ノウハウ 裁判IT化とは?目的やメリット、デジタル化の課題について
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年02月15日
裁判IT化とは?目的やメリット、デジタル化の課題について
裁判のIT化が進められていることをご存知でしょうか。なぜデジタル化が必要なのでしょう。
本記事ではIT化のメリット・デメリット、いつまでに裁判のどのような工程にITが活用されるのかなどを解説します。
裁判のIT化とは?対象は?
法改正により2025年度中の完全施行を目標に、民事裁判の訴訟提起からその後の手続きまでIT化することです。例えば、ウェブ会議などによる参加を認める機会の増加などが見込まれます。
今後、訴訟記録の電子化も検討されています。
裁判IT化の背景
裁判IT化は、訴えを起こしてから判決に至るまでの各段階で課題が見つかったために、動きはじめました。
現状の裁判には以下が課題として挙げられています。
- 訴えを起こすのに訴状を窓口に持参するか郵送しなければならない
- 電話会議は認められているが一方の当事者は出頭が必要
- 判決書が紙で作成されるために当事者が受け取るまでに時間がかかる
など
裁判のIT化は、上記課題の解決に役立つと考えられています。そして、訴訟にかかる手続きがシンプルになれば、民事訴訟のハードルが下がることが期待されています。
海外と日本との裁判デジタル化の現状
国によって内容に違いはあるものの、アメリカをはじめとした欧米諸国では、裁判手続きのIT化が進んでいます。
「主要先進国における民事裁判手続等のIT化に関する調査研究業務報告書」などを基に法務省がまとめた比較表によると、日本も欧米諸国も仕組みに大きな違いはないものと思われます。
ただし、海外では弁護士による電子提出が義務化されていますが、日本ではされていないなどの違いがあります。また、日本では電話会議システムやテレビ会議システムを利用できる手続きが限られているという現状です。
法廷のインターネット中継については、日本を含めてほとんどの国で実施されていないものの、アメリカの一部では当事者が同意した場合に限り、録画が公開されます。
シンガポールや韓国といったアジア諸国でも、手続きのIT化が進んでいます。
裁判IT化の経緯
2017年6月9日「未来投資戦略2017(成長戦略)」で、裁判の手続きなどのIT化を進めることが検討事項に挙げられました。
同年10月30日「裁判手続き等のIT化検討会」が立ち上げられます。
2018年3月30日、検討会で「裁判手続き等のIT化に向けた取りまとめ-『3つのe』実現に向けて-」という報告書がまとめられました。
3つのeは、裁判IT化に向けた重要な項目と位置づけられています。3つのeについては、後ほど詳しく解説します。
同年6月の未来投資戦略2018と、7月から15回にわたり実施された民事裁判手続き等IT化研究会を経て、2019年12月「民事裁判手続きのIT化の実現に向けて」という報告書内で、現状の課題と提案についてまとめられました。
以降、段階的に裁判IT化の運用が始まります。
裁判IT化の概要
裁判の手続きをシンプルにするためにITが活用されます。
例えば、訴状のオンライン提出やウェブ会議の導入などは、IT化の一例です。
いつまでに完全施行されるのか、また、IT化にあたってどのような課題があるのでしょう。
裁判IT化はいつから
インターネットによる訴状などの提出は、2025年度中(2026年3月)までの実現を目指しています。ただし、2023年2月20日の秘匿措置等に関する改正を皮切りに、順に進められています。
2023年3月1日から弁論準備手続等へのウェブ会議などによる参加が認められています。
2024年5月24日までには、口頭弁論期日へのウェブ会議による参加を施行予定です。
これまでは訴えを起こすとなったら、訴状などを裁判所に赴いて提出するか郵送しなければなりませんでした。ところがIT化により、書面提出が不要となります。PDFなど電磁的記録で、訴訟記録の管理もできるようになる予定です。
口頭弁論などの期日には、当事者か訴訟代理人が出頭しなければなりませんでしたが、一定要件を満たせば、ウェブ会議などによる参加も可能になります。出頭が絶対ではなくなるということです。
裁判IT化の対象
民事裁判にかかる手続きのIT化を進めていますが、どのような手続きに取り込まれるかは3つのeから分かります。
3つのeとは下記をまとめたものです。
- e提出
主張・証拠のオンライン提出、手数料の電子納付・電子決済、訴訟記録の電子化 - e事件管理
主張・証拠に随時オンラインアクセス可能になる、裁判期日のオンライン調整、本人と代理人が期日の計画や進捗を確認でき - e法廷
ウェブ会議やテレビ会議の拡大、争点整理段階でのITツールの活用
現状の裁判手続きの振り返り
- 訴状提出
- 裁判所が以下を行う
- 訴状の受け付け、審査
- 審理期日の指定
- 訴状と期日呼び出し状を被告へ送付
- 被告は訴状と期日呼び出し状を受け取ったら、裁判所に答弁書を提出
- 裁判所経由で原告が答弁書を受け取る※被告は答弁書を提出後、原告は答弁書を受け取り次第、証拠や承証人を用意する
