4項)
取締役会と株主総会の違い
株主総会もまた、株式会社が会社に関する意思決定を行う機関です。
取締役会との違いとしては、株主総会は規模にかかわらずすべての株式会社に設置が義務付けられていることです。
また、取締役会では経営に関する様々な事項について決議を行いますが、株主総会では会社の組織・運営・管理など基礎的な重要事項について決議を行います。
会社法で定められた取締役会の決議事項
取締役会では株主総会での決議が必要な内容を除き、会社に関する一切の事項について決めることができます。
その中でも取締役会で決議しないと執行できない内容が会社法で定められており、これを一般的に「取締役会決議事項」と呼びます。(会社法362条4項)
決議事項とされている内容については、個々の取締役に決定を委任することはできません。
取締役会における決議事項の内容
取締役会は、大きく分けて以下の3つに関して決められる権限を持っています。(会社法362条2項)
・業務執行の決定 ・取締役の職務の執行の監督 ・代表取締役の選定及び解職 |
また、「業務執行の決定」の中には重要な業務執行として、以下の7つの決議事項があり、これについては取締役会の決議を経て決定しなければなりません。
・重要な財産の処分及び譲受けに関する事項 ・多額の借財に関する事項 ・支配人その他の重要な使用人の選任及び解任 ・支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止 ・社債に関わる事項 ・内部統制を確保するための事項 ・定款の定めに基づく役員などの責任免除 |
それぞれの事項は具体的にどのような内容なのか、以下より解説します。
取締役会設置会社の業務執行の決定
取締役会における業務執行の決定とは、法令や定款で定められた株主総会での決議事項を除く、業務執行に関して意思決定することです。
特に後述する「重要な財産の処分及び譲受けに関する事項」~「内部統制を確保するための事項」は慎重に意思決定する必要があり、個々の取締役に決定を委任することはできません。
取締役の職務の執行の監督
取締役会には、取締役の職務の執行について監督・監視義務があります。
会社法363条2項では、取締役は最低3ヵ月に1回は職務の執行状況を取締役会で報告することが必須とされています。
報告を通して是非を判断する他、取締役会自らが取締役の職務について監視し、必要に応じて招集のうえ適正な業務執行が行われるようにしなければなりません。
代表取締役の選定及び解職
取締役会を設置する会社は、取締役の中から「代表取締役」を選定しなければなりません。(会社法362条3項)
選定方法は定款の定めに基づく方法、または株主総会の決議です。
なお、代表取締役は理由を問わずいつでも解職が可能で、取締役会決議を経て解職させることができます。
重要な財産の処分及び譲受けに関する事項
重要な財産の定義は会社法で明確にされていませんが、当該財産の価額・会社の総資産に占める割合・保有目的などを総合的に判断して重要な財産とみなすのが望ましいとされています。
重要な財産との処分(売却や取り壊しなど)や譲受け(取得や賃借など)に関わることは、取締役会の決議を経て決める必要があります。
多額の借財に関する事項
会社が多額の財産を借入する場合、会社財産に大きな影響を与えるため取締役会での決議が必要です。
重要な財産と同様、何をもって「多額」とみなすかもケースによって異なります。
会社における総資産と経常利益などに締める割合、借財の目的、会社における従来の取り扱いなどが判断基準です。
支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
支配人とは、会社に代わり事業に関して裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する者であり、ホテルの支配人や銀行の支店長などがこれにあたる場合がありますが、どういった役職の者を支配人とするかは法律では定められていません。
重要な使用人は支配人と同等の重要性がある従業員を指しますが、これに関して明確な取り決めはありません。
支配人・重要な使用人それぞれを選任または解任する場合も、取締役会での決議が必要です。
支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
重要な組織は、支店と同等の重要性がある部門(本社の部や子会社など)や会議体(経営会議など)を指します。
支店や重要な組織の設置・変更・廃止は会社の組織体制に大きな影響を与えるため、個々の取締役による決定はできず取締役会で決議する必要があります。
社債に関わる事項
会社が資金調達を目的に発行する債券(社債)は、多額かつ長期的な借入れにあたります。
そのため、社債に関して重要な事項は取締役会の決議を経て決定しなければなりません。
重要な事項とは、募集社債の総額や2名以上の募集にかかる募集事項を取締役へ委任する旨等があります。
内部統制を確保するための事項
法令に適合した業務執行を行うための基本体制の確保に関する事項は、会社の基本方針として重要となるため、取締役会での決議事項に含まれています。
具体的には、以下の内容が内部統制を確保するための事項に該当します。
・取締役の職務執行に係る情報の保存・管理に関する体制 ・会社の損失の危険の管理に関する規程やその他の体制 ・取締役の効率的な職務執行を確保するための体制 など |
定款の定めに基づく役員などの責任免除
役員などの会社に対する任務懈怠責任の完全な免除または一部免除について、取締役会の決議に基づき決定できます。
任務懈怠責任とは、役員としての任務を怠った場合に会社に対して損害賠償責任を負うことです。
基本的には総株主の同意により免除が可能となっていますが、定款で定めていれば取締役会決議を経て免除することもできます。
取締役会の決議事項と報告事項の違い
先述したように、「決議事項」とは各取締役だけで決定を判断できず取締役会の中で決議するべき事項を指します。
この決議事項に加え、取締役会には「報告事項」という議題もあります。
