ノウハウ リスクマネジメントとは?基本的な戦略と手法を分かりやすく解説
更新日:2024年10月17日
投稿日:2023年06月26日
リスクマネジメントとは?基本的な戦略と手法を分かりやすく解説
ビジネスを行う上で、リスクを完全に予防することはできません。しかし、リスクを適切に予測し、効果的に管理することで、企業の安定性と競争力を向上させることは可能です。
今回は、企業や組織がリスクを予測・管理するための戦略であるリスクマネジメントについて重要性や詳細な手順などを通して詳しく紹介します。また、リスクマネジメントの重要性や手法、そして企業が抱える具体的なリスクの例についても解説します。
リスクマネジメントとは?
まずは、リスクマネジメントの概要について解説します。
リスクマネジメントの定義・目的・重要性を理解したうえで、企業が直面する具体的なリスクの例を知り、適切な戦略が選択できるようになりましょう。
①リスクマネジメントの定義
リスクマネジメントとは、企業や組織が直面する潜在的な脅威や機会を予測し、企業や組織の目標達成を支援するための戦略的なプロセスです。
後ほど詳しく紹介するように、リスクマネジメントは複数のプロセスから成り立っており、主にリスクの特定、評価、優先順位付け、対策の策定、対策の実施とモニタリングという一連の手順から構成されます。
②リスクマネジメントの目的
リスクマネジメントの目的は、企業の資源を最適に活用しながら、リスクの影響を最小限に抑えることです。
企業はさまざまなリスクに直面しており、それらのリスクが企業の目標達成に与える影響を最小限にするために、リスクマネジメントが重要とされています。
③リスクマネジメントの重要性
効果的なリスクマネジメントを実施することで、企業や組織は将来の不確実性に対処し、目標達成を促進することができます。
リスクを適切に識別し、評価し、管理することで、企業は迅速かつ効果的な意思決定を行い、持続的な競争力を維持・向上させることが可能となります。
適切なリスクマネジメントが行われない場合、企業はリスクに対処するために時間的・金銭的コストの投下を強いられることとなり、最悪の場合には倒産に至ってしまう可能性もあります。
④企業が抱えるリスクの例
企業が抱えるリスクは多岐にわたります。これから紹介する代表的なリスクは、企業の持続的な成長や競争力に直接的な影響を与えるため、リスクマネジメントの重要性はますます高まっています。
金融リスク
- 信用リスク
- 市場リスク
- 流動性リスク
- 通貨リスク
- 利子率リスク
金融リスクは企業が直面する重要なリスクの一つです。企業が金融リスクに適切に対処しない場合、資金繰りの悪化や利益の減少などの影響を受ける可能性があります。
運営リスク
- 人的リスク
- プロセスリスク
- システムリスク
- 法令遵守リスク
- 契約リスク
運営リスクは企業や組織の日常的な業務や運営に関連するリスクです。これらのリスクは、生産性の低下、品質の低下、業績の悪化などをもたらす可能性があります。
戦略リスク
- 市場競争リスク
- M&Aリスク
- テクノロジーリスク
- 経営陣の意思決定リスク
戦略リスクは、企業の戦略的な意思決定に関連するリスクです。適切な対策を講じない場合、市場シェアの喪失、競争力の低下、新規事業の失敗などが起こるおそれがあります。
環境・社会リスク
- 自然災害リスク
- 社会情勢リスク
- 環境問題リスク
- 企業の社会的責任リスク
環境・社会リスクは、企業や組織の社会的および環境的な影響に関連するリスクです。特に日本では地震や台風などの自然災害リスクが高く、適切なリスク対策を行わない場合には、再起不能なダメージを負う可能性があります。
供給チェーンリスク
- 仕入れ先リスク
- 物流リスク
- 在庫リスク
- 製品の品質リスク
供給チェーンリスクは、企業のサプライチェーンに関連するリスクです。具体的には、原材料の供給の中断、輸送の問題、サプライヤーの倒産などが含まれます。企業が供給チェーンリスクを適切に管理せず、予期せぬ事態に対応できない場合、生産停止、顧客への遅配、信頼性の低下などが生じる可能性があります。
リスクマネジメントの3要素
リスクマネジメントのガイドラインとされているJISQ31000では、リスクマネジメントを構成する要素として「原則」「枠組み」「プロセス」が示されています。
リスクマネジメントの「原則」
リスクマネジメントの原則とは、どんな組織にも共通する「リスクマネジメントとはこうあるべき」という指針です。
具体的には、以下8つの原則が設けられています。
原則 | 内容 |
統合 | リスクマネジメントは組織のすべての活動に統合されている。 |
体系化および包括 | 体系化・包括的なリスクマネジメントの取り組みは、一貫性のある比較可能な結果に寄与する。 |
組織への適合 | リスクマネジメントの枠組みおよびプロセスは、対象とする組織の目的に関連する外部および内部の状況に合わせられ、均衡がとれている。 |
