ノウハウ コンプライアンスリスクの定義とは?事例も一覧で紹介
更新日:2024年10月17日
投稿日:2023年11月20日
コンプライアンスリスクの定義とは?事例も一覧で紹介
「コンプライアンス」という言葉はビジネスシーンでよく耳にする言葉ですが、具体的にどんな意味があり、企業経営とどんな関係性があるのか深く理解できていない方も多いはずです。
今回はコンプライアンスの意味やリスクの種類、種類ごとの事例、具体的な対策法などについて徹底解説します。
コンプライアンスリスクとは何か
「コンプライアンスリスク」とは、企業が不祥事などにより法的責任を問われたり社会的評判が失墜するリスクのことです。
まずはコンプライアンスとは何か、コンプライアンスにおけるリスクの定義とは何かについて、理解を深めておきましょう。
コンプライアンスとは
コンプライアンスとは「法令遵守」を意味する言葉で、ビジネスシーンでよく使われています。
しかし近年は多様なビジネスにおいて使われることが増え、法令だけでなく「社内規範」や「社会的な規律」という意味も含まれていることが多いです。
コンプライアンスは、企業が安定的な経営を続けるために強化するべきものとされています。
法令はもちろん、「世間的にどのような印象を与えるか」という社会倫理から逸脱しない行動が重要です。
コンプライアンスにおけるリスクの定義
リスクとは一般的に、何らかのトラブルが発生する可能性やその危険性のことです。
コンプライアンスにおいては、「企業の経営方針や従業員の意識などに起因する違反行為の可能性」というリスクがあります。
そのようなリスクのことは、コンプライアンスリスクとも呼ばれています。
すべての企業は不確実な状況の中で経営を続ける必要があり、自社が行った行動により社会的な評価が低下する可能性をゼロにすることはできません。
悪意がなくとも、自社内では当たり前とされてきた習慣が社会的には望ましくないものであり、上層部や従業員も無自覚なままコンプライアンスに違反している可能性があります。
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コンプライアンスとコーポレートガバナンスとの関係性
コンプライアンスの類似語としては、コーポレートガバナンスという言葉もあります。
コーポレートガバナンスは直訳すると「企業統治」となり、コンプライアンスとはやや異なる内容・範囲の活動を指す言葉です。
コンプライアンスは法令や社会倫理という観点から、不正行為が起こるリスクを回避するための規律です。
一方でコーポレートガバナンスは、不正行為が起きない企業経営の施策、それを維持するための仕組みを構築するための取り組みを指します。
つまりコーポレートガバナンスは「目的」であり、コンプライアンスはコーポレートガバナンスという目的を達成するための「手段」ということです。
コンプライアンスリスクの主な種類
各企業に潜むコンプライアンスリスクは、実に様々な種類があります。
主なコンプライアンスリスクの種類と内容を知り、マネジメントに活かしましょう。
法令違反のリスク
コンプライアンスリスクの中で最も広く浸透しているのが、法令違反のリスクです。
企業経営は様々な法令に抵触するリスクと常に隣り合わせであり、すべての企業はその法令を理解のうえ遵守する必要があります。
企業経営に関わる法令としては以下のようなものがありますが、業種によって適用される法令は異なります。
・労働基準法 ・消費者契約法 ・独占禁止法 ・下請法 ・会社法 ・景品表示法 ・金融商品取引法 ・電気通信事業法 |
法令違反を犯した企業は業務停止命令や課徴金納付命令といった行政処分の他、最悪の場合刑事罰の対象にもなる恐れがあるため注意が必要です。
社内規則(労務)違反のリスク
自社で定めている、社内規則に違反するリスクも十分に注意するべきです。
法令よりも比較的軽い存在と思われがちな社内規則ですが、そもそも社内規則とは法令違反のリスクを下げるため、そして経営者と従業員で正当な契約関係を結んで維持するための役割を持ちます。
社内規則に違反すれば法令違反のリスクが高まるだけでなく、従業員とのトラブルに発展し、従業員の退職・就職希望者の減少・行政処分といったリスクも生じます。
契約違反のリスク
契約リスクとは、他社や顧客と契約を交わした際に発生するリスクのことです。
