ノウハウ 反社会的勢力とは?定義や企業がするべき対策法などわかりやすく解説
更新日:2024年10月17日
投稿日:2023年12月18日
反社会的勢力とは?定義や企業がするべき対策法などわかりやすく解説
近年は法整備が進んでいることもあり、企業が反社会的勢力の悪影響を受けにくくなっていると思っている方も多いのではないでしょうか。 しかし反社会的勢力もまた法規制の厳格化に伴い、より巧妙な手口で素性を隠して企業に歩み寄るケースも増えています。
そこで今回は反社会的勢力の定義や種類を改めて解説したうえで、反社会的勢力と企業の間に起きた事件の例、排除のための対策、反社会的勢力のチェック方法などをご紹介します。
反社会的勢力とは
反社会的勢力といえば「暴力団」とイメージされがちですがその定義は広く、反社会的勢力の範囲に含まれる組織の種類は数多くあります。
いずれにしても、民間企業が反社会的勢力と呼ばれる組織と深く関わりを持ってしまえば資金を徴収されるだけでなく、社会的信用が失墜するなどの悪影響が及びます。
一般的に企業は個人よりも多くの資金を有している一方で、社会的信用の失墜がもたらす損害の規模も甚大です。
反社会的勢力はその性質を利用し、企業の隙に付け込んで「企業の社会的信用を守る・失墜を回避させてやる」という口実で資金を徴収します。
近年の反社会的勢力は暴力団対策法などによる法整備が進んでいるため、あからさまに企業の弱みを握るような行為や暴力行為、薬物取引など目立った不当行為を行わないことが特徴です。
巧妙な手口で組織の実態を隠しながら企業に接近する反社会的勢力が増えているため、対策を怠ると知らず知らずのうちに彼らと取引関係を結んでしまっていた、となることも珍しくありません。
そして、1度反社会的勢力と関わりを持ってしまえばそれを容易に断ち切ることもできません。
反社会的勢力の定義と種類
政府としては、反社会的勢力ついて「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義しています。
これは法務省が2007年に公表した、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」の記述を元にした定義です。
暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。
引用:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
その位置づけにある集団・個人は暴力団をはじめ、実に様々な種類があります。
以下より、反社会的勢力に含まれる集団・個人の主な種類をご紹介します。
暴力団
暴力団とは、「暴力あるいは暴力的脅迫によって自己の私的な目的を達しようとする反社会的集団」と定義づけられています。
暴力や脅迫などの不法行為により、金品を調達している団体のことです。
また、各都道府県公安委員会は暴力団対策法第3条で定められた以下3つの要件のいずれかに該当する暴力団のことを「指定暴力団」と呼んでいます。
1 暴力団の威力を利用して生計の維持・財産の形成・事業の遂行のための資金調達を行いやすくしている団体であること 2 暴力団の幹部又は全暴力団員の中に麻薬犯罪や傷害罪など特有の犯罪の前科を持つ者が一定の割合以上いること 3 暴力団の代表者またはその運営を支配する地位にある者の統制下に、階層的に構成されている団体であること |
指定暴力団と認められた団体に所属する構成員や元構成員は、警察により把握されています。
暴力団準構成員
暴力団準構成員は、暴力団には所属していない一方で不法行為により資金や武器などを提供し、暴力団の運営・維持に協力している個人を指します。
警察は現時点で判明している準構成員をリストアップしており、令和4年末現在で約22,400人いると言われています。
統計が残っている昭和33年以降、最少人数を更新したとのことです。
暴力団関係企業
暴力団関係企業は、暴力団に資金の受け渡しや業務に暴力団を利用する企業のことです。
「フロント企業」や「企業舎弟」とも呼ばれており、代表や役員など経営に関わる立場に暴力団員や準構成員がいる場合もあります。
一見しただけでは一般的な企業と見分けがつかないこともあり、企業間で取引契約を交わす際は入念な反社チェックが重要です。
