ノウハウ 紙で締結した契約書の原本を破棄するリスクは?電子契約、契約書でいう原本とは?
更新日:2024年10月17日
投稿日:2023年09月14日
紙で締結した契約書の原本を破棄するリスクは?電子契約、契約書でいう原本とは?
自社が電子契約を導入しても、契約相手が紙での契約を希望した場合、紙契約書での締結は避けられません。
ペーパーレスの考えが浸透した現在、紙の契約書もスキャンし保管していれば、破棄しても問題ない。そう考えるのも自然です。
しかし、紙で締結した契約書を破棄することにはリスクがあるのです。
本記事では、電子契約、改正電子帳簿保存法とは何か、紙での契約書の原本破棄のリスクについて解説します。
原本、写しとは?
原本の定義は締結方法によって変わります。
紙で締結した場合、紙の契約書が原本となります。
紙契約書をスキャンしPCなど電子媒体に保存した場合はその保存したファイルは写しとなります。
電子締結をした場合、電子締結をした電子ファイルが原本となります。
電子ファイルをプリンターなどで紙面として出力したものは写しとなります。
つまり、紙で締結した場合原本を保管するとなると、紙の契約書を保管することを言います。
改正電子帳簿保存法で何が変わった?
電子契約が一気に進んだきっかけは、感染症に伴うリモートワークにあるでしょう。
これに加え、法改正契約を電子化できるよう、法改正が進み、2019年4月1日から施行された「働き方改革」の具体策のひとつとして、ペーパーレス化についても国として推進が行われています。
2022年1月より施行された「電子帳簿保存法」や「e-文書法」では、これまでは紙での保存が義務付けられていた文書を、国としてもペーパーレス化を推進すべく法改正が行われました。
この法改正以降、契約書や領収書は、スキャンしたり電子文書として作成・保存することが可能になりました。
2022年1月改正の電子帳簿保存法では、下記の内容がポイントです。
ということは、電子で締結した場合の契約書は電子で保存しておかないとなりません。
では、紙の契約書はスキャンして電子化しておけば破棄してもかまわないのか、というとそうでもありません。
【関連記事】電子帳簿保存法改正とは?要件、対象の事業者などをわかりやすく解説
写しには証拠能力がある?
前述の通り紙で締結した場合、原本となるのは紙の契約書です。
写しではなく原本を保管する一番の理由は訴訟などの紛争リスクの証拠として保管するためです。
実際、写しは裁判の証拠として使われています。しかし、原本がないことによって裁判の結果が不利になる可能性があるのです。
詳しい事例を民事訴訟規則、判例をお見せしご紹介します。
民事訴訟規則
民事訴訟規則によると、原本の写しであっても裁判で提出する書類として認められるという記載があるため、写しが証拠にならないとは言えません。
ただし、裁判所は写しを提出したとしても原本の提出を求めることができます。
民事訴訟規則:第百四十三条 文書の提出又は送付は、原本、正本又は認証のある謄本でしなければなら ない。 2 裁判所は、前項の規定にかかわらず、原本の提出を命じ、又は送付をさせることがで きる。
平成3年9月24日 労働事件裁判
民事訴訟法(平成8年改正前)は書証の申出につき文書の原本、正本または認証ある謄本をもってな すことを要す旨規定し(同法三一一条、三二二条)、文書の写しによる証拠調べは 原則として許されないが、当事者間に文書の原本の存在について争いがなく写しに よる証拠調べについて異議のない場合には、文書の写しによる証拠調べは許される し、また、文書の原本は存在するが当事者がこれを所持しない等の理由により原本 を提出できないときは、『写し』自体を原本として書証の申出をすることもでき…
原本紛失により不利になった例
また、原本紛失により裁判結果が不利になった事例もございます。
①契約書の代わりとして使用した覚書の住所、契約者などの記載に不自然な点がある、原本紛失をしていることなどから請求棄却となった例。
②控訴審:重要書類である著作権使用契約に係る契約書の原本を双方が紛失しているのはあり得ない、つまり破棄したとみなされ請求金額が減額された例。
