ノウハウ アジャイル・ガバナンスとは?Society5.0の時代に求められる企業の役割を解説。
更新日:2024年10月17日
投稿日:2021年12月9日
アジャイル・ガバナンスとは?Society5.0の時代に求められる企業の役割を解説。
AIやビックデータなどのサイバー空間とリアルであるフィジカル空間を高度に融合させたシステムで経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を目指した「Society5.0」が我が国の目指すべき姿として提唱されています。
コロナウイルスの蔓延によって、あらゆるデジタル化が進み、既存のルールや制度を問い直す時代が到来しました。そのため、経済産業省は2021年7月、コーポレーションガバナンス、法規制、社会規範といった様々なガバナンスのデザインを示した合計121ページの「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2: アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」を発表しました。
なにしろページ数が多く読了が大変ですので本記事では、端的にアジャイルガバナンスに知りたい方に向け解説します。
アジャイル・ガバナンスとは
アジャイル・ガバナンスの定義
アジャイル・ガバナンスとは、周囲の環境変化を踏まえてゴールやシステムをアップデートしていくガバナンスモデルです。
報告書では、政府、企業、個人・コミュニティといった様々なステーク ホルダーが、自らの置かれた社会的状況を継続的に分析し、目指すゴー ルを設定した上で、それを実現するためのシステムや法規制、市場、インフラといった様々なガバナンスシステムをデザインし、その結果を対話に 基づき継続的に評価し改善していくモデルと定義されています。
これからの世界になぜアジャイル・ガバナンスガバメントが求められているか
なぜ今アジャイル・ガバナンスが求められているのでしょうか。そのヒントは「society 5.0」というキーワードにあります。
society 5.0とは
2021年現在、日本ではサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を「Society 5.0」と名付け、その実現に取り組んでいます。
Society5.0を実現していくためには、サイバー空間とフィジカル空間を組み合わせたシステム(CPS:サイバー・フィジカルシステム)の社会実装を進めつつ、その適切なガバナンスを確保することが求められます。
しかし、CPSの社会実装は、プライバシーやシステムの安全性、透明性、責任の分配など課題が多くあり、こうした課題の解決には、既存の制度枠組みの中で行うのではなく、企業、法規制、市場といった既存のガバナンスメカニズムを根本的に見直す必要があるとされています。
そのため、ガバナンスメカニズムを再設計し、見直し改善していく「アジャイル・ガバナンス」という考え方が重要になっているのです。
CPS(サイバー・フィジカルシステム)の特徴
サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合する多様かつ複雑なシステムであるCPS。一体どのよう性質をもつのでしょうか。
そちらを具体的に表した図が報告書内にあるので、ご紹介します。
出典:経済産業省 「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2:アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」報告書
こちらの図からCPAを基盤とし、society5.0が成立すると、より広範囲なデータの生成や、AIを用いた高度な分析が可能になったり、様々なサービスが国境や業種の境を超えて拡張するなど、これまでには実現できなかった営みを生み出す可能性があることがわかります。
Society5.0実現後の課題
CPSの基盤が整備され、society5.0が実現することで、世の中には大きなメリットがある一方、考慮すべき課題もあります。
以下に、society4.0以前とsociety5.0以降の変化について、全章で引用した「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2: アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」から再び以下の図を紹介いたします。
出典:経済産業省 「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2:アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」報告書
こちらの図からわかるのは、全章で述べたとおり「取得できるデータが広範囲になる」等のメリットがある一方、、結果の予見・統制の困難性、責任主体の特定が困難になり、コントロール不可能な事柄が大きい世の中になる可能性があることがわかります。
そのため、CPSの基盤整備並びにsociety5.0が実現した暁には「予め一定のルールや手順を設定しておき、それに従うことでガバナンスの目的が達成される」という現在のガバナンスモデルでは困難に直面することになります。
具体的には、「基本的人権」、「公正競争」といった一定の「ゴール」を定めた上で、ステークホルダー間で共有、その実現に向けて、各主体が柔軟にシステムを設計・運用・評価していくことが求められています。
アジャイル・ガバナンスの考え方
Society5.0の社会ではCPSの形態が急速に変化し、予想困難かつ統制困難なものへと変わっていきます。そのため、一定の「ゴール」を共有し、柔軟かつ臨機応変なガバナンスを行っていくいわゆる「アジャイル・ガバナンス」の考え方が重要になっていきます。
ここからは、「アジャイル・ガバナンス」を行っていく上で検討すべき点、考え方について項目別に説明していきます。
環境分析・リスク分析
Society5.0のシステムでは、ルールや市場の変化など常に変化する周辺環境の影響を受けることになります。そのため、常にそうした外部環境及びその変化と、これに基づくリスク状況を分析し続ける必要があります。
ゴール設定
そんな環境の変化に応じて、目指すゴールも常に変化していきます。そのため、外部環境の変化に応じたゴールの見直しを常に意識する必要があるでしょう。
しかし、外部環境が変わったからといって必ずしもