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ノウハウ インサイダー取引とは?対象者・事例・罰則など分かりやすく解説

更新日:2024年10月17日

投稿日:2024年02月14日

インサイダー取引とは?対象者・事例・罰則など分かりやすく解説

インサイダー取引とは?対象者・事例・罰則など分かりやすく解説

インサイダー取引とは、株式市場における公正な取引を害する行為として法律で規制されています。

身近な人との何気ないやり取りがきっかけでも生じる場合があるインサイダー取引は、故意か故意ではないかにかかわらず罰則の対象となるため注意が必要です。

今回はインサイダー取引の概要やバレる理由、具体的な事例、罰則などについて分かりやすく解説します。

 

 

インサイダー取引とは?

そもそも、インサイダー取引とはどのような行為を指す言葉なのでしょうか。

 

まずはインサイダー取引の定義・規制されている理由・インサイダー取引がバレる理由について解説します。

インサイダー取引の定義

インサイダー取引を規制する代表的な条文である金融商品取引法166条では、以下の条件に該当する行為を「インサイダー取引」として定義づけています。

 

・会社関係者、または会社関係者でなくなって1年以内の者である

・上場企業等の業務等に関する「重要事実」を自身の職務等に関して知った

・当該重要事実が公表前である

・当該企業の株式に関する取引を行っている

参考:金融商品取引法 | e-Gov法令検索

 

上記4つの条件をすべて満たせば、一定の適用除外にあたる場合を除き、例え故意ではなくともインサイダー取引とみなされ罰則が科せられます。

なぜインサイダー取引が規制されているのか

インサイダー取引は、株式市場における公正な取引を害する行為として禁止されています。

 

会社関係者しか知り得ない重要情報(インサイダー情報)は、上場株式の価格変動に大きな影響を与える場合があります。

重要情報を公表前に知り、上場株式の売買を行えば利益を得られる可能性が高いです。

 

このような行為が横行すれば、取引において企業の内部者ばかりが有利な状況となり、外部の投資家は利益を得られなくなります。

結果的に証券市場の信頼性の失墜につながるため、金融商品取引法ではインサイダー取引を厳禁としているのです。

インサイダー取引はすぐにバレる

インサイダー取引は、企業と結託してその事実をうまく隠匿すればバレないのでは…と考える方もいることでしょう。

しかし、どれだけ工夫を凝らして隠そうとしてもインサイダー取引を行ったことはすぐにバレる可能性が高いです。

 

インサイダー取引がバレる原因として特に多いケースが、以下の通りです。

 

・関係者が報道機関や監督庁へ通報する(内部告発)

・証券取引等監視委員会による監視

 

証券の売買履歴は常に証券取引等監視委員会が監視しており、インサイダー取引が行われた時点でバレることも時間の問題です。

また、証券取引等監視委員会は様々な不正行為に関する情報提供を受け付ける窓口を設置していることもあり、内部告発など誰かからの情報提供で事実が明るみに出るケースも珍しくありません。

インサイダー情報は2類型ある

インサイダー取引における重要情報(インサイダー情報)は、大きく分けて以下の2類型があり、それぞれ金融商品取引法第166条と167条に規定されています。

重要事実

重要事実とは、株式投資をする際に投資家の判断に影響を与えるような事実のことです。

上場企業の株価に影響を与える可能性が高い事実とも言えます。

 

重要事実はさらに細かく分けて、「決定事実」「発生事実」「決算情報」「バスケット条項」の4つがあります。

決定事実

決定事実は、以下のような事項を行うか行わないかを、上場企業の業務執行決定機関が決定した事実のことです。

 

・新規発行株式、処分する自己株式、新株予約権を引き受ける者の募集

・資本金の額の減少

・自己株式の取得

・株式(優先出資法に規定する優先出資を含む)の分割

・株式無償割当て、新株予約権無償割当て

・株式交換、移転、交付

・合併

・会社分割

・事業の全部または一部の譲渡

・解散

・事業の全部または一部の休止や廃止

・株式の上場廃止申請  など

 

発生事実

発生事実は、上場企業に以下のようなことが発生した事実を指します。

 

・主要株主の異動

・災害に起因する損害や業務遂行の過程で生じた損害

・訴訟の判決や裁判によらない訴訟の完結

・親会社の異動

・事業停止などの法令に基づく処分

・債権者等による破産手続開始の申し立て  など

 

決算情報

決算情報は、以下のいずれかの数値につき、公表された直近の予想値と新たな予想値・決算の数値の間に差異が生じたことを指します。

 

・上場企業の売上高、経常利益、純利益、剰余金の配当

・上場企業の属する企業集団の売上高、経常利益、純利益

・上場企業の子会社(上場企業)の売上高、経常利益、純利益

 

バスケット条項

バスケット条項とは、決定事実・発生事実・決算情報以外で投資者の投資判断に大きく影響すると考えられる情報のことです。

具体的な例示はなく、適用されるケースは事例ごとに変わります。

公開買付け等の実施・中止に関する事実

公開買付けは、完全子会社化・単純子会社化・持分法適用会社化といった支配権の獲得や資本業務提携関係の実現など様々な目的で実施されます。

いずれにしても、公開買付けの対象となる会社の株券の価格に重大な影響を与えるものです。

そのため、公開買付けの実施や中止に関する事実も重要事実として扱われています。

インサイダー取引の規制対象者

インサイダー取引の対象者は「会社関係者」とされています。

この関係者に含まれる人は、大きく分けて「会社関係者」「公開買付者等関係者」「第一次情報受領者」の3つに分けられます。

会社関係者

会社関係者とは、具体的に以下のような人が該当します。

 

・上場企業の役員、代理人、使用人、その他従業員

・上場企業の議決権の100分の3以上の株式を保有する株主など

・上場企業に対する法令に基づく権限を持つ者

・上場企業の取引先やその役員など

・上記いずれかに該当しなくなってから1年以内の者

 

公開買付者等関係者

公開買付者等関係者には、今後予定される公開買付けの関係者として以下の人が含まれます。

 

・公開買付者等の役員、代理人、使用人、その他従業員

・公開買付者等の100分の3以上の株式を保有する株主など

・公開買付者等に対する法令に基づく権限を持つ者

・公開買付者等の取引先やその役員など

・上記いずれかに該当しなくなってから6ヵ月以内の者

 

第一次情報受領者

第一次情報受領者は、会社関係者や公開買付者等関係者から重要情報を直接伝えられた人のことです。

例えば会社関係者や公開買付者等関係者の家族(親族)・知人なども、本人から情報を聞いた場合は第一次情報受領者になるため注意しましょう。

インサイダー取引に違反した際の刑罰・罰則

インサイダー取引を行うと法律に基づく罰則が科せられる他、所属する企業に関わるペナルティも発生する可能性があります。

法律に基づいた罰則

インサイダー取引を行った個人には、以下の刑罰やペナルティが科せられます。

刑事罰

金融商品取引法第197条の2に基づき、インサイダー取引を行った場合は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」、もしくはそのどちらも科せられます。

もちろん、インサイダー取引で得た利益は原則として没収または追徴の対象です。

 

さらに法人の代表者やその法人の計算によりインサイダー取引が行われた場合、金融商品取引法第207条1項2号に基づきその法人に対して5億円以下の罰金が科せられます。

課徴金納付命令

インサイダー取引を行ったら刑事罰の他、違反者に対する行政処分として課徴金も科せられます。(金融商品取引法175条・175条の2)

 

課徴金の金額は、売付け等の場合と買付け等の場合でそれぞれ以下のように算出されます。

 

・売付け等の場合:課徴金=付け等の総額-(公表後2週間の最安値×売付け等数の数量)

・買付け等の場合:課徴金=(公表後2週間の最高値×買付け等数の数量)-買付け等の総額



刑事罰とは違い前科にはなりませんが、金銭面で非常に大きな負担を背負うことになります。

勤務先の企業に関わるペナルティ

違反者だけでなく、本人が所属している企業にも決して小さくない影響が及びます。

インサイダー取引により本人及び企業に生じると考えられるペナルティの例は、以下の通りです。

 

・社内処分

・勤務先企業の信用失墜

 

インサイダー取引は、必ずしも違反者だけが罰則を受けて完結するとは限りません。

本人が所属する企業の社会的信用の失墜による業績悪化など、関係者を巻き込むペナルティが生じることもあります。

インサイダー取引の対象外となるケース

インサイダー取引の対象か否かを判断するポイントとしては、「重要事実を知りながら株式に関する取引をしているか」が重要になります。

 

すでに重要事実が公表されたあとの取引なら、インサイダー取引とはみなされません。

具体的には、以下のいずれかに該当するタイミングであれば、重要事実は公表されている扱いとなるため問題なく取引ができます。

 