法令に抵触する内容で契約を取り交わしたり、どちらか一方が不利益を被る契約内容となったりするなどのトラブルが該当します。
他社や顧客と安定的な取引関係を続けるためにも、精査して定めた契約内容を遵守し、信頼性を高めることが大切です。
万が一契約違反を犯せば、相手側から損害賠償請求を受けたり顧客が減少したりと、自社も大きな不利益を被ります。
社会的な信用に対する違反のリスク
企業が遵守するべきは法令・社内規則・契約内容など、形が明らかとなっている規則だけとは限りません。
社会から期待または要請されている意識や取り組み・モラルといった、明文化されていない規律を意識しながら企業経営を続けることも、社会的な信用を失わないために必要です。
第三者に対する不法行為のリスク
第三者に対する不正行為とは、以下のような行為が該当します。
・他社や個人の知的財産の侵害 ・汚染物質の排出による郊外 ・店舗や施設の設備の欠陥が原因となった事故 |
相手側が契約関係にない企業や個人であっても、自社が損害を与えた場合はその責任を問われます。
多額の損害賠償請求を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
【種類別】コンプライアンスリスクの事例一覧
コンプライアンスの種類は分かっても、具体的にどのような行為が結びつくのかは想像しがたいポイントです。
ここでは、前項で挙げたコンプライアンスリスクごとに具体的な事例を分けてご紹介します。
法令違反 | ・「通信速度業界最速」「SIM販売シェアNo.1」など、明確な根拠を提示せず誇大広告を掲載した(景品表示法違反) ・自社製品の性能データを偽装した(不正競争防止法違反) ・自社の資金繰りに困窮し、顧客から違法に資金を募った(出資法違反) |
社内規則(労務)違反 | ・新入社員が慢性的な長時間労働を強いられて過労死した ・従業員に対し3ヵ月分の給与を支払わなかった ・パワハラやセクハラなどのハラスメントが原因で従業員の心身に不調を引き起こした |
契約違反 | ・取引している業者に製品製造を依頼した結果、契約で定めた基準に適合しない製品が納品された |
社会的な信用に対する違反 | ・従業員が店舗の設備や什器で悪ふざけをしている映像や画像やSNS上で拡散され、非難された |
第三者に対する不法行為 | ・イラストレーターがSNS上に投稿したイラストを、大手企業が無断で使用した |
コンプライアンスリスクマネジメントが重要な理由
コンプライアンスリスクを回避するためには、適切なリスクマネジメントが欠かせません。
企業経営は「従業員の労働・株主の出資・消費者の購買行動」により成り立つものです。
それらの要素は、企業に対する印象や信頼性があってこそ発生します。
しかし自社に不正な取引や社会倫理に沿わない行動、ハラスメントなど人の権利を侵害する問題といった事実が存在し、明るみに出ることがあれば当然ながら印象や信頼性は大きく損なわれます。
その結果、数々のステークホルダーから出資や購買行動が得られなくなり、最悪の場合は経営がままならない状況へ陥りかねません。
特に近年はインターネットの発達により、企業・個人にかかわらず少しの不祥事もSNSで拡散されやすい時代です。
そのような中でも安定的な企業経営を実現するためにも、コンプライアンスマネジメントが重要となります。
コンプライアンスリスクに有効な対策法
コンプライアンスリスクを回避するために有効な対策法としては、以下の6つがあります。
社内行動規範の作成、社内規程やマニュアルの作成や見直し
まずは自社の経営における現状を見直し、どのようなコンプライアンスリスクが潜んでおり自社へどれだけの影響が及ぶのかを分析することが大切です。
その分析をもとに経営とコンプライアンス遵守を両立させるための規定や方針を定め、社内規定・マニュアルを新たに作成するか、見直しのうえ必要な部分を改定しましょう。
具体的には、現状の経営でコンプライアンス違反に繋がりかねないリスクを洗い出し、そのリスクを回避するための対策・課題を明確化させます。
その対策を規定やマニュアルに盛り込み、すべての従業員へ速やかに周知すれば自社全体のコンプライアンスリスクは低減します。
法改正や新法の情報に通じておく
コンプライアンス違反の対策は、1度策定して終わりではありません。
時が経てば法改正や新法の施行が決定する可能性がある他、思わぬタイミングで社会情勢に大きな動きが生じることもあります。
