ノウハウ 不動産取引書類の電磁的記録が可能に?宅建業法37条の改正について解説
更新日:2024年10月17日
投稿日:2024年01月22日
不動産取引書類の電磁的記録が可能に?宅建業法37条の改正について解説
宅地建物取引業法(宅建業法)が改正され、「37条書面」など重要な書類の押印が不要となりました。
さらに対象の書面の電磁的記録(電子保存)も可能となり、不動産業界のペーパーレス化が促進されています。
今回は2022年5月に改正された宅建業法の内容、押印不要・電磁的記録が可能な書類の種類、37条書面の内容などについて解説します。
2022年5月に改正された宅建業法の内容
宅建業法の改正が施行されたのは、2022年5月のことです。
改正ポイントの詳細は後述しますが、今回の改正では不動産取引に関わる書類に対する押印や交付方法に関する取り決めが見直されました。
宅建業法改正の目的
今回の宅建業法改正における大きな目的は、日本経済の持続的・健全な発展と国民の利便性の向上・負担軽減につなげる「デジタル社会」の形成です。
内容にかかわらず、従来の取引では様々な書面の交付や押印が必要とされていましたが、書面作成や管理には大きな労力・保管スペースの確保・コストが伴います。
そこで政府はデジタル改革関連法という法案をもとに、32法律における押印・書面に係る制度を見直し、電磁的記録による書面の提供を可能としました。
宅建業法の改正も、デジタル改革関連法の中に含まれる「押印・書面に係る制度の見直し」の一環として実施に至ったものです。
そもそも宅建業法とは
改正内容について知る前に、宅建業法(宅地建物取引業法)の基本的な内容について知っておきましょう。
宅建業法とは、消費者保護の観点から不動産取引契約に関してルールを定めた法律です。
不動産取引は基本的に大きな金額が動く契約となる一方で、不動産業者による虚偽の告知・事実の隠蔽・不明瞭な契約といったトラブルが起こるリスクも伴います。
そこで、取引の円滑化と公平性の確保を図るため、宅地や建物の売買・賃貸を行う業者(宅地建物取引業者)の免許制度・業務規制・取引主任者制度などについて取り決めた宅建業法が制定されました。
宅建業法の改正ポイント
今回の宅建業法で改正された内容の中でも特に注目すべきポイントは、以下の2つです。
一部書類の押印が不要に
従来の宅建業法では宅地建物取引士の記名押印が義務付けられている書類がありますが、その内以下の2つは押印義務が廃止となりました。
・不動産の売買、媒介、代理契約等の締結時交付書面 ・重要事項説明書 |
上記に関しては宅地建物取引士の記名だけで可能となったため、改正後はよりスムーズに取引ができます。
参考:宅建業法改正の概要(不動産取引における押印・書面の見直し)
電磁的方法による書面の交付が可能に
従来の宅建業法では紙媒体での交付が義務付けられていた以下の書類に関して、電磁的方法での交付が可能となったことも改正ポイントの1つです。
・媒介・代理契約締結時の交付書面 ・指定流通機構への登録を証明する交付書面 ・重要事項説明書 ・37条書面 |
それぞれどのような書類なのか、改正後の条文と共に解説します。
媒介・代理契約締結時の交付書面
従来は宅建業者が不動産の媒介・代理契約を締結した際、契約の依頼者に対して希望取引価額・報酬などの主要な情報を記載した書面を交付し、記名押印をする必要がありました。(宅建業法第34条の2第1項、34条の3)
具体的には、「媒介契約書」や「代理契約書」がその書面にあたります。
しかし改正後は、その書面を紙ではなく依頼者の承諾を得て、電磁的方法で交付することも認められるようになりました。
【媒介契約】
“第三十四条の二 11 宅地建物取引業者は、第一項の書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、依頼者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。以下同じ。)であつて同項の規定による記名押印に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面に記名押印し、これを交付したものとみなす。” |
【代理契約】
“第三十四条の三 前条の規定は、宅地建物取引業者に宅地又は建物の売買又は交換の代理を依頼する契約について準用する。” |
指定流通機構登録を証明する交付書面
指定流通機構とは、日本全国の物件情報が登録されているシステムです。
依頼者と不動産の売買・交換について専任媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、国土交通省が定めた期間内に対象物件の所在・規模・価額などを指定流通機構に登録する義務があります。(宅建業法第34の2第5項・6項)
また、登録後は依頼者に対して指定流通機構への登録を証明する書面の交付も必要です。(宅建業法第34の2第12項・34条の3)
この証明書面についても、以下の通り依頼者の承諾を得て、電磁的方法での交付が認められています。以下の宅建業法第34の2第12項にある「第6項」の規定による書面が指定流通機構への登録を証明する書面です。
【媒介契約】
“第三十四条の二 12 宅地建物取引業者は、第六項の規定による書面の引渡しに代えて、政令で定めるところにより、依頼者の承諾を得て、当該書面において証されるべき事項を電磁的方法であつて国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を引き渡したものとみなす。” |
【代理契約】
“第三十四条の三 前条の規定は、宅地建物取引業者に宅地又は建物の売買又は交換の代理を依頼する契約について準用する。” |
重要事項説明書
宅地建物取引業者は、不動産の売買・交換・賃借契約などの取引を行った相手に対して、契約成立前に重要事項説明書という書面を交付する義務があります。(宅建業法第35条1項・2項・3項)
重要事項説明書とは、対象物件の権利や法令、売買代金や契約時との取り決めなどを記載した書面です。
この重要事項説明書も、相手方の承諾を得て、電磁的方法による交付が可能となっています。
“第三十五条 8 宅地建物取引業者は、第1項から第3項までの規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第1項に規定する宅地建物取引業者の相手方等、第2項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方又は第3項に規定する売買の相手方の承諾を得て、宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて第5項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供させることができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該宅地建物取引士に当該書面を交付させたものとみなし、同項の規定は、適用しない。 |
37条書面
37条書面は、不動産の売買・交換・賃借の契約が締結されたとき、取引の当事者に対して交付される書面です。(宅建業法第37条1項、2項)
宅地建物取引業者は、契約締結時に遅滞なく37条書面を交付する必要があります。
これに関しても、以下の各号に定める者の承諾を得て、電磁的方法による交付が可能です。
“第三十七条 4 宅地建物取引業者は、第1項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて前項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。 (1) 自ら当事者として契約を締結した場合 当該契約の相手方 (2) 当事者を代理して契約を締結した場合 当該契約の相手方及び代理を依頼した者 (3) その媒介により契約が成立した場合 当該契約の各当事者” |
37条書面とは?
宅建業法の改正で電磁的方法による交付が可能となった書類の1つ、37条書面は権利関係や契約内容が複雑な不動産取引でトラブルが発生するリスクを防ぐ重要な書面です。
双方とも安心して不動産取引を行うためにも、37条書面の知識を深めておきましょう。
そもそも37条書面とは、文字通り宅建業法第37条で交付が義務付けられている書面のことです。
不動産取引成立後、宅建業者が契約の当事者双方に対し、遅滞なく交付する必要があります。
形式の取り決めはありませんが、宅地建物取引士の記名は必須です。
契約書との違い
不動産の売買や賃借の契約を交わす際に作成される契約書と、37条書面は異なる書面です。
契約書は記載内容について取り決めはありませんが、37条書面については記載が必要な事項が定められています。
そのため実際は「契約書兼37条書面」という形で、37条書面の規定に添った内容で作成した契約書を作成する場合が多いです。
国土交通省が公開している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」という資料でも、上記のような運用方法を認める旨の記述があります。
“第37条関係 書面の交付について 本条の規定に基づき交付すべき書面は、同条に掲げる事項が記載された契約書であれば、当該契約書をもってこの書面とすることができる。” |
37条書面の記載事項
37条書面の記載事項は、大きく分けて「必要的記載事項」と「任意的記載事項」の2つがあります。
必要的記載事項
必要的記載事項は、37条書面に記載が必須とされている項目のことです。
具体的な項目は、以下の通りとされています。
・契約当事者の氏名と住所 ・物件の特定に必要な情報 ・物件の引渡時期 ・移転登記申請時期(売買、交換の場合) ・代金や交換差金の額、支払い時期、支払い方法など ・建物の構造上主要な部分等の状況について(中古住宅の売買の場合) |
任意的記載事項
任意的記載事項は、取り決めのある場合にだけ記載する事項のことです。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。
・代金以外、交換差金、賃借料以外で発生した金銭の額とその授受目的 ・契約解除に関する事項 ・損害賠償や違約金に関する事項 ・天災など不可抗力による損害の負担に関する事項 ・瑕疵担保責任に関する事項 など |
電磁的方式による書面交付が不動産業界へ与える影響
宅建業法の改正で電磁的方法による書面交付が可能となったことで、不動産業界には以下のような変化がもたらされると期待されています。
業界内のペーパーレス化が加速
