ノウハウ コンサルティング契約とは?形態や内容をひな型つきで徹底解説
更新日:2024年10月17日
投稿日:2023年10月30日
コンサルティング契約とは?形態や内容をひな型つきで徹底解説
新規事業への進出や、経営上の課題を抱えており、コンサルティング契約の締結を視野に入れている方はいませんか?
近年は様々な形でコンサルタントが活躍している一方、実際にどのような契約を結べばいいのかお困りの方も多いと思います。
今回は、コンサルティング契約の概要や、契約を締結するメリットを分かりやすく解説します。
また、実際に用いられている契約書のひな形も紹介しているため、ゼロから契約書を作成する方の参考にもおすすめです。但し、契約書については個別の事情によって大きく異なるため、専門家に確認してもらうようにしましょう。
コンサルティング契約とは?
ここでは、コンサルティング契約の目的や、アドバイザリー契約との違い、2種類の契約方法について解説します。なお、コンサルティング契約や、アドバイザリー契約は法律に定義されたものではないため、明確に区別できない場合等がありますので、ご留意ください。
コンサルティング契約を結ぶ目的
コンサルティング契約を結ぶ主な目的は、特定の専門知識や技術をもたないクライアントが、その知識や技術をもつ専門家からのアドバイスやサポートを受けて、ビジネス上の課題解決や目標達成を図るためです。
例えば、新規市場への参入を目指す企業が、その市場の深い知識をもつコンサルタントにアドバイスを求めることで、リスクを減らしながら効果的な戦略を組むことが可能です。
コンサルティング契約とアドバイザリー契約との違い
コンサルティング契約が具体的な解決策や手段を提案・実施することに重点が置かれるのに対し、アドバイザリー契約では企業全体に対する一般的なアドバイスや意見を提供することがメイン業務となります。
例えば、特定のプロジェクトに関する具体的な手法を求める場合にはコンサルティング契約、ビジネス全般の方向性やアドバイスを求める場合にはアドバイザリー契約が締結されます。
コンサルティング契約の種類・形態
コンサルティング契約は、民法上、請負契約と準委任契約の2つの種類に分けられます(いずれにも該当しないという考え方もあります)。
請負契約か準委任契約かの違いは、契約の目的(業務のゴール)がどこに置かれるかによって変わります。
請負契約は、仕事の完成を成果物とする契約であり、コンサルティング契約の場合にはレポートの作成やビジネスプランの策定など、目に見える形での成果を求めるケースが該当します。
一方、準委任契約としてのコンサルティング契約は、業務の遂行自体を成果物とする契約であり、例えば分析やアドバイス、相談対応などの業務を行うケースが代表例です。
契約形態の違いにより、何をもって債務不履行というかが変わるため、契約締結時にしっかりと違いを把握しておく必要があります。
コンサルティング契約が必要となる場面
コンサルティング契約は、主に企業が重大な経営課題や変革に直面した際に利用されます。
例えば、新規事業への進出のほか、企業の業績が悪化したり、組織の効率性が問題となった場合に、専門的なレベルでの業務改善や組織再編を行うためにコンサルティング契約が締結されることがあります。
近年は企業の買収や合併などのM&Aが活発化しており、正確に企業価値を把握したり、適切なM&A先を選定するために、専門のコンサルタントに依頼することも増えています。
コンサルタントの専門分野は多岐にわたり、それぞれの強みが全く異なるため、場合によっては複数の専門家に相談することも必要です。
コンサルティング契約を締結するメリット
コンサルタントは深い知識や豊富な経験をもつ専門家であるため、コンサルティング契約を締結することで、企業自身がもっていない専門知識を即座に取り入れ、ビジネス上の課題にすばやく対応することが可能です。
また、コンサルタントに経営課題への対応を委託することで、例えば経営会議の時間を削減するなど、社内リソースの分配を最適化・効率化することもできます。
コンサルタントは外部の立場から客観的に評価・分析できるため、中立的な意見や視点を取り入れることで、事業の方向性や戦略をより適切に見直せる点も、コンサルティング契約を締結するメリットといえるでしょう。
