ノウハウ 働き方改革12の内容。企業側の3つのメリットと推奨理由とは
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年02月15日
働き方改革12の内容。企業側の3つのメリットと推奨理由とは
働き方改革には12のポイントがあります。取り組むことで労働者と企業はどのような恩恵を受けられるのでしょう。
本記事では働き方改革について押さえるべきポイントや関連する法律、メリットと導入時の注意点を解説します。
改革が推進される理由、日本の現状、事例についても紹介しています。良い具体例が分かると、自社の施策の参考になるはずです。
働き方改革とは
労働者自身で個人の事情を考慮した働き方を選択できるようにすることです。
どのような働き方が適しているかは人によって異なります。故に、多様な働き方が想定されます。企業には、あらゆる働き方に対応できる体制を整えることが求められます。
目的
労働者が自身の状況に適した働き方を自分で選ぶことができると、日本を取り巻く労働問題の解決に至るかもしれません。少子高齢化による現役世代の減少、労働者が仕事に求めることの多様化などが課題に挙げられます。
課題を解決する上で、生産性向上が役立ちます。同時に、働きたい・働きやすそうと思える環境を整えることも欠かせません。
働く意欲のある人が理想的な働き方を実現できると、各企業の成長を期待できます。また、労働者が理想のキャリアプランを叶えることも目指します。
「働き方改革」とは何だったのか。変わった or 変わらない?3年間を振り返る
働き方改革の内容をわかりやすく
働き方改革12のポイントを解説します。
時間外労働の上限規制
残業時間を原則45時間/月、360時間/年とし、特別な事情がある場合以外は超えてはならないと定めたものです。
大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から始まっています。
特別な事情があるとして労使協定に合意していても、以下を超すことは認められません。
- 720時間/年以内
- 複数月平均(「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」)80時間以内※休日労働含む
- 100時間未満/月※休日労働含む
上記に違反すると罰金が科される場合があります。
年次有給休暇5日の確実な取得
大企業・中小企業共に2019年4月から始まっています。
労働者ごとに年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内の5日間、「労働者からの請求」「計画年休(労使協定を結んだ企業があらかじめ労働者の有給取得日を定められる制度)」「企業側の時季指定」いずれかで有給休暇を与えなければなりません。
例えば4月1日が基準日の場合、翌年3月31日までに5日間の有給休暇を取得させる必要があります。
法定の年次有給休暇付与数10日以上の全ての労働者が対象です。
使用者は、年次有給休暇管理簿を作成して3年間保管する必要があります。年次有給休暇管理簿とは、労働者ごとに基準日、取得できる年次有給休暇日数、年次有給休暇を取得した日付を明らかにするものです。
月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引き上げ
2023年4月1日から中小企業の割増賃金率が引き上げられました。
改正前は大企業50%、中小企業25%でしたが、改正後は中小企業も50%になっています。
フレックスタイム制の拡充
フレックスタイム制とは、決められた範囲内で労働者が始業と終業時間を決められる制度です。プライベートとの両立を図ることで、業務の効率アップやモチベーションアップなどが見込まれます。
就業規則などで設定し、労使協定で以下を定めることで導入できます。
- 対象者
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム※任意
- フレキシブルタイム※任意
法改正で、清算期間の上限が1ヶ月から3ヶ月に延長されています。月をまたいで労働時間を調整できるということです。
ただし、繫忙月でも下記いずれかを超えたら時間外労働と見なされます。
- 清算期間全体の労働時間が平均40時間/週
- ひと月ごとの労働時間が平均50時間/週
また、清算期間が1ヶ月を超える場合、所轄労働基準監督署長に労使協定の届出が必要です。従来通り清算期間が1ヶ月を超えない場合、提出は不要です。