取締役の中でも以下に該当する取締役は、3ヵ月に一回以上は自己の職務の執行状況について取締役会に報告が必要です。
・代表取締役 ・代表取締役以外の取締役で、取締役会の決議により業務を執行する取締役として選定された者(業務執行取締役) |
取締役会における報告事項とは報告だけで足りる事項であり、主に取締役の職務の執行状況がこれにあたります。
取締役会決議と要件について
取締役会の決議についても、会社法で要件が定められています。(会社法369条1項)
取締役会では原則として、以下の要件を満たすことで決議が行われます。
・議決権を持つ取締役の過半数の出席 ・出席した取締役の過半数の賛成 |
ただし取締役会で解職を求められている代表取締役など、「決議に特別の利害関係を有する取締役」は決議に参加できません。
なお、6名以上の取締役が参加しており、その中に社外取締役が1名以上いる場合は以下の決議事項について「特別取締役」のみによる決議も可能です。(会社法373条1項)
・重要な財産の処分及び譲受けに関する事項 ・多額の借財に関する事項 |
取締役会決議を省略できる場合もある
例外として、決議事項として提案された事項について、取締役全員が書面・電磁的記録で同意すればその事項を可決する旨の取締役会があったとみなせます。(会社法370条)
これを「書面決議」や「みなし決議」と呼び、あらかじめ定款で定めることにより取締役会での決議を省略できるものです。
ただし監査役がその当該事項について異議を唱えた場合、決議の省略はできません。
取締役会の運営の流れ
取締役会を運営する際の具体的な流れは、以下の通りです。
招集
取締役会の開催にあたって、「招集権者」が招集を行います。
招集通知を発する方法について取り決めはなく、電話・メール・口頭などどんな方法でも問題ありません。
ただし取締役会の日の1週間前、または定款で1週間未満の期間を定めた場合はその期間までに、招集通知を発しなければなりません。(会社法368条1項)
取締役会の招集権者
取締役会における招集権者とは、原則として取締役のみです。
ただし定款で特定の取締役が招集権者であることを定めた場合、その取締役だけが招集権を持ちます。(会社法366条1項)
なお、招集権を持たない取締役でも、招集権者に対して招集の請求をすることは可能です。
進行
取締役会の議題としては決議事項と報告事項の2種類がありますが、進行方法については自由です。
議題に関する議論や質疑の末、決議を行えば問題ありません。
議事録作成
取締役会の議事録については、出席した取締役や監査役の署名または記名押印が必須です。
取締役会議事録とは
取締役会議事録とは、取締役会の議事について記録した書類です。
会社法では取締役会議事録の作成と、会社の本店で10年間保管することが義務とされています。(会社法371条1項)
また、株主や債権者等から閲覧・謄写の請求があった場合はそれに対応する必要があります。
取締役会議事録の作成方法
会社法施行規則では、取締役会議事録にて以下に記載の事項等が必要とされています。
・開催日時 ・開催場所 ・出席した取締役や監査役の氏名 ・出席した会計参与、執行役、会計監査人、株主の氏名 ・議事の内容に利害関係を有する取締役の氏名(いる場合) ・議長の氏名 ・特別取締役による取締役会の場合はその旨 ・特別の招集にあたる取締役会の場合はその旨 ・議事の要領と結果 |
また、記載が必須ではない場合もありますが、決議に反対した取締役の意見など必要と思われる事項についても記載しましょう。
取締役会議事録は電子化もできる?
取締役会議事録は書面の他、電磁的方法での作成も認められています。
取締役会議事録の電子化にあたっては、直筆の署名・記名押印に代わる措置が必要です。(会社法369条4項)
この措置としては会社法施行規則225条にて電子署名が該当すると明記されており、「当事者型」と「立会人型」のどちらも利用できます。
取締役会議事録を電子化する方法
記載事項・保管に関する要件を満たして電子署名を用いれば、取締役会議事録の電子化について留意すべき特別な要件はありません。
ただし、電子化には以下のような準備が必要となるため注意しましょう。
・押印の有効性に関する社内規程の変更 ・商業登記電子証明書の取得 ・閲覧や謄写に応じるための手段の用意 |
取締役会運営に関する注意点
取締役会の運営に関しては、以下2つの点に注意が必要です。
取締役会のリモート開催時に必要な記載事項
法務省が平成8年4月19日付に発表した見解により、取締役会は「即時性」と「双方向性」さえ満たせばリモートで開催できることが明らかになっています。
取締役会をリモートで開催した場合、議事録には先述した事項に加えて下記の記載も必要です。
・開催場所にいない取締役等の出席方法 |
また、施行規則で定められてはいませんが、「出席者が出席している場所」と「出席方法が即時性と双方向性を満たしていること」も記載するケースが一般的です。
会社法が定めた手続きで招集しないと決議が無効になる
昭和42年の判例では、「取締役会の招集につき一部の取締役に対する通知もれがあつた場合と取締役会の決議の効力」について以下のように示されています。
“株式会社の取締役会の開催にあたり、一部の取締役に対する招集通知を欠いた場合は、特段の事情のないかぎり、右招集手続に基づく取締役会の決議は無効であるが、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情があるときは、決議は有効であると解すべきである。” |
つまり一部の取締役に対して招集通知もれがあった場合、特段の事情がなければ取締役会の決議が無効になるということです。
そのため、招集の際は十分に注意する必要があります。
取締役会では会社法が定めた決議事項の理解が必須!
取締役会決議事項とは会社の経営に関して特に重要であり、取締役に決定を委任できないため、取締役会で決議すべきと定められている事項です。
決議事項の他にも、取締役会に関しては設置の義務・報告事項・招集・議事録の内容など様々なことに取り決めがあります。
法令や定款に反する方法で招集・決議を行うと無効になる可能性もあるため、会社法上の知識を深め適切に取締役会を運営しましょう。