ノウハウ コンプライアンスとは?法令遵守との違いや違反事例もわかりやすく解説
更新日:2024年10月31日
投稿日:2023年11月20日
コンプライアンスとは?法令遵守との違いや違反事例もわかりやすく解説
「コンプライアンス=法令遵守」と考える方は多いかと思いますが、コンプライアンスは単に企業の法令違反を防ぐためだけの考え方ではありません。
今回はコンプライアンスの明確な定義や、法令遵守をはじめとする類義語との違いを詳しく解説します。
コンプライアンス違反となる事例や対策例などもご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
コンプライアンスとは
そもそも、コンプライアンスとはどんな意味を持つ言葉なのでしょうか。
まずは定義や類似した用語との違いについて理解を深めましょう。
コンプライアンスの定義
コンプライアンス(compliance)とは、直訳すると「法令遵守」を意味する言葉です。
しかし、近年のビジネスシーンにおいては法令だけでなく、社会倫理やモラルなど明文化されていない規律の遵守を差す言葉としても使われています。
企業経営を行う上で法令を遵守することは当然であり、加えて社会的なルールに沿った良識のある経営方針が望ましいとされているのです。
万が一企業がコンプライアンス違反を犯した場合、自社だけでなく取引先や顧客といったステークホルダーにも損害が生じたり、経営の継続が困難となる恐れがあります。
なお、企業経営を行う中では故意でなくとも法令や社会的なルールに抵触するリスクは常に潜んでいます。
そのようなリスクのことを、「コンプライアンスリスク」といいます。
法令遵守(ほうれいじゅんしゅ)とコンプライアンスの違い
コンプライアンスと法令遵守は混同されがちですが、言葉に含まれる意味の範囲が異なります。
法令遵守は文字通り法令を遵守することを指しますが、コンプライアンスは「法令+社会的なマナー」を遵守することを指す言葉です。
法令遵守を破れば、法令に基づく罰金や懲役といった処罰が科せられます。
それに対しコンプライアンスを破った場合のペナルティは必ずしも法的な処罰とは限らず、自社のイメージの低下とそれに起因する顧客や利益の損失など、社会的な制裁が及ぶ可能性があります。
CSRとコンプライアンスの違い
CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略語で、和訳すると「企業の社会的責任」を意味します。
これもコンプライアンスと似た意味合いですが、CRSが示す範囲はコンプライアンスよりも広いことが特徴です。
CSRは法令や社会的なルールといった規律だけでなく、地球環境や次世代に配慮して以下のような活動を実施することを指します。
・規律を守りながら健全な企業経営を行う体制を整える(コンプライアンスの遵守) ・差別のない公平な雇用を実施する ・適切な労働環境を整える ・CO2削減など地球環境の保全や改善を図る活動 ・自社製品やサービスに関して消費者へ積極的に情報を開示する など |
つまりCSRという大きな括りの中に、「コンプライアンスの遵守」という取り組みが含まれているということです。
CSRの実践にはコンプライアンスの達成が前提となるため、併せて知っておきましょう。
コーポレートガバナンスとコンプライアンスの違い
ビジネスシーンではコーポレートガバナンスという用語もよく使われますが、これは企業統治(企業が自らを律するための取り組み)を意味します。
経営者を監視・監督して社内の不正行為を予防し、企業経営の健全化を図るのが目的です。
具体的には、取締役と執行役を分離したり、リスク・コンプライアンス委員会を設置したりします。
コンプライアンスの観点では、粉飾決済・横領・ハラスメント・情報漏洩など社会規範に反する行為も徹底的に防止する必要があります。
つまり、コーポレートガバナンスとはコンプライアンス遵守のために必要な取り組みの一部ということです。
内部統制とコンプライアンスの違い
内部統制とは会社を効率的かつ健全に経営するための仕組みを構築することで、コーポレートガバナンスに近い意味合いの言葉です。
ただしコーポレートガバナンスは「経営者の不正の防止」するため、内部統制は「経営者が従業員を管理」するための取り組みを指します。
コンプライアンスの達成には、経営者だけでなく従業員の不正行為も同様に防止する策が必要です。
内部統制もまた、コンプライアンスの達成に必要な取り組みの1つとなっています。
コンプライアンスが重要視される理由と背景
コンプライアンスは、年々その重要性について注目度が高まっています。
ここでは、コンプライアンスが重要視される主な理由と背景を解説します。
企業による不祥事の増加
大手中古車販売企業や大手芸能事務所のコンプライアンス違反など、最近はニュースで企業による不祥事の報道を目にする機会が増えたと感じる方も多いのではないでしょうか。