「勤務間インターバル」制度の導入促進
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了から翌日の出社までに一定時間空けないといけないとする仕組みです。労働者の休息を確保するために設けられました。
労働時間等設定改善法の改正で、導入が努力義務になりました。
労働時間の客観的な把握
タイムカード、PCの使用時間などの記録から、労働者の出退勤・入退室時刻を把握できるようにすることが義務化されます。
労働時間が自己申告制だと、従来であれば法令違反とは見なされませんでした。しかし、義務化によって労働時間を客観的に把握できないことは法令違反となり、是正勧告の対象です。ただし、罰則はありません。
高度プロフェッショナル制度を除く全ての労働者が対象です。
「高度プロフェッショナル制度」を創設
高度な専門的な知識などを持ち、職務の範囲が限られている一定以上の年収のある労働者には、本人の同意を得て、労働基準法で定められた労働時間や休日などが適用されない制度です。高収入を得ながらメリハリのある働き方ができるようになります。
制度を適用するには、労働委員会の決議が必要です。年間104日以上の休日を設けることと、健康管理時間の状況に応じた健康や福祉への配慮(例えば面談の実施や相談窓口の設置)などは求められます。
産業医・産業保健機能の独立性中立性の強化
産業医の独立性・中立性が強化されます。
産業医から勧告を受けた事業者は、勧告内容を衛生委員会に報告しなければなりません。※産業医の選任義務のある労働者50人以上の事業場
産業医を置く事業者は、産業医の業務内容を掲示するか備え付けるなどして労働者に周知することが求められます。産業医の選任義務のない事業場で医師か保健師を置いた場合は、努力義務です。
時間外労働の時間といった労働者の健康管理の参考となる情報を産業医に提供する必要があります。ただし、労働者の同意が得られない、提供できない正当な理由がある場合は除きます。
事業者は、産業医に寄せられた労働者の健康状態に応じた環境整備に努めることが求められます。
長時間労働者と産業医との面接の流れも変更されます。
正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止
職務範囲・内容が同じで転勤の有無といった明らかな違いがないにもかかわらず、正社員・非正規雇用という理由だけで基本給やボーナス、手当に違いをつけると違反となります。
次に紹介する「同一労働同一賃金」も、雇用形態だけを理由とした待遇差の禁止を実行したものです。
同一労働同一賃金
正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差をなくす法律の一環です。
2020年4月から始まっていますが、中小企業のパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年4月1日からでした。
同一企業内の正社員と非正規雇用労働者間の不合理な待遇差として、以下のようにガイドラインが定められています。
- 職務内容
- 職務内容・配置の変更の範囲
上記が正社員と同じ非正規雇用労働者については、正社員と同じ待遇にしなければなりません。
- 職務内容
- 職務内容・配置の変更の範囲
- その他の事情
上記の違いに応じた差にとどめる必要があるということです。
派遣労働者については、下記いずれかを満たす待遇が求められます。
- 派遣先の労働者と均等・均衡がとれている
- 同種の業務に従事する一般労働者の平均賃金と同等以上の賃金など一定要件を満たす
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
不合理な待遇差をなくすため、労働者の待遇についても説明義務が強化されました。
非正規雇用労働者から待遇差の内容・理由、待遇を決定する際の考慮事項についての説明を求められたら、応じなければなりません。
行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
ADRとは裁判外紛争手続のこと。裁判以外の方法で問題解決を図る手段です。
第三者が当事者間の仲裁に入り、話し合いによって解決を目指すことが一般的です。中でも、国民生活センターなどの行政機関が第三者の役割を果たすものを「行政ADR」と言います。