コンサルティング契約の内容・ひな形
以下、一般的で簡易な雛形を具体例として挙げ、契約作成時の注意点などを紹介します。実際に作成される際は専門家の助言を得ることをお勧めします。
コンサルティング業務の目的
第1条 目的 甲は、以下に定められたコンサルティング業務(以下「本件業務」という。)を、乙に委託し、乙はこれを受諾する。 (1)少なくとも、月〇回の来社による甲の〇に関する知識、技術、ノウハウの提供 (2)□に関する調査、指導、助言 (3)□に関する事業計画書の作成 (4)△に関するノウハウの提供 (5)その他、上記各号の業務に付随して甲が依頼した業務 |
最初に、コンサルティング業務の目的・業務範囲を示します。
できる限り明確に内容を記述することが望ましいものの、あまりにも細かく設定すると業務に支障が出てしまうため、上記5号のように包括的な規定を設けておくといいでしょう。
目的条項の定め方によって、当該契約が請負契約なのか準委任契約なのかが分かれることとなり、この雛形では準委任契約タイプを採用しています。
報酬の支払方法および期限
第2条(業務委託料及び費用) (1)甲は、乙に対し、毎月末日限り、本件業務に関する対価として月額金〇万円(消費税を含む。)を乙の指定する銀行口座に振込送金するものとする。なお、振込手数料は甲の負担とする。 (2)乙は、甲に対し、前項の業務委託料とは別に本件業務を遂行するにあって要する費用を請求できる。 |
報酬について争いに発展することを避けるため、金額や支払時期・方法などを契約書に明記します。
ここで基本費用のほか、経費が必要な場合の扱いについても触れておけば、予期せぬ支出を防ぐことが可能です。
報告義務
第3条(報告) 乙は、本件業務の実施状況について、毎月1回以上の報告書を作成し、甲に対し提出する。 |
コンサルティング契約では、コンサルティング業務の状況を把握するため、レポートの作成・提出を義務付けることが一般的です。
コンサルティング契約の効果を把握するためにも、こうしたレポートは必ず作成させ、内容を確認しましょう。
成果物の権利の帰属
第4条(成果物の権利の帰属) (1)乙が本件業務において作成又は提供する資料、報告書、その他の情報(以下これらを総称して「成果物」という。)に関する著作権その他の知的財産権は、本件業務実施前から甲に帰属するものを除き、全て乙から甲に無償で譲渡するものとする。 (2)乙は、成果物に関する著作者人格権を行使しないものとする。 |
このような条項を設けておくことで、例えば、コンサルタントが作成した商品説明資料などについて、契約期間が終了した後もクライアントが自由に利用できるようになります。
資料等の取り扱い
第5条(資料等の扱い) (1)甲は、乙に対し、本件業務遂行に必要な資料を提供する。 (2)乙は、必要資料を善良なる管理者の注意をもって扱うものとし、事前に甲の書面による承諾を得た場合を除いて複製することができない。 (3)乙は、甲から受領した必要資料を本件業務の遂行以外の目的に使用してはならない。 |
コンサルタントに渡す資料のなかには、企業の機密情報が含まれていることも珍しくありません。
そこで契約書には資料の取り扱いに関する条項を記載し、場合によっては「本件契約の終了後に破棄または返還する」などの文言も追加しておきましょう。
秘密保持義務
第6条(秘密保持義務) (1)乙は、本件業務の遂行に関して知りえた甲の技術上、業務上及び営業上の情報一切を、第三者に開示・漏洩しない。但し、甲の事前の承諾がある場合はこの限りでない。 (2)本条の義務は本契約の期間終了後も有効とする。 |
秘密保持に関する条項は、機密情報の漏洩を防ぎ、万が一漏洩が発生した場合に責任を問うために非常に重要なものです。
ここでは必要最小限の情報のみを記載していますが、より効果を高めるためには、別途秘密保持契約書(NDA)を締結しましょう。
▶関連記事:秘密保持契約(NDA)とは?必要項目や雛形について解説
競業避止
第7条(競業避止) 乙は、本契約期間中、甲の同業他社に対し、本件業務と同様又は類似する業務を提供してはならない。但し、甲の事前の承諾がある場合はこの限りでない。 |
