ノウハウ 取締役会実効性評価とは?目的・方法・課題が見えるアンケート例
更新日:2024年10月17日
投稿日:2023年11月21日
取締役会実効性評価とは?目的・方法・課題が見えるアンケート例
組織の方向性を左右する取締役会。その取締役会が信頼できる機関でなければ、企業全体の信頼を得ることは難しいでしょう。
そこで、取締役会が機能しているかチェックするために用いられるのが取締役会実効性評価です。
取締役会実効性評価は何をどのように質問すれば良いのか、アンケート例と共にまとめました。調査結果はどのように活用すべきかについても解説します。
取締役会実効性評価とは
取締役会が期待される役割・責任・義務をどの程度果たしているか評価することです。
評価と聞くと、取締役会のことを客観的に判断できるよう点数化し、高得点をとれれば良いと思われるかもしれません。しかし、実効性評価は数値化してまとめるだけの仕組みではありません。
組織のミッションやゴールは組織によって違います。例えばベンチャー企業とスタートアップ企業。どちらも立ち上がったばかりの会社というイメージですが、ベンチャー企業は既存のビジネスモデルを基に事業拡大などを経て収益アップを目指します。
スタートアップ企業は新しいビジネスモデルを生み出すことで、世間にインパクトを与えることが目的です。
両者の目指すべき姿は違うと想像できるのではないでしょうか。よって、一律の基準に沿って評価することは現実的ではありません。
つまり、取締役会実効性評価は企業の目指すべき姿に必要な基準をそれぞれ設けて、取締役会が基準を満たしているかチェックし、改善できることを見つけてより良い機関となり続けるための仕組みと言えます。
また、取締役会実効性評価はPDCAサイクルの一部とも捉えられます。
PDCAサイクルは下記の4つのプロセスを繰り返し、循環させながら、生産性アップや目標達成といった組織の成長を続けるためのフレームワークです。
- Plan:計画
- Do:実行
- Check:評価
- Action:改善
各プロセスの頭文字をとってPDCAサイクルと呼ばれます。
PDCAサイクルに当てはめると、取締役会実効性評価は以下のようにまとめることができます。
- Plan=評価を参考に改善策を考える
- Do=改善策を取り入れた取締役会の実施
- Check=取締役会実効性評価の実施
- Action=さらなる改善策・対策の検討・実施
取締役会の実効性評価とコーポレートガバナンス・コード
評価の実施を求めるのがコーポレートガバナンス・コードです。
コーポレートガバナンス・コードが制定されたことをきっかけに、取締役会実効性評価が国内の企業にも広まりました。
コーポレートガバナンス・コードとは企業統治(Corporate Governance:コーポレートガバナンス)の原則・指標をまとめたガイドラインです。コーポレートガバナンスの頭文字をとってCGコードとも呼ばれます。
コーポレートガバナンス・コードによるとそもそもコーポレートガバナンスとは、企業が株主・顧客・従業員・地域社会といった組織に関係する全ての人・社会のことを考えて透明・公平性のある決断を迅速に行うための仕組みを意味します。
▶関連記事:CGコード(コーポレートガバナンス・コード)の概要と改訂内容とは
取締役会とは
そもそも取締役会は何を目的とした機関なのでしょう。
取締役会とは株式会社の業務執行に関する意思決定を行う機関です。
会社法第327条で以下に該当する企業に設置が義務づけられています。
- 公開会社
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
▶取締役会とは?会社法に沿って開催頻度・議題・議事録作成など解説
会社法第362条で以下を決定しなければならないと定められています。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
引用元会社法 | e-Gov法令検索
第676条第1号は募集社債に関する事項の決定、第426条第1項は取締役などによる免除の定め、第423条第1項は取締役や執行役や会計監査人などが任務を怠った時に生じた損害に対する賠償責任を株式会社に負う責任についての記載があります。
3人以上の取締役の参加が求められ、最低3ヶ月に1回の開催と議事録の作成が必要です。
取締役会の設置は取締役会の監督のおかげで、取締役の一存で決めることを避けられるため、議事録の作成や招集通知の送付などの手間はかかるものの、社外からの信用度が増すというメリットがあります。
取締役会の実施はオンラインも認められているため、オンライン開催であれば会場の用意などの手間は軽減されるでしょう。
取締役会の役割
会社法第362条によると、取締役会の役割は意思決定に加えて、取締役会が適切に業務をこなしているかの監査と、代表取締役の選定・解職も含まれます。
代表取締役は取締役会の中から選ばれます。
基本的には代表取締役が業務執行に関する意思決定を、取締役が業務執行を行います。
取締役会の設置されていない会社は取締役が意思決定も業務執行も行う点で、取締役がある会社と異なります。
取締役会実効性評価の方法
取締役会についての調査を外部機関に委託することもできます。しかし、コーポレートガバナンス・コードを参照すると、取締役会が主体となって実施するのが好ましいとあります。
評価方法はアンケートかインタビュー形式で集計するのが一般的です。