「控訴人及び被控訴人の双方が本件契約書の原本を保持していないのは,本件契約書は一旦作成されたものの,その後,控訴人及 び被控訴人において,これが有効な契約書として成立していないことが 確認され,それに伴い,双方において契約書を破棄することになったた めと推認される。」
このように過去の判例によると原本破棄にはリスクが伴うことがわかります。
併せて、新たな動きとしてDXにより裁判が変わり始めています。
裁判手続きのIT化による影響
2018年、内閣官房日本経済再生総合事務局により裁判手続等のIT化検討会が開かれました。これは、民事訴訟の裁判手続等の全面IT化を目指すために開かれた検討会です。
すでに2022年4月から順次運用されており、利用要件は当事者双方に訴訟代理人がおり、双方の訴訟代理人がmints(e裁判システム)の利用を希望した場合に適用されます。
この制度では、訴状や証拠の提出などがITで完結できることが想定されています。
これは、紙契約書原本の保管に影響があるのでしょうか。
【関連記事】裁判IT化とは?目的やメリット、デジタル化の課題について
紙契約書も電子化して送付することを想定しているというところがポイントになりそうです。
当事者からの主張及び証拠(準備書面、書証等)の提出については、紙媒体 のものを裁判所に持参・ファクシミリ送信等する現行の取扱いに代えて、電子 情報のオンラインでの提出に移行し一本化していくことが望ましい(例えば、 10 専用システムに当事者がアップロードした電子情報を、相手方がダウンロード して入手するなど)。
同様に、証拠改ざんのリスクについても言及があり、証拠能力の検証としてデジタルフォレンジック技術などの検討が予想されています。
しかし、直近の検討会(2020年実施)の資料によると”証書原本は場合によって必要に応じて確認する”とあるなど紙の原本の破棄にはリスクがありそうです。
事件管理システム上の書証の電子データを閲覧する方法による証拠調べを実現する(原本は必要に応じて確認する)。
この必要に応じてというものですが、例えば、双方の証書の写しに相違があった場合などが考えられます。
紙の契約書を電子保存する意味
では、紙の契約書を電子保存しておく意味はどこにあるのでしょうか。
それは、検索性を担保するためにあります。
契約トラブルを防ぐために重要なのは、契約書作成段階でリスクの高い条項が入っていないかなどレビューを行うこと、契約期間を管理し遅延、期限切れの内容に管理すること、過去契約書を正しく分かる状態で保管することです。
全ての契約書を電子登録しておき、検索できる状態にしておくことでこれまで無駄にかかっていた倉庫で契約書を探す時間、担当者から再度情報を集める時間などを削り、よりビジネスのリスクを防ぐ法務活動に時間を割くことができます。
また、紙の契約書を電子登録せず保管しておくと、紙保管分の管理台帳とシステムで自動で作成される管理台帳との2重管理になり、紙と電子の2重管理の手間がかかります。
この非効率さは、取引が増えれば増えるほど契約への影響が大きくなり、継続すべき契約の有効期間切れなどひいてはビジネスに直結するリスクになることが予想されます。紙の契約書、電子の契約書をデータとして1つに管理しておくなどの業務改革でこのようなリスクは小さくすることができます。
まとめ
契約における原本とは、紙で締結した場合は紙の契約書のこと、電子締結した場合は電子ファイルのことをいいます。
紙で締結した契約書を破棄してしまうことは訴訟の際のリスクを大きくするためお勧めしません。
規則上、裁判の際の証拠としては、原本と写しはどちらも証拠として認められます。しかし、民事訴訟規則や過去の判例を見ると写しを提出したとしても原本の提出を求められる可能性が拭えないことから訴訟のリスク管理のためには、原本は保存しておくほうが良いでしょう。
最初から電子ファイルで作成されたものであれば、税法・電子帳簿保存法上、紙の保管が必要なく電子ファイルでの保管が認められています。真のペーパーレス化を目指すには、電子締結を推奨したフローを作成することがポイントになるでしょう。