包含 | ステークホルダーの適切で時宜を得た参画は、彼らの知識・見解・認識の考慮につながる。これにより意識向上や十分な情報に基づくリスクマネジメントにつながる。 |
動的 | 組織の外部および内部の状況の変化に伴う事象を、適切かつ時宜を経て予測・発見・認識し、対応する。 |
利用可能な最善の情報 | 過去や現在の情報・将来の予測といったインプット先に付随する制約や不確かさを明確に考慮に入れる。 |
人的要因及び文化的要因 | 人間の行動や文化は、それぞれのレベルおよび段階においてマネジメントのすべての側面に大きな影響を与える。 |
継続的改善 | リスクマネジメントは、学習および経験を通じて継続的に改善される。 |
リスクマネジメントの「枠組み」
リスクマネジメントに取り組むための基準を、JISQ31000では「枠組み」と示しています。
枠組みは、主に以下5つの要素で構成されています。
要素 | 内容 |
統合 | リスクマネジメントは組織の意思・組織統治・リーダーシップやコミットメント・戦略・目的・営業活動の一部であり、これらと分離しない。 |
設計 | 組織の現状やステークホルダーの意向について検証・理解し、リスクマネジメントに対するコミットメントを明示する。 |
実施 | 時間や資源を含めた適切な計画を策定し、リスクマネジメントに関する決定が組織全体のどこで・いつ・どのように・誰によって下されるのかを特定する。 組織の取り決めが明確に理解されたうえで実施されることを確実にする。 |
評価 | リスクマネジメントの意義・実施計画・指標・期待される行動に照らして、パフォーマンスを定期的に測定する。 |
改善 | 継続的なモニタリングの結果に併せて枠組みを適応させたり、枠組みの適切性・妥当性を継続的に検討のうえ改善したりする。 |
リスクマネジメントの「プロセス(手順)」
リスクマネジメントでは、様々なリスクに適切に対応し続けるために、継続的なプロセスを実施する必要があります。
これから紹介する各プロセスを丁寧に実施し、企業・組織全体でリスクマネジメントを推進することで、企業は将来のリスクに備え、持続可能な成長を達成できるようにしましょう。
プロセス1.リスクの特定
リスクマネジメントの第一段階は、企業が直面する潜在的な脅威や機会を明らかにすることです。先ほど紹介したリスクの例を参考にしながら、企業が抱えるリスク(潜在的なものも含む)がないか常にチェックするようにしましょう。
リスクの洗い出しの方法
重要なリスクを洗い出すうえで、「リスクの定義が曖昧」「リスクの種類が多い」といった理由から着手に手間取るケースも少なくありません。
リスクの洗い出しを進める際は、以下のポイントを意識しましょう。
・事業の目的達成に影響を与えるすべての事象をリスクと定義する ・複数人で意見を出し合いながらリスクを想定する |
また、想定されるリスクを出し合う場合は、どんな些細な事象もその場では「要対策なリスクの候補」として許容することが大切です。
この時点でリスクそれぞれの 重要度について評価のうえ排除すると、網羅性を失い本当に対策が必要なリスクを見落とす恐れがあります。
プロセス2.リスクの評価
次に、特定されたリスクについて、その影響や発生確率を評価します。ここで適切にリスクの評価ができていない場合には、その後の意思決定(どのような手法でリスク発生を予防するのかなど)に大きな影響が及んでしまうため、慎重に評価しなければなりません。リスクの評価は、定量的なデータや統計情報、専門家の意見などを活用して行われます。
プロセス3.リスクの優先順位付け
評価されたリスクを重要度に基づいて順序づけ、対策の優先度を決定します。リスクの優先度付けは、リソースの制約や企業の目標に応じて行われます。高いリスクを優先的に対策することで、リスクの影響を最小限に抑えることが可能です。
リスクマトリクスとは
リスクマトリクスとは、リスクの「発生率」と発生した場合の「深刻度」を評価するための手法です。
まず、発生率と深刻度についてそれぞれ尺度を定めます。
一般的には、1~5程度のレベルを設ける場合が多く、レベルが上がるほど発生しやすい・深刻な影響をもたらすと判断されます。
レベルを5まで設定した場合、発生率と深刻度を掛け合わせた数は1~25となります。
これが、各リスクによりもたらされる影響度を数値化したものの幅です。
各リスクの発生率・深刻度はそれぞれレベルいくつに該当するのか、それらを掛け合わせると数値はいくつになるのかを算出し、それに応じて対策の優先度を定めましょう。
また、詳細は後述しますがリスクマネジメントの手法は大きく分けて予防・軽減・転嫁・需要の4通りがあります。
リスクマトリクスで算出した影響度に区切りを設けたうえで採用する手法を割り振り、リスクごとにどんな手法で対応するのかを決めるといったようにも活用できます。
プロセス4.リスク対策の策定
優先度が高いリスクに対して効果的な対策を立案し、リスクを管理します。対策の策定には、リスクの軽減、回避、転嫁、受容などの方法があります。企業はリスクに対する具体的な対策を計画し、実施に移ります。
リスクマネジメントにおける指標
リスクの察知と対策を実行するボーダーラインを判断する際の指標として、「KRI」があります。
KRIとは重要リスク指標ともいわれており、特定のリスクがどれだけ差し迫っているのかという度合いを測るためにモニタリングする対象を示すものです。
まず特定のリスクに対しKRI(モニタリング対象とするもの)を設定し、次にその指標がどうなったらどう対応するのかを策定します。
例えば海外市場への輸出台数増加を図る自動車メーカーの場合、日本車の価格上昇に伴う販売不振というリスクが想定されます。
そのリスクの起因となり得るもの、すなわちKRIとして設定すべきものを「為替相場」とし、「対米ドルの為替が〇〇円下回ったら〇〇で対応することでリスクへ備える」といったように活用します。
プロセス5.リスク対策の実施とモニタリング、方法
策定された対策を実行し、その効果を監視・評価します。リスク対策の実施は継続的なプロセスであり、変化するリスク状況に応じて対策の見直しや改善が必要です。また、対策の効果を定期的に評価し、必要に応じて修正や改善を行うことも重要です。
リスクマネジメントのモニタリング方法
リスクマネジメントにおけるモニタリング方法としては、以下の取り組みがおすすめです。
・プロジェクトチームや関係者間の定期的な情報共有とステータスの更新 ・プロジェクトの責任者とマネージャー・チームリーダーでリスク対応に関する意識合わせを定期的に行う ・リスク発生の可能性の変更やリスクマネジメントの見直しを常に記録・更新する |
リスクのモニタリングはチームメンバーそれぞれの連携が重要です。
万が一誰かがリスクに関して気付いたことがあっても、立場を気にして呼びかけができない場合もあります。
それを防ぐためにも、日頃からメンバー間でのコミュニケーションを勧める文化を形成することを心がけましょう。
リスクマネジメントの手法
リスクマネジメントには、様々な手法があります。以下では、主要なリスクマネジメント手法について説明します。リスクマネジメントの手法は、リスクの特性や企業の事情に応じて適切に選択される必要があります。企業はリスクの特性を理解し、それに適した手法を組み合わせてリスクマネジメントを行うことが重要です。
手法1.予防的リスクマネジメント
予防的リスクマネジメントは、リスクが発生する前に対策を講じることで、リスクを予防する手法です。
企業や組織は、過去の経験や業界のベストプラクティスを参考にし、潜在的なリスクを予測して予防策を実施します。具体的には、セキュリティ対策の強化や予防保全活動などが予防的リスクマネジメントに該当します。
手法2.軽減的リスクマネジメント
軽減的リスクマネジメントは、リスクが発生した際にその影響を最小限に抑えるための対策を実施する手法です。自然災害リスクを例に挙げると、災害時対応マニュアルの策定や、耐震補強工事などを実施することで、被害を最小限に抑えることや復旧力を高めることを目指します。
手法3.転嫁的リスクマネジメント
転嫁的リスクマネジメントは、リスクを他の企業や組織個人に移し、自企業のリスク負担を軽減する手法で、「リスク移転」や「リスク共有」とも呼ばれます。一般的な転嫁手法としては、保険を利用する方法があります。保険契約により、特定のリスクを保険会社に転嫁し、リスク発生時には損害の補償を受けることが可能です。
また近年では、クラウドツールの利用などにより自社でのツール管理の負担を減らす方法なども活用されています。
手法4.受容的リスクマネジメント
受容的リスクマネジメントは、リスクの影響が許容範囲内であると判断された場合、そのリスクを受け入れる手法です。一般的には、リスクの影響が軽微であり、対策の費用や労力がリスク自体よりも大きい場合に適用されます。
企業におけるリスクマネジメントの例
実際にリスクマネジメントを実施した企業と主な取り組みの例は、以下の通りです。
・グループ会社ごとのリスク抽出と評価を定期的に行うリスクマネジメント委員会の設置 ・リスクマネジメント委員会による損失極小化マニュアル作成や内部通報窓口などの設置 ・災害発生時にも生産活動の継続を図る工場設備の補強対応 |
業種などによってリスクの内容や最適な対策は変わりますが、どの企業においても情報セキュリティポリシーの徹底周知・重要機密情報の紛失対策・労働安全衛生の確保・BCP(事業継続計画)は重要性が高い取り組みといえます。
リスクマネジメントと契約書管理システム
契約書管理システムといえば、一般的には「業務効率化ツール」としての印象が強いかもしれません。しかし契約書管理システムは、リスクマネジメントの観点からも重要な役割を果たします。
以下からは、契約書管理システムの概要やリスクマネジメントとの関係について解説します。
①契約書管理システムとは?
契約書管理システムは、契約業務の効率化とリスク軽減に貢献するツールです。契約書管理システムを導入することにより、契約書の電子化・データベース化が可能となり、承認までのフローと進捗プロセスを追跡しやすくなります。
また、アクセス制御やデータの暗号化などのセキュリティ機能により、契約データを保護し、情報漏洩や不正アクセスからのリスクを低減する役割を果たします。
②契約書管理システムがリスクマネジメントに与える影響
契約書管理システムの導入は、リスクマネジメントにさまざまな影響を与えます。
具体的には、以下のような点が挙げられます。
- 契約違反リスクの軽減:契約書管理システムによって、契約内容や期限を正確に管理できるため、契約違反リスクを軽減することができます。システムが契約の状態を監視し、必要なアラートやリマインダーを提供することで、契約の遵守をサポートします。
- 法的なトラブルの防止:契約書管理システムによって、契約書の保存や追跡が容易になります。必要な情報や文書が迅速にアクセス可能であるため、法的なトラブルの発生を防止することができます。
- 機密情報の保護:契約書管理システムはセキュリティ機能を備えており、機密情報や個人情報の保護を支援します。アクセス制御や暗号化などのセキュリティ対策が行われるため、情報漏洩や不正アクセスのリスクを低減することができます。
③契約書管理システムを活用したリスク軽減方法
契約書管理システムを活用することで、以下のようなリスク軽減方法が実現できます。
- 契約内容の確認と更新:契約書管理システムは契約書の詳細な情報を保持しているため、契約内容を簡単に確認できます。契約期限や条件の更新に関するアラートや通知機能も備わっているため、契約の更新漏れを防止し、リスクを軽減することができます。
- 契約関連リスクの効果的な管理:契約書管理システムは、契約に関連するリスクの特定や評価を支援します。リスクの発生源や影響度、対策の優先度などの情報を一元管理し、効果的なリスク対策を策定・実施することができます。
④契約書管理システム導入の注意点と効果的な活用方法
契約書管理システムを導入する際には、以下の注意点と活用方法に留意することが重要です。
- 適切なシステム選択::契約書管理システムを導入する前に、企業における現状の業務フローとそれに基づくニーズ・要件を明確にし、適切なシステムを選択することが重要です。システムの機能や柔軟性、セキュリティ対策などを評価し、企業の要求に最適なシステムを選ぶことが求められます。
- カスタマイズと企業フローへの適合: 契約書管理システムは企業の業務フローに合わせてカスタマイズすることができます。契約書の承認フロー、アクセス権限、通知設定などを企業の要件に合わせて設定し、システムを最適化することが重要です。
- 従業員への研修とサポート:システム導入後は、従業員に対して研修やトレーニングを実施し、システムの活用方法や操作方法を啓示する必要があります。また、システムの運用やトラブル対応などのサポート体制を整えることも重要です。
まとめ
リスクマネジメントは、企業が潜在的な脅威や機会を予測し、資源を最適に活用しながらリスクの影響を最小限に抑える戦略的なプロセスです。本記事ではリスクマネジメントの定義や目的、重要性を詳しく解説しました。さらに、企業が抱える具体的なリスクの例も紹介しました。
リスクマネジメントのプロセス(手順)にはリスクの特定や評価、優先順位付け、対策の策定、実施とモニタリングが含まれます。
契約書管理システムの導入もリスク軽減の手段として有効であり、適切なシステム選択やカスタマイズが重要です。
リスクマネジメントの実践によって、企業は変化に柔軟に対応し、持続的な成果を上げることができます。組織の安定性と競争力向上のために、戦略的なリスク対策を進めましょう。
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