アンケート形式は回答者が特定されにくいです。インタビューよりも答えやすく、質問に対する回答が統一されることから(「そう思う」「思わない」など)回答の集計・分析がしやすいため、回答・調査の取りまとめ双方の負担を軽減できます。
アンケート形式を採用する際に悩ましいのが記名式にするか否かです。
無記名の方が答えにくいことも正直に回答しやすいと思うかもしれませんが、回答者の属性が分からないと課題の原因を突き止め、問題を解消するために有効な策を講じるのが難しくなります。
例えば「経営戦略・経営計画が不十分」と複数の人が回答したとします。答えは同じでも、社内取締役と社外取締役では不十分と思う理由が異なるかもしれません。低く評価された項目の原因と改善策を多角的に検討するためには、どの視点から寄せられた回答であるのかが重要です。
取締役会で共有する際に個人が特定されることに抵抗があるのであれば、回答結果を資料にする際に「取締役」「監査役」などだけが分かるようにすると良いでしょう。
インタビュー形式は回答を深掘りできます。ただし、自由に回答できる分、取締役会の課題をくみ取る力が求められる点に注意が必要です。また、以前の評価で課題として挙げられた点が改善したか比較するのも、アンケート形式より難しいです。
アンケート以上に時間がかかる傾向があることから、実施のハードルが高いと思われがちです。
評価の仕組みに慣れたら、改善策の考案からより良い取締役会にするための対策まで自社で試行錯誤しながら取り組むのが理想ですが、第三者の視点を取り入れるべき理由があるなら、外部機関を活用しても良いでしょう。例えば、社内の人間がインタビュー担当だと答えにくいかもしれないから外部にインタビューをお願いするなどのケースです。
取締役会実効性評価の調査項目
「評価項目」とも呼ばれます。取締役会を下記の点からチェックします。
- 取締役会の構成、開催頻度
- 発言、付議事項
- 意思決定としての役割
- 株主・投資家との関係
- モニタリング
- 内部統制
取締役会実効性評価の評価項目
では、評価すべき項目についてどのような質問が想定されるのでしょう。
質問項目は適宜見直しても問題ありませんが、中長期的な評価の必要な項目については、毎年同じ質問をすることで成果が見えてきます。
複数にわたる評価の必要な項目か否かも、取締役会での議論がおすすめです。
取締役会の構成、開催頻度
- 取締役会の人数は適切か
- 知識・経験・専門性などの多様性を確保したメンバー構成か
- 開催頻度は適切か
発言、付議事項
- 発言内容は適切か
- 発言数は適切か
- 話し合うべき議題の議論はされているか
- 付議事項の数は適切か
意思決定としての役割
- 改善策は迅速に考案されたか
- 考案された対策に柔軟性はあるか
株主・投資家との関係
- 資料は適切な時期に交付されているか
- 社外の人にも分かりやすい資料を作成しているか
モニタリング
- 適切な経営戦略・経営計画を立てられたか
内部統制
- 不祥事が起きた時の調査・処分・今後の対策や対処は適切か
取締役会実効性評価の分析
回答が集まったら担当者が集計して取締役会で共有します。
評価を確認し、結果に一喜一憂するだけでは調査の意味がありません。取締役会のメンバーが評価の低い項目や改善の見られる項目などの話し合いに活かすことが大切です。
議論の場では評価を低くした理由を説明してもらったり、アンケート形式の自由記述欄の補足説明などの時間も設けましょう。
調査で見えた課題を深掘りしながら共有することで、より具体的な改善策を考えられます。
調査後の改善計画
取締役会実効性評価が調査で終わらないようにするためには、PDCAサイクルを意識したスケジュールがポイントです。
実効性評価の実施がCheckに当たることは既に紹介しました。次の段階Act、さらなる改善策の検討の際に外せない視点やポイントを心がけて、計画を立てましょう。
まずは取締役会の課題を洗い出します。
次に、翌年の取締役会までにどのようにすれば改善できるか検討します。同時に、改善を試みた項目の評価が良くなっているか否かも確かめます。このままの方法を続けて良いのか、違う方法を試した方が良いか考えられるためです。
課題が複数上がった場合、まとめて解決しようとすると全て中途半端になるかもしれません。早急に解決の必要なものやすぐに解消できそうなものから取り組んでいくと、着実な解決を見込めます。
結果の開示
結果の開示を行うことがコーポレートガバナンス・コードで求められています。
結果の概要は必ず公表しないとなりません。金融庁発表の記述情報の 開示の 好事例集 2022を読むと、結果の概要とあわせて対策と評価方法、評価項目まで開示するのが好ましいと考えられます。
評価結果の理由や良い点・悪い点が分からないと、より良い取締役会となるためにやるべきことが分からず改善を見込めず投資家が企業を見極める判断材料としても不十分です。詳細な情報開示が信頼獲得につながります。
まとめ
株式会社の意思決定を担う取締役会。その取締役会が期待される役割や義務を果たしているか調査するのが取締役会実効性評価です。コーポレートガバナンス・コードをきっかけに普及しました。
調査はアンケート形式かインタビュー形式で行われますが、決められた質問項目があるわけではありません。各社が目指すべき目標の達成に必要な基準に合う項目を設定できます。
実効性評価はPDCAサイクルの一環と捉えられます。故に、結果に一喜一憂して終わりではなく、課題を見つけてより良い取締役会になるための対策を考え、改善策に基づく取締役会ができるようにしなければなりません。
結果の開示も必要なので、外部の人が見ても詳しく分かる形式を心がけ、信頼獲得に努めましょう。