・有価証券届出書などで公衆の縦覧が可能な状態になっている

・2つ以上の報道機関で重要事実が公開されており、12時間経過している

・適時開示情報伝達システム(TDnet)などで公衆の縦覧が可能な状態になっている



先述した通り重要事実に含まれる情報の範囲は広いため、未公開かつ重要事実に該当するのか分からないことに関しては 取引を控えておくと安心です。

インサイダー取引をしないために個人が気を付けたいこと

インサイダー取引は、軽い気持ちで身近な人へ重要事実を教えてしまった場合にも起こり得る行為です。

役員・従業員のどちらも、自分や身近な人が知らず知らずのうちにインサイダー取引をしてしまわないために以下の点に気を付けましょう。

 

・インサイダー取引の理解を深める

・社内規定に沿って取引する

・社内で得た情報は社外の人へむやみに話さないよう心がける

・得た情報が重要事実に該当するか分からなければ必ず担当部署へ相談する

企業が取るべきインサイダー取引の未然防止策

インサイダー取引は1人1人が防止に努めるだけでなく、企業規模でも対策を講じることが大切です。

 

企業としてできるインサイダー取引の防止策としては、以下のような取り組み方があります。

適切なタイミングで確実に情報を開示する

先述したように、インサイダー取引の対象となるかどうかは「重要事実を公表しているか」が大きな判断基準となります。

確実にインサイダー取引を防止するなら、投資判断に大きな影響を与える情報は適時開示していく必要があります。

 

ただし、慌てて不確実・不確定なままの情報を開示するとかえってトラブルにつながることもあるため、必ず確実な情報を開示しましょう。

情報管理とその体制を見直す

インサイダー取引は、会社の重要情報の漏えいから発生する場合が多いです。

そのため、自社の規模に応じて適切な情報管理体制を整えることも求められます。

 

小規模な企業であれば全社員参加型の会議で情報管理に関する報告やルールの見直しを行う、大規模な企業ならコンプライアンス部門やリスク管理委員会など情報管理専門の部署を設けるといった方法があります。

関係者へインサイダー取引の周知を徹底する

個人として取り組むべきインサイダー取引の防止策として「知識を深めること」を挙げましたが、それのサポートとして社内研修を実施するという策も有効です。

 

インサイダー取引の理解を深めるには様々な種類が存在する重要事実の内容を知る必要があり、自力で学ぶにはハードルが高いものです。

そのため、まずは研修を通して「なぜインサイダー取引は規制されているのか」「どんなケースで起こり得るのか」といった大枠的な知識から理解してもらいましょう。

 

また、インサイダー取引は社外役員が引き起こした事例も実在します。

従業員だけでなく、社外取締役・監査役など社外の関係者にも適切な研修を受けてもらうことが望ましいです。

企業がインサイダー取引の防止に注力すべき理由

インサイダー取引は、法律で明確に禁止されている違法行為です。

刑事罰や行政処分として重いペナルティが科せられるというリスクの高さに反して、個人の「うっかり」で起こる可能性も十分に有り得ます。

 

また、インサイダー取引はコンプライアンスに反する行為でもあります。

企業としての意思でインサイダー取引を行わなくても、そこに属する1人の関係者がインサイダー取引を行うことで企業全体の社会的信用が失われる可能性も高いです。

このように副次的な損害が生じることも踏まえると、個人だけでなく企業としてもインサイダー取引の防止に努めなければなりません。

インサイダー取引の監視方法

自社でインサイダー取引が行われることを防ぐには、定期的な内部監査の実施も重要です。

 

企業として行える監視方法としては、外部から内部監査人を選任するという手があります。

組織的に独立しており、なおかつ公平で客観的に監査できる人材が望ましいです。

監査のうえで改善点と改善の期限を挙げてもらい、期限までに改善されているかどうかも確認しましょう。

 

また、インサイダー取引防止という観点から現状の社内規定や情報管理体制は適切なものかどうか、法律の専門家に相談するのもおすすめです。

インサイダー取引は「知らなかった」では済まされない!理解と防止策の徹底を

インサイダー取引とは、上場企業の関係者などが「重要事実」を知りながらその事実の公表前に株式に関する取引を行う行為のことです。

法律で定められた条件に該当すれば、それが故意でなくとも罰則の対象となるため十分な注意が必要です。

インサイダー取引を防ぐには、企業に属する1人1人が注意を払うことはもちろん、企業としても管理体制の見直しや内部監査などで対策を講じるべきです。

全員が「インサイダー取引は自分にも起こり得る」という意識を持ち、社内ルールや制度の整備を徹底しましょう。