従来の宅建業法では数多くの書面が紙での交付を義務付けられていたため、不動産業界は「紙文化」からなかなか脱却できずにいました。
しかし今回の改正で、媒介・代理契約締結、不動産の売買・交換・賃貸契約締結まですべての場面で交付される書面の電子化が可能となりました。
これにより、不動産業界内のペーパーレス化が一層加速する見込みです。
オンライン取引の実施で新たなビジネスチャンスの希望も
書面の電子交付が認められたことで、オンライン上での物件情報の閲覧や契約手続きも可能となりました。
対象物件の所在地まで足を運んでもらわなくとも物件の情報を提供でき、不動産取引の契約も進められます。
契約に至るまでの地理的な制限がなくなった今、地域を選ばずサービスの提供が可能となったことで新たなビジネスチャンスの創出にも期待できます。
契約書等を電子化するメリット
不動産取引の際に交付する契約書やその他書面を電子化することで、不動産業界だけでなく宅地建物取引を行う各業者にもメリットが生じます。
主なメリットとして挙げられるのは、以下の3つです。
印紙税が発生しない
不動産売買の契約書は、書面で締結すると取引金額に応じて定められた額の「印紙税」を納付する必要があります。
例えば取引金額が500万円超~1千万円以下なら1万円、1千万円超~5千万円以下なら2万円、5千万円超~1億円以下なら6万円と、取引金額が大きいほど税額も高くなります。
参考:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
しかし、印紙税とは経済取引に伴い作成された契約書や領収書などの文書に対して課せられる税金です。
電磁的方法で記録された書面は印紙税の課税対象とならず、その分コストを削減できます。
取引をスムーズに進めやすくなる
対象物件から遠い地域に住む相手との取引は書面でも可能ですが、書面の作成だけでなく郵送や相手方からの返送などを要するため、取引完了までにロスタイムが発生します。
しかし契約書を電子化すれば、そのようなプロセスを省きスムーズに取引を済ませることが可能です。
結果として、迅速な手続きによる顧客満足度の向上や業務効率化につながります。
書類の保管に伴うスペース・コストの削減
不動産取引の中で交付するべき書面は複数あり、すべてを保管するには十分なスペースを確保する必要があります。
取引数が多いほど、ファイリングした書面をいつでも遡ることができるように環境を整えるための人的・金銭的コストが大きくなるものです。
一方で契約書を電子化した場合、物理的な保管スペースは不要となるうえに、検索機能などで必要な情報をすぐに閲覧できます。
契約書を電子化する方法
不動産取引の契約書を電子化する基本的な流れとしては、以下の通りとなります。
1 希望に合う電子契約サービスを選ぶ 2 電子署名のシステムを導入する 3 文書データの管理体制を整える |
電子署名はデータ化した契約書などに対して付与することで、「本人が作成していること」や「内容が改ざんされていないこと」を証明できる技術です。
契約書の法的効力を確保するため、電子署名の仕組みも導入する必要があります。
また、第三者からの不正アクセスなどを防ぐセキュリティ対策、情報漏えいを防ぐ情報の取扱いに関する規定なども整えておきましょう。
不動産取引の契約業務を電子化する際の注意点
不動産取引において、契約書を電子化する際は注意するべき点もいくつかあります。
電磁的方法での提供の承諾を得る
改正された宅建業法では、対象の書面を電磁的方法で提供できるのは「相手方の承諾を得られた場合」です。
また、承諾を得られた場合は紙で出力できるファイル形式で相手方が承諾した年月日・宅地建物取引業者名・電子書面の提供方法なども相手方に伝達のうえ、承諾する旨を記録した電子書面も残しておきましょう。
承諾の有無を巡るトラブルへの発展防止という観点から、承諾の電子書面は紙で出力可能なファイル形式が望ましいです。
各種書面を提供するタイミングを考慮して分割する
契約書の種類によって、相手方に提供するべきタイミングは異なります。
例えば重要事項説明書は「契約の成立前」、37条書面は「契約の締結・成立時」が宅建業法で定められている提供タイミングです。
電子契約サービスによっては、関連する電子書面を1つの署名依頼に同封して相手方に送信すると、受信者はすべての書面にアクセスできるようになります。
つまり、契約成立前にもかかわらず37条書面を提供してしまう、などの事態が起こる可能性もあります。
各種書面を電子化する際は、データを分割して適切なタイミングで提供できるようにしましょう。
不動産業界で業務効率・顧客満足度向上を図るなら電子契約の導入を
2022年5月に宅建業法が改正されたことで、以下の書類の電磁的記録が認められるようになりました。
・媒介、代理契約締結時の交付書面 ・指定流通機構への登録を証明する交付書面 ・重要事項説明書 ・37条書面 |
ただし電子化するには相手方の承諾が必要なこと、適切なタイミングで提供できるようにデータを分割すること、といった点に注意しましょう。
各種書面を電子化すれば、業務効率の向上や保管コストの削減だけでなく、遠隔の相手とも取引が容易になるため新たなビジネスチャンスにもつながります。
現状の業務効率・顧客満足度をより向上させたいと考えている方は、ぜひ電子契約サービスの導入を検討してみてください。