自社のコンプライアンス違反として作成した社内規定やマニュアルなどは、世の中の動きに合わせて常に改善の余地がないかをチェックし、必要性があればその都度改善と周知を繰り返すべきです。
研修の実施
コンプライアンス遵守の重要性は、経営層だけでなくすべての従業員が「自分事」として理解している必要があります。
各従業員のコンプライアンス意識を高めるため、研修を実施しましょう。
基本的には企業における行動倫理や適用される法令などの研修が主な内容となりますが、専門性の高い内容や広範囲の分野について学ぶ必要があれば、専門家による研修が望ましいです。
研修の形式は座学によるテキストの解説でも良いですが、内容によってはワークショップなど体験型の研修が有効な場合もあります。
内部統制システムの導入
従業員1人1人がコンプライアンス違反を犯さないように管理や監視をするにも、人の目と手だけでは限界があります。
効率的に各従業員のコンプライアンス違反を防止するには、内部統制システムの導入が有効です。
例えば契約書についてAIを用いたシステムでチェックし、人の目では見落としがちな細かいリスクを探し出すなどの対策があります。
他にもシステムの改ざんを検知するソフトウェア、データ通信を暗号化して情報漏洩リスクを下げるクラウドサービスなど、IT技術はリスクマネジメントにおける様々なポイントで役立ちます。
内部統制システムとは?構成要素と導入のメリット・手順について
外部専門家を活用する
システムだけでなく、時には外部の専門家の活用が必要な場合もあります。
例えば契約書のリーガルチェックなら弁護士、税務面の取り扱いが適切かどうかを判断するには税理士といったように、特定の分野に精通した有資格者へ助言を求めることはコンプライアンスのリスクマネジメントとして有効です。
相談窓口や内部通報窓口の設置
過剰な労働の強要やハラスメントといったコンプライアンスリスクの防止策として、車内に相談窓口や内部通報窓口を設置するという手があります。
上層部がどれだけコンプライアンスリスクを高めていても、意識の異なる様々な従業員が混在する現場では密かにハラスメントが発生している可能性も捨てきれません。
労働環境に悩む従業員をケアするためにも、いつでも相談を受け付ける窓口の存在は重要です。
窓口の相談員には、社会保険労務士など第三者かつ専門的な知識を有した人材の配置がおすすめです。
社内での利害関係がない人物であれば、立場にかかわらずどの従業員も通報・相談がしやすくなります。
また、個人情報保護のルールを確立して相談内容が外部に漏れないよう徹底することも大切です。
このように秘匿性を高める措置を講じれば、通報・相談をしたことで従業員が不利益を被るリスクも回避できます。
コンプライアンスリスク対策の具体的な流れ
改めてコンプライアンスリスク対策を強化しようにも、まず何から手をつけるべきか悩む方も多いことでしょう。
そこで役に立つものが、PMI(プロジェクトマネジメント協会)が発表した「PMBOK」という考え方です。
PMBOKではリスクマネジメントを含め、様々なプロジェクトマネジメントに必要なプロセスや各プロセスの目的・概要・必要な技法などが定義されています。
このPMBOKの要点に基づいてコンプライアンスリスク対策を行う場合に押さえておきたい業務手順は、以下の通りです。
1 リスクマネジメント計画 自社がリスクと感じる事柄やそのレベルの整理と対策の明確化
2 リスクの特定 自社の経営やプロジェクトに影響を与えかねないリスクを特定し、リスト化 3 リスクの分析 特定したリスクに対し、影響度や発生率などを考慮のうえ対策の優先度をつける 4 リスク対応の計画 「具体的に予防策を講じる」「軽減策を計画する」「監視のみ」など、特定したリスクの優先度に応じて対応方針を定める |
問題が起こる前にコンプライアンスリスク対策を!
ビジネスにおけるコンプライアンスリスクとは、企業経営に関わる法令・社内規定・契約などの違反行為が起こる可能性を指す言葉です。
コンプライアンス違反が生じると、自社のイメージが大きく低下して経営の安定性に影響が及びます。
特に、契約関係のコンプライアンス違反は他社や顧客との深刻なトラブルにつながるため十分な注意が必要です。
しかしコンプライアンスリスク対策を強化しようにも、人の手に頼るのみでは十分に強化できない可能性もあります。まずは自社内に潜むリスクを特定したうえで、そのリスクに対応し得るシステムも上手に活用しましょう。