総会屋
総会屋は複数の企業の株を保有して株主総会に出席し、そこで嫌がらせをしたり企業側にとって有利な議事進行に協力する代わりに資金を要求したりします。
このように、株主の権利の乱用で不当に利益を得る者が総会屋です。
社会運動標ぼうゴロ
社会運動標ぼうゴロとは、社会運動や政治活動の仮装または標ぼう(公然と掲げること)をして、不当な利益のために暴力的不法行為を行う恐れがある集団・個人のことです。
いわゆる「えせ同和行為」や「えせ右翼」などが代表的な例です。
正当な社会活動・政治活動を装い、企業に寄付金を強要したり機関誌を押しつけて高額な購読料を請求したりします。
特殊知能暴力集団
特殊知能暴力集団は、暴力団とのつながりによる威力を用いたり、暴力団と資金的なつながりを持ったりして、構造的な不正の中核となっている集団・個人のことです。
分かりやすい例としては、反社会的勢力と連携しつつ会計や法律などの専門知識を悪用し、株価操縦やインサイダー取引などで証券市場や企業から不当な要求を繰り返すなどがあります。
半グレ集団
半グレ集団は、日本において暴力団に所属せず犯罪を行う集団を指します。
暴走族のOBや地元の不良仲間などを構成員としていることが多く、警察からは「準暴力団」として厳しく取り締まられています。
2023年には福岡県警が半グレ集団を専門的に取り締まる、「準暴力団等集中取締本部」を発表したことで話題にもなりました。
参考:全国初の「半グレ」専門取締本部、福岡県警に230人態勢で発足…「治安対策上の脅威」
実際にあった反社会的勢力と企業間の事件
反社会的勢力と企業の間に起きた実際の事件としては、以下のような例があります。
・プライム上場企業が暴力団員に金銭を供与 ・金融機関が反社会的勢力の関係企業に融資して業務改善命令に ・反社会的勢力との取引を把握しながら放置して業務改善命令に ・暴力団のフロント企業に立ち退き交渉を委託 |
各事件では、説明責任を問われた後取締役が役員報酬を自主返納、業務改善命令が下される、社会的信用の失墜による業績悪化で民事再生…と、様々なペナルティが下っています。
いずれにしても反社会的勢力との取引は事前のチェックで回避できるトラブルであり、そのチェックを怠れば決して小さくない代償を背負うことになるのです。
【関連記事】基礎からわかる反社チェックー重要性と具体的な調査方法を徹底解説―
反社会的勢力を排除するための対策
反社会的勢力を排除するための対策は、国や自治体だけでなく多くの民間企業も講じています。
ここでは、反社会的勢力対策としての法令や対策例について詳しくご紹介します。
反社会的勢力に関わる法律の整備
従来の反社会的勢力は、暴力行為・覚せい剤・脅迫といった目立つ不当行為を行っていました。
そのため1991年に「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)」を設け、それらを摘発するというのが主な対策でした。
しかし情勢に応じて様々な形態に変化する反社会的勢力が根絶することはなく、国側は彼らに資金が流入しない対策も講じます。
その先駆けとなった法律が、2002年に成立した「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律(本人確認法)」です。
また、2007年には本人確認法を廃止する代わりにその内容を組み込んだ、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」が成立しました。
参考:犯罪による収益の移転防止に関する法律 | e-Gov法令検索
政府が公表した反社会的勢力の対策の指針
「反社会的勢力の定義」の際にも触れましたが、2007年に政府の犯罪対策閣僚会議で取りまとめられた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表しています。
暴力団の不透明化や資金獲得活動の巧妙化により、企業が知らず知らずのうちに暴力団関係企業などと取引を行ってしまうリスクが当時から問題視されていました。
この指針では、企業が心がけたい反社対応への基本的な考え方や実務対応まで幅広く取りまとめられています。
参考:法務省企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について
都道府県が制定した暴力団排除条例
佐賀県が2009年に「暴力団事務所等の開設の防止に関する条例」を制定したことを機に、他の都道府県も暴力団排除条例を制定しました。
2011年には、すべての都道府県で暴力団排除条例が制定されています。
条例の具体的な内容は各都道府県で異なりますが基本的には各都道府県に事業所をおく事業者に対し、「反社会的勢力に利益を与えないこと」「利益の供与を受けないこと」などの禁止事項が設けられています。
参考:暴力団排除条例 | 法制執務支援 | 条例の動き | RILG 一般財団法人 地方自治研究機構
企業・業界が独自に行う反社会的勢力の対策
反社会的勢力に対する法律や排除条例に続き、業界団体もまた反社会的勢力排除の取り組みを行っています。
例えば過去に暴力団関係者とのつながりによる事件も発生している銀行取引においては、銀行取引約定書や普通預金、当座勘定および貸金庫の各規定に暴力団排除上項を導入しました。
また、個人向け融資取引申請者については、照会システムの構築により反社会的勢力との取引を食い止める仕組みを整えています。
また、中小企業4団体と呼ばれている4つの団体はそれぞれの下部組織に対し、企業活動から暴力団排除に取り組むように通知しています。
企業が反社会的勢力の排除に取り組むべき理由
なぜ、各企業が反社会的勢力の排除意識を高めるべきなのでしょうか。
その理由としては、企業が反社会的勢力と関わることで生じる以下のようなリスクが挙げられます。
・法的根拠のない金銭要求や企業乗っ取りの可能性がある ・暴力団と関わりを持てば暴力団排除条例違反となる ・反社会的勢力との関わりが明るみに出れば融資などの契約が解除されかねない ・監督官庁からの検査や業務改善命令などを受ける可能性がある ・社会的な評判やブランド価値が低下する |
2007年に公表された政府指針でも、企業が反社会的勢力と関係を断つ必要性が記載されているため、併せて目を通しておくと良いでしょう。
反社会的勢力の見分け方・調べ方
反社会的勢力とのつながりを未然に防ぐには、有効な見分け方・調べ方を理解しておくことが大切です。
反社会的勢力の見分け方
相手側が反社会的勢力かどうかを見分けるにあたって重要なポイントを、個人・法人それぞれの場合に分けて解説します。
個人の場合
反社会的勢力に該当する個人の傾向として、マネーロンダリングした現金を使うためにクレジットカードではなく現金支払いを選ぶケースが多いです。
100万円以上もの高額な買い物でも現金支払いを選ぶ場合は、注意しましょう。
法人の場合
反社会的勢力の法人を見分ける場合は、まず評判について調べてみましょう。
中には根拠が不明瞭な噂に過ぎない評価がついていることもありますが、明らかに悪い評判が多い法人は反社会的勢力とのつながりがないとは断言できません。
また、契約書に記載されている暴力団排除条項に関して修正や削除を求めてくる組織は、反社会的勢力に該当する可能性が高いです。
反社会的勢力の調べ方
反社会的勢力が疑われる相手に対する調査の方法としては、以下の3つが挙げられます。
チェックツールを使う
反社チェックツールとは、AIを利用して情報を選別しながら相手が反社会的勢力かどうかを調査できます。
膨大な情報の中から人の手で調査すると少なくない時間や労力がかかりますが、チェックツールを使えば業務効率を落とさずスムーズに調査を進めることが可能です。
専門機関に調査を依頼する
より正確に調査したい場合や、新たなツールを導入する余裕がない場合は外部の専門機関に調査を依頼するという手もあります。
反社会的勢力に関する専門知識をもって調べてくれるため、高い信頼性と確実性に期待できます。
ただし調査には費用がかかるため、資金に余裕がなければ毎回のように依頼することは現実的な手段と言えません。
警察や暴追センターへ相談する
各都道府県には、「暴力団追放運動推進センター(暴追センター)」の窓口が設置されています。
弁護士や警察OBなど専門的な知識を持った相談員に、反社会的勢力に関する相談ができます。
ただし、暴追センターのデータベースにアクセスできるのは1口5万円の年会費が必要な「賛助会員」のみです。
根拠がない状態で反社会的勢力と疑っている相手に関しては、情報提示はしてもらえないため注意しましょう。
反社会的勢力に遭遇した際の対処法
万が一反社会的勢力に接触してしまった場合、以下の対処法を実践しましょう。
取引前の対処法
新規で取引をする前に、相手が反社会的勢力かどうかを見極めるために以下の対策を講じることが大切です。
契約書に反社会的勢力排除条項を記載する
取引前に契約書を交わす際、契約書には必ず反社会的勢力排除条項を記載しましょう。
これはすべての都道府県が、事業者に努力義務として条例に定めています。
反社会的勢力排除条項を記載することで、自社がコンプライアンスを遵守することの表明にもなります。
また、万が一相手が反社会的勢力と判明した場合、直ちに契約解除するための根拠としても有効です。
反社会的勢力ではないことの表明と確約をさせる
契約書の内容に取り入れるべきポイントとして、「反社会的勢力ではないこと」や「反社会的勢力とは関わりがないこと」を確約させる項目も必要です。
そのうえで万が一実際は反社会的勢力やその関係者だった場合は、催告なしの解約に応じること、解約で生じた損害は相手側の責任とすることにも同意をしてもらいましょう。
反社チェックを行う
先述した方法を用いた反社チェックも、取引前の対策として重要です。
必要に応じてチェックツールや専門家の力を借りて相手の情報を調査し、相手が反社会的勢力かどうかを判断しましょう。
取引後に反社会的勢力と発覚した場合の対処法
取引後に相手が反社会的勢力だと発覚した場合、または疑わしい一方でどちらとも判断できない場合、まずは落ち着いて相手に対するモニタリングを続けましょう。
明らかに不当な要求や暴力的な行為が行われた場合は速やかに警察や暴追センターへ相談、グレーな行為であれば契約解除事由にあたる行為を探ります。
明確な根拠がない状態で一方的に契約を解除すると、かえって自社が不利な立場となる恐れがあります。
各企業が徹底したい反社会的勢力に対する社内整備
反社会的勢力との関わりをより確実に避けるため、社内整備を整えておくことも大切です。
属性チェック体制を整える
取引先の属性を判断するには、現場担当者ではなく専門的な知識を有する人員による担当部署が行う必要があります。
そのうえで、属性チェックの項目・基準・手順などをルール化しましょう。
自社で情報データベースを構築する
取引先が多い企業の場合、取引の度に外部に情報の照会を依頼しては業務が回りきらない恐れがあります。
そのため、自社独自の情報データベースを構築しておき、必要なときにいつでも情報を引き出せる体制を整えておきましょう。
具体的には、「自社に対する不要求者」「暴力団」など対象者の範囲を決めたうえで、どのような方法で情報収集を行うのかを決めておく必要があります。
外部の専門機関と連携する
政府指針では、反社会的勢力から接触された場合や何らかの関わりが生じた際、警察や弁護士などの外部専門機関と連携するべきと示されています。
反社チェックの際にも高精度な調査を実施してくれるため、専門機関との連携は非常に重要と言えます。
従業員に対する反社会的勢力への対処の教育
経営者だけでなく、自社に所属する1人1人が反社会的勢力に対する高い排除意識を持たなければ意味がありません。
反社会的勢力に関する法令の背景、反社会的勢力との関わりがもたらす影響、具体的な対応方法などを理解してもらうためにも、対策マニュアルの策定や講習会を実施しましょう。
不当要求防止責任者を設置する
暴力団対策法では、事業者に対して「不当要求防止責任者」の専任を努力義務として定めています。
また、この責任者には不当要求に対する対応方法などの指導、各種資料の提供や助言などの援助といった取り組みも行うこととしています。
そこで役立つ援助が、「不当要求防止責任者講習制度」です。
警察に責任者選任届を提出すると利用できる制度で、責任者の指導に有効な講習の受講や警察・弁護士などの専門家と関わる機会を持てるなどのメリットがあります。
巧妙化する反社会的勢力には入念なチェックと社内整備が重要!
国・都道府県・各企業それぞれが反社会的勢力に対する対策に講じている中、反社会的勢力もまた情勢に応じて形態を変えながらあらゆる手段で企業から資金を得ようとしてきます。
それを他人事とは思わずに、自社の経営者・従業員がそれぞれ高い意識をもって反社会的勢力の排除・回避に取り組むことが大切です。
自社の体制を見直し、安全かつ健全な企業活動を継続できるように努めましょう。