不祥事を起こす企業は増加傾向にあり、こうした背景もコンプライアンスの重要性に注目を集める要因の1つとなっています。
また、コンプライアンス違反にあたる「不適切会計」の場合、2023年上半期に不適切な会計・経理を開示した上場企業は35社、件数にして36件だったことが判明しています。
この調査は2008年より東京商工リサーチにより実施されてきましたが、上半期の数値に限れば2023年は過去2番目の高水準とのことです。
36件のうち20件は経理・会計処理のミスでしたが、11件は着服横領によるもので、前年と比べて約22%増加しています。
参考:2023年上半期の「不適切会計」開示 過去2番目の35社(36件)、最多はサービス業の9社 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ
SNSの普及
インターネットが発達し、SNSで誰でも簡単に情報発信や収集ができるようになった現代。
企業の行いに対し、少しでも不審に感じた人がいればすぐに全世界へ向けてその事実が発信される可能性が大いにあります。
ある企業の深刻なコンプライアンス違反の事実が発信され、瞬く間にその企業への非難がSNS上に溢れかえるケースも珍しくありません。
コンプライアンス違反を犯しても周囲の人物にさえ黙っていてもらえば、世間に知られずに済むという時代はすでに終わりを迎えています。
各企業は、これまで以上にコンプライアンス遵守を徹底し、社会的な印象を損ねない取り組みに注力する必要があります。
コンプライアンス違反による倒産企業の増加
2023年1~9月時点で「コンプライアンス違反」により96件の企業が倒産しており、前年同期と比べて39.1%も増加しています。
その中でも税金や助成金関連の不正行為が大幅に増加しており、景気の失速が続く現在においてはさらなる増加が懸念されています。
参考:2023年1‐9月「コンプライアンス違反」 倒産は96件 「粉飾決算」は件数減も、 中堅企業の増加で負債膨らむ | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ
コンプライアンス違反が発覚すれば社会的なイメージは大幅に低下し、少なからず企業経営にも影響が及びます。
場合によっては、取引先や顧客を失ったり資金繰りが悪化したりと、経営の継続そのものが困難となり倒産に追い込まれる可能性も高いです。
コンプライアンス違反が企業にもたらす影響
自社にコンプライアンス違反が発覚すれば、以下のような影響を受ける可能性が生じます。
・法令違反による処罰 ・自社に対するイメージの低下 ・信用を失うことによる業績や財務への悪影響 |
コンプライアンスには法令も含まれているため、違反すれば罰金・懲役刑などの刑事罰や行政処分に加え、最悪の場合営業停止や許認可の取り消しなど事業の継続が不可能となることもあります。
また、処罰は免れてもイメージの低下や信用を失うことにつながり、企業経営がままならなくなることも珍しくありません。
コンプライアンス違反の事例
コンプライアンス違反とされる行為の例としては、以下のようなものが挙げられます。
・景品表示法、下請法、著作権侵害などの法律違反 ・パワハラ、セクハラなどのハラスメント ・過剰な時間外労働やサービス残業の強要 ・従業員への給与の未払い ・データの持ち出しや外部からのハッキングによる情報漏洩 ・契約内容に沿わない取引 |
コンプライアンス違反にも様々な種類があり、多角的に対策を強化する必要があります。
以下の記事では各企業が注意すべきコンプライアンスのリスクや詳しい事例もご紹介していますので、併せてご覧ください。
コンプライアンス違反の原因は「3つの不足」
どの企業もコンプライアンス対策は強化するべきとはいえ、コンプライアンス違反が発覚する企業は絶えません。
なぜ企業はコンプライアンス違反を犯してしまうのか、その理由は以下の「3つの不足」が挙げられます。
法令に関する知識・意識の不足
企業経営を行ううえで、理解すべき法令は数多くあります。
実際に関わる法令は業種によって異なりますが、基本的にどの企業も以下のような法令の知識は身に付けておく必要があります。
・労働基準法 ・会社法 ・民法 ・景品表示法 ・独占禁止法 など |
法知識がついていないと、知らず知らずのうちに法令に反した行為をしてしまうリスクが生じます。
どんな行為が法令違反となるのか、外部の専門家などにも頼りながら研修を実施することが大切です。
個人の倫理観の不足
企業によっては、「コンプライアンスを遵守する」という意識が欠けていることから違反行為に至る場合もあります。
複数のコンプライアンス違反が発覚した企業に多いケースで、日頃からコンプライアンス違反の隠蔽や意識教育の不足により、不正が起こりやすい環境が構築されていると考えられます。
コンプライアンス違反対策の不足
コンプライアンス違反が起こりやすい企業の特徴として、対策が不十分という点も挙げられます。
明らかな法令違反なら刑事罰や行政処分などの重い罰則が科せられますが、モラルに反する行為などペナルティが不明瞭な不正行為については自社が処分を行わなければなりません。
詳細は後述しますが、社内規則に不正時の罰則を明記したり、社員の相談・内部通報窓口を設置したりといった対策が必要です。
コンプライアンス違反発覚のきっかけ
万が一コンプライアンス違反が行われていた場合、以下のようなきっかけで事実が明るみに出ることが多いです。
・コンプライアンスリスク対策部署による調査 ・従業員からの相談 ・顧客や消費者からの苦情 (あきらかに自社サービス・商品が原因の損害が消費者や顧客に生じたとき) |
コンプライアンス違反の影響が社内に留まるものであれば、対処のやり方も比較的選択の余地があります。
しかし、取引先や顧客など外部に損害が生じてようやく違反行為が発覚した場合は自社の信用は大幅に失われます。
そのような事態を防ぐためにも、事前に内部で違反行為の芽を摘めるような対策を講じておくことが重要です。
コンプライアンス強化のための対策法
コンプライアンス違反を防ぐ、または損害を最小限に抑えるための対策法としては何をすべきなのでしょうか。
ここでは、コンプライアンス強化に有効な対策法を解説します。
内部統制体制を整える
まずは経営者側が率先してコンプライアンスに対する意識を高め、内部統制体制を整える必要があります。
自社の経営状況から、現状どのようなコンプライアンスリスクが潜んでいるのか、そのリスクはどのような影響を及ぼすのかについて分析しましょう。
その分析結果に基づき、経営とコンプライアンス遵守を両立させる社内規定やマニュアルを作成します。
その後は定期的に規定・マニュアルを見直す機会を設け、社会情勢や法改正などとも鑑みながら必要に応じて改定を行うことも大切です。
従業員に対するコンプライアンス教育の徹底
コンプライアンスマニュアルをすべての従業員へ配布し、研修を実施するという対策も必要です。
マニュアルの内容に沿って、自社に属する従業員として身に付けるべき倫理観の重要性やコンプライアンス違反によるリスクに対する理解を深めてもらいましょう。
自社内で作成したマニュアルだけを頼りとするのではなく、外部から各分野の専門家を講師とする方法もおすすめです。
社内の相談窓口の設置
ハラスメントや長時間労働など社内で横行しているコンプライアンス違反は、早期の発見と対処が肝心です。
被害を受けている本人や周囲で違反行為を目撃した従業員がいち早くその事実を共有できるよう、相談窓口を設けましょう。
相談窓口は社内ではなく、電話やWebなど外部に設置すると相談しやすくなります。
また、相談員は社内の誰とも利害関係がない外部の専門家へ依頼すると良いでしょう。
コンプライアンスチェックツールの導入
社内全体がコンプライアンスを遵守できているか、コンプライアンス違反の可能性が生じていないかは、人の手や目だけで把握するにも限界があります。
そこでおすすめな手段が、IT技術との併用です。
電子契約書の内容についてAIを用いたシステムでチェックしたり、システムの改ざんを検知するソフトウェアを活用したりすれば、日常的に生じ得るコンプライアンス違反の芽をより確実に摘むことができます。
コンプライアンスに関わる法律
コンプライアンスの根幹ともいえる法令は、実に様々な種類があります。
数ある法令の中でも、特に重要度が高いものは以下の通りです。
項目 | 法令 |
会社の運営や情報開示に関する法律 | 会社法 |
金融商品取引法 | |
労働者に関する法律 | 労働基準法 |
労働契約法 | |
労働安全衛生法 | |
事業者間の競争や取引に関する法律 | 下請法 |
独占禁止法 | |
消費者との契約に関する法律 | 民法 |
消費者契約法 | |
特定商取引法 | |
割賦販売法 | |
消費者の情報に関する法律 | 個人情報保護法 |
商品の安全性に関する法律 | 製造物責任法 |
食品衛生法 | |
消費者安全法 | |
商品の表示に関する法律 | 景品表示法 |
食品表示法 | |
不正競争防止法 | |
知的財産権に関する法律 | 特許法 |
商標法 | |
著作権法 |
「法令に加えてモラルも遵守するべき」がコンプライアンス!
コンプライアンスとは、「法令だけでなくモラルも遵守すること」を示すビジネス用語です。
企業家家に関わる法律はもちろん、自社の行いが社会的なイメージにどのような影響を及ぼすのかも考慮しながらコンプライアンス対策を強化する必要があります。
特に取引先や顧客との契約内容についてコンプライアンス違反が生じると、相手側に損害を与え深刻なトラブルへ発展しかねません。
コンプライアンス対策をより確実なものとするためにも、人の手と便利なシステムを併せて活用することが大切です。