コンサルタントが同業他社へのコンサルティング業務を行うことを防ぐために、競業避止に関する条項を設けます。
この条項はコンサルタント側にとってビジネスの幅を狭めるものであるため、例えば地域を限定するなどの交渉が行われることもあります。
中途解約・契約解除
第8条(中途解約) (1)甲及び乙は、本契約期間中であっても、〇ヶ月前に相手方に書面で通知することにより本契約を解除することができる。 (2)前項の場合、解除の効力は乙の未履行部分についてのみ生じるものとし、甲は乙より履行部分の引渡しを受けた上で、業務委託料を甲乙協議の上清算するものとする。 第9条(契約の解除) (1)甲は、乙が本契約に違反したときは、相当の期間を定めた催告をし、催告期間が終了しても違反が是正されない場合、本契約を解除できるものとする。 (2)甲は、乙に次の各号いずれかに該当する事由が生じたときは、何らの催告を要することなく、直ちに本契約を解除することができる。 1 営業停止、営業許可の取消し等の処分を受けたとき 2 破産開始手続、民事再生開始手続、会社更生開始手続きの申立てがあったとき 3 差押え、仮差押え、仮処分等の強制執行、又は公租公課の滞納処分を受けたとき 4 支払停止、又は支払い不能に陥ったとき、若しくは手形が不渡となったとき 5 解散、合併又は営業の全部、重要な一部の譲渡を決議したとき |
コンサルティング契約は、1年間などの中長期的なスパンで締結されることが一般的ですが、突発的な事情により契約を解除できるようにするため、解約や解除に関する条項を設けておきましょう。
再委託・譲渡の禁止
第10条(再委託の禁止) 乙は、本件業務を第三者に委託し、又は請け負わせてはならない。 第11条(譲渡禁止) 甲及び乙は、相手方の書面による事前の承諾なしに、本契約上の地位又は本契約に基づく権利及び義務を第三者に譲渡し又は担保に供し、その他一切の処分をしてはならない。 |
コンサルティング業務の再委託・債権債務の譲渡を禁止する条項を設けておくと、契約の途中で当事者が変更になることを防ぐことができます。
契約の有効期限
第12条(有効期間) 本契約の有効期間は、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日までの1年間とする。但し、期間満了〇ヶ月前までに、甲乙いずれからも本契約を終了する旨の通知がない場合、1年間同一の条件で延長されるものとする。 |
契約の期間と、期間延長に関する条項です。
自動延長に関する記述を設けておくと便利ではありますが、契約状況をしっかりと把握するため、契約基本台帳の整備とリマインダーの設定をしておきましょう。
合意管轄
第13条(合意管轄) 本契約に関する一切の紛争については、〇〇地方裁判所をもって第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 |
コンサルティング契約に関する紛争が生じた際の管轄を定める条項です。
一般的には、クライアントまたはコンサルタントの本店所在地を管轄する地方裁判所が合意管轄として定められます。
コンサルティング契約の注意点
コンサルティング契約では、機密性の確保が特に重要なポイントです。
コンサルタントは業務を遂行するうえで、クライアントの機密情報に触れることが多いため、情報漏洩のリスクを避けるため必ず秘密保持に関する条項を設けましょう。
機密情報は、外部への情報漏洩を防ぐことはもちろんのこと、内部での取り扱いにも注意が必要です。
例えば、人事異動に関する情報が予期せぬタイミングで従業員に知られることで、不必要な動揺を与えてしまう可能性があります。
そのため、コンサルティング契約や秘密保持契約書で機密情報の取り扱い方法を明確に記し、情報が内外に漏洩しないように最新の注意を払いましょう。
まとめ
今回は、コンサルティング契約の概要やメリットを解説し、具体的な契約書のひな型も紹介しました。
企業がより生産性を高め、経営課題を解決するために活用されるコンサルティング契約ですが、契約状況の把握や情報漏洩リスクの管理など、別の課題を抱えてしまう側面もあります。
契約の形態やリスクに気をつけながらよりよい契約を結びましょう。