- 審議
- 和解、もしくは判決
裁判IT化の課題
裁判IT化の課題は主に下記の3つがあげられます。
- ITに苦手意識のある人への配慮
- セキュリティ対策やプライバシー保護
- 安定して利用できるシステムの導入
ITに苦手意識のある人への配慮
当初は、必要書類のオンライン提出が義務でした。しかし、インターネットの利用に慣れていない、いつでもサポートを受けられる環境にないなどのケースでは、「必要な時に訴えを起こす」という裁判のIT化を進める目的を果たすことが難しいと懸念されます。
そこで、裁判に関わる全ての人への義務化は見送られました。
セキュリティ対策やプライバシー保護
IT化を進めるにあたり、情報漏えいや書類の改ざんといった不正アクセスは想定しておくべきです。
機密情報、当事者の住所や氏名が特定されないようにする必要があるとされた事案については、紙の書類を用いても良い措置がとられる予定です。裁判所が認めれば、個人情報を閲覧できないようにもできます。
安定して利用できるシステムの導入
サイバー攻撃などでシステム上のトラブルが発生すれば、手続きを進められません。
不具合なく、そして、安心して利用できるよう、サイバーセキュリティに対応したサービスを選びましょう。システムに問題が生じた時に迅速に対処できる人材確保も求められます。
裁判IT化のメリット
裁判IT化によって以下のメリットが生まれます。
- 訴訟に伴う負担緩和
- 裁判所に出頭する手間の軽減
- 手数料の減額
訴訟に伴う負担緩和
従来の裁判手続きでは、紙の訴状などを用意し、持参か郵送が必要です。しかし、インターネットを介して訴状などを提出できるようになれば、持参や郵送にかかる手間や時間、コストを削減できます。
裁判所に出頭する手間の軽減
裁判所までのアクセスが悪い、裁判所が遠いなどのケースで、メリットが特に大きいです。企業の会議室や法律事務所などからでも参加できるようになります。
手数料の減額
訴えを起こすには、訴額などを納付しなければなりません。ところが、インターネットによる訴状などの提出で、手数料が減額されます。郵券(切手)も廃止されます。
裁判IT化のデメリット
メリットと同じように以下のデメリットも想定されます。
- セキュリティに関するリスクが想定される
- コストの面で必ずしも対応してもらえるとは限らない
- 誰でも問題なく利用できるか本格的に導入されないと不明
セキュリティに関するリスクが想定される
情報漏えいや書類の改ざんやプライバシーの侵害、誤送信やなりすましなど、従来の手続きでは想定されていなかったリスクに備える必要があります。ほとんどのシステムにはセキュリティ対策まで組み込まれていますが、どこまで想定されているか確認した上で選定すると安心です。
コストの面で必ずしも対応してもらえるとは限らない
2026年3月までには、弁護士など専門家は、インターネット上での訴状提出が義務化されることになっています。しかし、対応するためのシステムの導入などに費用がかかります。結果、義務化されるまでITを用いた手続きに応じないケースも生じ得ます。
誰でも問題なく利用できるか本格的に導入されないと不明
デジタルに苦手意識があるといった人へのサポートがされないと、手続きがスムーズに進まないかもしれません。従来の手続き以上に時間がかかることが懸念されます。
口頭弁論などオンラインでの実施に制限のある手続きについては、一方の当事者が拒否したら対面での実施となる見込みです。
裁判IT化の影響
- コスト削減
- 手続きの効率化
- 所在に関係なく信頼できる弁護士に依頼できる
上記が裁判IT化の与える良い影響と考えられています。
ただし、民事裁判のIT化が進んでも、裁判が法廷で行われることは変わりません。当事者は従来通り出頭することもできるということです。
また、法廷の様子がインターネットで配信される予定はありません。傍聴する場合は現地に赴く必要があります。
コスト削減
郵送にかかる費用や紙の書類のためのスペースなどを削減できることはもちろん、弁護士に依頼する際にかかっていた出張交通費、場合によっては宿泊費などの負担も不要となるはずです。
テレビ会議などでの実施となれば、宿泊費などがかからないためです。
手続きの効率化
オンライン上で必要な書類をやりとりできることは、効率化を進める上で大きいです。
取引先と裁判になり第一審の裁判所を決める際、双方の所在地が遠いと、裁判所を決めるのに時間がかかることも珍しくありません。
テレビ会議などを活用できると、一方の負担が大きすぎることがなくなり、スムーズに決まるようになるはずです。
所在に関係なく信頼できる弁護士に依頼できる
裁判所に赴くことが必須だと、遠方であることを理由に依頼を受けてもらえないこともあります。
ところが、IT化によって弁護士は場所に関係なく依頼を受けやすくなり、依頼者も全国から信頼できそうな弁護士を見つけてお願いすることもできるようになるでしょう。
まとめ
裁判のIT化とは民事裁判の手続きを容易にすることを目的に行われるものです。
セキュリティ対策やデジタルに慣れていない方への配慮など、いくつか気になる点はあります。しかし、訴訟に伴う負担の軽減、全国から弁護士を探せるなど、メリットも大きいです。