均等・均衡な待遇、待遇差の内容・理由説明などを求めることも、行政ADRを活用できるようになります。
働き方改革推奨の理由
限られた人数で効率的に働けて、労働者が働きやすいと思える環境を整えることにつながるためです。
労働人口減少
少子高齢化で労働人口は減る一方です。労働人口の少なさは、長時間労働の原因でもあります。
長時間労働は、心身の不調を引き起こしかねません。心身共に健康に働くためには、長時間労働を改めなければなりません。限られた時間でいかに成果を出すか、という心がけが大切になります。
労働環境の変化
年功序列に代わって成果主義が導入される、結婚・出産後も働き続けることが珍しくないなど、労働環境は変わってきています。取り巻く環境が変化しているにもかかわらず従来の働き方が変わらないと、仕事に対する評価が難しくなるでしょう。
労働者がやりがいを感じられるよう、働き方の選択肢も増やしていかなければなりません。
労働力の多様性
グローバル化は労働力にも影響を及ぼします。
性別や年齢やバックグラウンドが様々な人材が集まることは、新しい事業が生まれる可能性を秘めています。転職も当たり前となっていて、経験・知識の異なる多様な人が集まりやすくなっているはずです。
にもかかわらず、多様な人材を受け入れ、評価する体制が整っていなければ、モチベーションの下がる労働者が出てくる恐れがあります。どの人にも働きやすく、高く評価してもらっていると感じられる環境・仕組みが必要になるでしょう。
ワーク・ライフ・バランスの重視
ワーク・ライフ・バランスは、心と体の健康維持に欠かせません。プライベートの充実は仕事へのモチベーションにもつながります。
労働時間の短縮などに取り組むと、自然とワーク・ライフ・バランスはとれてくるはずです。
生産性向上の追求
労働時間を減らしても業績を落とさない、そして業績アップを目指すには、生産性を上げることが必須です。
高パフォーマンスを発揮できる働き方を認め、対応していくことが、ひとりひとりの生産性向上、そして組織全体の生産力の向上につながります。
人材の確保と定着
働き方改革は働きやすい職場環境の整備とも捉えられます。
例えば従業員のワーク・ライフ・バランスを大切にしてくれるなど、働きやすそうと思われる職場で働きたい人は多いです。結果、今いる従業員には働き続けたいと思ってもらえて、人材募集していたら応募したいと思う人も増えるでしょう。
働き方改革に関係する法律
働き方改革に関連する5つの法律の概要をまとめました。
働き方改革関連法
2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から順に施行されています。
「働き方改革の内容をわかりやすく」で紹介した12の事項、例えば時間外労働の上限規制や年次有給休暇の確実な取得などを定めたものです。
労働基準法
正社員・非正規雇用労働者を問わず、全ての労働者に適用されるルールです。
- 就業規則
- 労働者に労働条件を示さなければならない
- 毎月1回以上一定の期間で賃金を支払わなければならない
- 割増賃金
- 労働時間と休日
- 労働時間に対する休憩時間
- 有給休暇
- 解雇・退職時の扱い
など
労働安全衛生法
労働災害を起こさない対策などによって職場の労働者の安全・健康を守り、作業場の環境を快適に保つためのものです。
危険な作業を伴う機械の使用者は、製造許可や検査、構造規格への適合などが義務化されます。
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
労働者の健康と生活、そして多様な働き方に適応できるよう、労働時間や休日数、年次有給休暇などの設定の改善に努めることを定めます。
パートタイム・有期雇用労働法
正社員・非正規雇用労働者の不合理な待遇差の禁止、待遇について労働者への説明義務、行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備を定めたものです。
働き方改革の現状
2020年度の内閣府の年次経済財政報告を読むと、取り組んでいる企業は多く、メリットも感じられているものと思われます。
年次有給休暇取得を進める企業では、労働時間の短縮や離職率低下と共に、生産性アップが見られました。採用数の増加にもつながりました。
残業時間を公表したり人事評価に反映させた企業では、労働時間が減少しています。
同一労働同一賃金の結果、非正規雇用労働者の割合が低下しました。対して人材採用数は増えました。
