ノウハウ ナレッジマネジメントとは?基礎知識や事例などわかりやすく解説
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年01月22日
ナレッジマネジメントとは?基礎知識や事例などわかりやすく解説
「ナレッジマネジメント」は企業の成長に必要な取り組みの1つとして知られていますが、具体的にどう取り組むべきかはご存知でしょうか。
今回はナレッジマネジメントの概要・重要性・メリットなどの基礎知識に加え、取り組む際に理解しておきたい考え方や事例についても詳しく解説します。
特に業務の属人化に悩む企業に有益な情報となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントとは「知識(knowledge)」と「管理(management)」が由来となっている用語で、ビジネスにおいては文字通り企業の知識を管理することをいいます。
ナレッジには、従業員が業務の中で得た知識・知見・技能・ノウハウなどがあります。
それらを企業全体で共有・活用することで、企業の成長を促し競争力の低下を防ぐという経営手法です。
ナレッジマネジメントに取り組む目的
企業がナレッジマネジメントに取り組む主な目的は、企業の成長促進・競争力向上です。
人材が流動しやすい現代において、従業員間で業務に関する知識が継承される機会は少なくなっています。
これにより、企業全体の知識・知見・技能・ノウハウの量や質が減少していき、企業の成長がしにくくなります。
その対策として注目されているのが、ナレッジマネジメントです。
また、ナレッジマネジメントを通して個々の従業員が自分だけでは知り得なかった知識を得ることで、持ち前のスキルと合わせて新たなアイデアが生まれることもあります。
そのため、ナレッジマネジメントは「知識から新たな価値を創造する」ために導入されるケースも多いです。
ナレッジマネジメントの重要性
ナレッジマネジメントは1990年代に経営学者の野中郁次郎氏により提唱された、「知識経営」という考え方が基礎とされています。
当時から日本企業の間でナレッジマネジメントの重要性が意識されてはいましたが、現代は特に注目度が高まっています。
現代は「同じ企業に長く属する」よりも、「キャリアアップのために転職をする」という考え方が主流となっているからです。
高度経済成長期に比べて人材の流動が激しく、ナレッジマネジメントに取り組まなければ企業の中に知識が蓄積されなくなってしまいます。
また、IT技術の発達や新型コロナウイルスの流行によりテレワークが急激に広まったことで、さらに従業員間での知識共有が難しくなりました。
これもナレッジマネジメントの重要性が注目されている原因です。
ナレッジマネジメントのメリット
ナレッジマネジメントの具体的なメリットは、主に業務・引継ぎ・人材育成の効率化につながることが挙げられます。
どのようにして効率化されるのか、以下より解説します。
業務効率化
ある業務に関して優秀な従業員がいると、その人だけに当該の業務を任せてしまいがちですが、それでは「業務の属人化」につながります。
しかしその人が持っている業務の知識を他の従業員にも共有できれば、全員が効率的に業務を進められるようになります。
複数の従業員で業務を分担することも容易になり、業務のボリュームが増えてもスムーズに作業をこなせます。
異動退職の引き継ぎ効率化
ナレッジマネジメントは、従業員の異動・退職に伴う引継ぎの際も役立ちます。
例えば業務の流れや重要なポイントをまとめた資料を作成したり、業務にかかわる疑問をFAQ形式で解説した「社内wiki」を活用したりといった取り組みもナレッジマネジメントの1つです。
これにより、異動退職までの限られた期間内でも手間をかけず確実に業務内容を引き継ぐことができます。
人材育成の効率化
複数の従業員が入社すると、教育担当者はそれぞれの従業員から寄せられる疑問にその都度答える必要があります。
何度も同じ答えを返すために業務時間が圧迫され、担当者自身の業務に集中できなくなることが難点です。
ナレッジマネジメントを通して業務に関わる実践的な知識を簡単に得られるようになれば、教育担当者の労力・時間を犠牲にしなくとも各従業員を効率的に育成できます。
ナレッジマネジメントの考え方
ナレッジマネジメントの理解を深めるためには、基本的な考え方を知っておく必要があります。
ここでは、ナレッジマネジメントの基礎理論に関わる5つの要素について解説します。
暗黙知と形式知
ナレッジマネジメントでまず知っておくべき要素が、「暗黙知」と「形式知」という2種類の知識です。
暗黙知とは従業員が業務の中で独自に身につけた、マニュアル化されていない知識のことです。
例えば熟練の職人が持つカンや技術、優秀な営業社員が持つ「自分なりの契約成功のコツ」などが暗黙知に含まれます。
一方で形式知は、文字や図式で可視化された知識を指します。
業務マニュアルや営業ガイドラインのように、誰でも同様のレベルで業務を実践できるように形式化されているのが特徴です。
SECIモデル
ナレッジマネジメントでは上述した暗黙知を形式知に変換させ、その形式知を個々の暗黙知として吸収し、それをまた形式知に変換させる…といった「知識の循環」を生み出します。
知識の循環は大きく分けて4つのプロセスで構成されており、それを「SECI」モデルと呼んでいます。
SECIモデルは、知識の循環プロセスにある以下4つの要素の頭文字を取った言葉です。
共同化 (Socialization) | 共同の体験により、個々の暗黙知を相互理解する |
表出化 (Externalization) | 相互理解した暗黙知から、分かりやすい文・図式・映像・比喩などで形式知に変換する |
連結化 (Combination) | 表出化した形式知と既存の形式知を組み合わせ、新しい知識体系を作る |
内面化 (Internalization) | 連結化した形式知を実際に体験し、自分の暗黙知として体系化する |
場
SECIモデルでは、知識の循環にある各プロセスを実施するための「場」という概念があります。
例えば共通化ならOJTやロールプレイング、表出化ならブレインストーミングなどが場になります。
また、上記のように形式ばった行事だけでなく、社内の休憩スペースで生じる雑談など日常の中で何気なく参加している空間も知識共有の場の1つです。
知識資産
企業の成長や競争力の源泉となり得る知識やノウハウは「目に見えない資産」であり、それは知識資産という言葉で表されます。
知的資産には、経験によって得られるスキル(経験的知識資産)やマニュアル化された知識(体系的知識資産)、企業理念や経営コンセプト(概念的知識資産)などがあります。
このような知識資産をいかにして蓄積し、自社の理念に沿って継承していくかが重要です。
ナレッジリーダーシップ
ナレッジマネジメントには、知識のビジョンを示したり「場」を創出・活性化したりするナレッジリーダーが必要です。
自身の役割を明確に認識のうえ実践していくナレッジリーダーシップも、ナレッジマネジメント成功の秘訣です。
【部署別】ナレッジマネジメントの事例
実際に、国内の企業はどのようにしてナレッジマネジメントを成功させているのでしょうか。
ここでは、ナレッジマネジメントの事例を営業部・コールセンター・製品開発・法務部の4部署に分けてご紹介します。
営業部のナレッジマネジメント事例
NTT東日本の法人営業部では、オフライン・オンラインのどちらにもナレッジ共有が促進される環境づくりに取り組みました。
オフラインではフリーアドレスを導入したりリフレッシュゾーンを設置するなど、リアルな場所での社内コミュニケーションの活性化を図ります。
これにより、従業員同士が雑談を通した気軽な知識共有が可能です。
オフラインでは、全社員の個人ホームページを開設。
社員に自分のホームページへ日報や業務のタスクなどをアップロードしてもらうことで、全社員の業務状況の把握と業務関連の情報共有が容易になりました。
コールセンターのナレッジマネジメント事例
株式会社再春館製薬所ではコールセンターに寄せられた問い合わせ対応の際、膨大な資料のページをめくりながら該当の情報を素早く見つける必要がありました。
加えて個人の知識・ノウハウが属人化する傾向もあり、社内で有する情報量が増えるほどにその問題が深刻化していきます。
そこでナレッジマネジメントツールを導入し、必要な情報をその都度迅速に引き出すことを可能としました。
資料を保管管理するために何冊ものファイルを持つ必要もなく、導入後アンケートでは対象の従業員の過半数が「使いやすくなった」と回答しています。
製品開発のナレッジマネジメント事例
富士フイルムビジネスイノベーションでは、製品開発に関して開発段階ごとの担当者が異なるため、最終段階で設計変更が発生するなどの課題を抱えていました。
そこで製品開発の全段階の担当者が持つ情報を共有できるよう、ナレッジマネジメントとして独自開発のシステムを導入。
設計者・技術者全員のナレッジが蓄積され、従来の非効率的なトラブルの発生を抑えることに成功しました。
法務部のナレッジマネジメント事例
パーソルホールディングス株式会社本部の法務部では、日々発生する契約業務や法務相談の対応、各種プロジェクトの法務面の担当などを担っています。
しかし契約依頼や法務相談に関するやりとりをメールベースで行っており、契約プロセスの過去経緯を辿りにくくナレッジが属人化しやすくなっていました。
さらにチャットツールなどメール以外のコミュニケーション手段も増えたことで、やり取りが分散し非効率化が加速することも問題の1つです。
そこで、すべての契約プロセスをひとつに集約できる「ContractS CLM」を導入。
「ContractS CLM」で案件を一元管理することで業務効率化につながった他、やりとりが自動保存されるためナレッジ共有の問題点も解決することができました。
契約ライフサイクルマネジメントシステム「ContractS CLM」の導入事例を見る
ナレッジマネジメント導入の流れ
ナレッジマネジメントを導入する際の基本的な流れは、以下の通りです。
1 ナレッジマネジメントの目的を明確にする 2 どんな情報を共有するのか決める 3 目的に合わせた環境を整える |
ナレッジマネジメントの目的を明確にする
「ナレッジマネジメントの導入」を目的にしてしまうと、取り組み方の指針が定まらず失敗に終わる可能性があります。
まずは自社にどんな課題を解決したいのか、何を目標としたいのかといった目的から決めておき、それに基づき共有する情報やナレッジマネジメントの環境整備を進めましょう。
どんな情報を共有するのか決める
共有する情報を決めるにあたっては、従業員が日々の業務で実際に困っていることを聞き出しておくのもおすすめです。
ナレッジマネジメントに際して膨大な情報を詰め込むと管理が難しくなるため、従業員が本当に必要とする情報だけに絞り込みましょう。
目的に合わせた環境を整える
ナレッジマネジメントの手段に決まりはないため、目的や従業員が欲する情報に合わせて環境を整えるべきです。
しかしどんなケースでも、紙ベースの資料やファイルだと情報の検索性や共有可能な範囲には限りがあります。
そのため、データを瞬時に検索し、全社規模での情報共有もでき得るITツールの導入がおすすめです。
ただしITツールによって活用できる機能や必要な費用は異なるため、自社に最適なものを選ぶことが大切です。
ナレッジマネジメントは業務効率化のカギ!
業務に関する知識やノウハウ(ナレッジ)の管理体制を整えないと、ナレッジの属人化により自社の成長や競争力向上が阻まれてしまいます。
そのため、ナレッジマネジメントの基礎理論に対する理解を深め、自社に適した方法で導入しましょう。
実際にナレッジマネジメントに取り組んだ企業の数々は、主に業務効率化という面で大きなメリットを得ています。
まずは自社の課題の洗い出しを通して目的を明確に定め、ナレッジマネジメント成功に向けて取り組んでいきましょう。