テレワークで生産性向上を実現した企業もあります。
働き方改革の企業側のメリット
働き方改革が労働者にもたらすメリットは、企業にもプラスの影響を与えます。
人材の確保と定着
職場環境の改善で働きやすい職場になります。従業員に魅力的な会社に映り、長く働きたいと思ってもらえます。結果、従業員の定着につながります。
働きやすい環境であること、定着率の高い企業は、求職者にとっても魅力的です。就職・転職で選ばれやすくなります。
従業員のモチベーション向上
ワークライフバランスがとりやすい、自分にとって働きやすい働き方を選べるといった理由のためです。
労働時間が減れば、短い時間で成果を出すことが求められます。限られた時間で結果を出そうと仕事にも前向きに取り組めるようになります。
生産性向上
労働時間を短縮しながらパフォーマンスを落とさないためには、生産性アップは欠かせません。生産性を落とさないよう、勤務中はより集中して取り組むようになるはずです。
効率的に業務をこなせるようになると、仕事以外の時間が増えます。心にゆとりが生まれ、健やかな状態を保ちやすくなるでしょう。結果、仕事の時はさらに高いパフォーマンスを発揮できます。
働き方改革の注意点
罰則付きのルールもあるため、違反しないよう気をつけましょう。
コストを考慮した対策を求められる点にも注意が必要です。
適応させるためにコスト、手間がかかる
業務効率化のためにシステムやツールを導入すれば、費用がかかります。同一労働同一賃金によって、人件費の高騰も想定されます。
労使協定の締結や労働者から同意を得るなど、導入にあたり手続きが必要なものもあります。
助成金の存在を知る
働き方改革に取り組むとコストがかさみます。しかし、取り組みにかかる費用に使える以下のような助成金が用意されています。
- 働き方改革推進支援助成金
- 業務改善助成金
- キャリアアップ助成金
働き方改革推進支援助成金は、労働時間の削減や年次有給休暇を取得しやすい環境を整える中小企業を対象とした助成金です。
業務改善助成金、中小企業・小規模事業者の事業場内の最低賃金を引き上げ、中小企業・小規模事業者の生産性向上をサポートするための助成金です。
生産性向上のための設備導入、最低賃金を一定額以上引き上げた場合に利用できます。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者を正社員にしたり、待遇を改善した事業主を対象とした助成金です。
罰則に気を付ける
例えば、時間外労働の上限規制の特別な事情がある場合の規制に反すると、6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金という罰則が定められています。
改正後のフレックスタイム制の清算期間に対応するために必要な労使協定を届け出ないと、30万円以下の罰金が科されます。
働き方改革の事例
働き方改革特設サイト CASE STUDY 中小企業の取り組み事例から2つの事例を紹介します。
株式会社フレスタ
時間外労働の削減に取り組みます。
本部では18:00になると、パソコンがシャットダウンされます。急ぎの仕事がない従業員の帰宅を促す意図があります。
18:00間際に大事な仕事を残さない、段取りを決めて重要な仕事から取りかかるなどの意識改革に成功しました。
医療法人社団明和会大野浦病院
看護師、介護士、セラピストは「標準型」「夜勤専任型」といった4つの働き方から選択できます。働き方は年に一度変更できるため、ライフスタイルの変化があった時も安心です。
ひとりひとりが理想の働き方を実現できることはもちろん、「ワーク重視型」「準ワーク重視型」といった出勤日数の多い労働者がいることで、少ない人数でも上手くシフトを組めます。人手不足の解消にも役立っています。
まとめ
働き方改革とは、個々の労働者が自分にふさわしい働き方を実現できるようにするための取り組みです。
コストや手間がかかったり、罰則付きのルールに違反しないようにしたりと、導入が難しいと感じることもあるかもしれません。しかし、働きやすい職場環境をつくることで、従業員のモチベーションや定着率のアップを期待できます。
労働者ひとりひとりが仕事に前向きに取り組むようになれば、組織全体の生産性向上も見込めます。
成功例を参考にしながら、自社の改革に必要な施策を考えてみましょう。
生産性向上とは?企業が行うべき8つの対策やおすすツール、ソリューションを解説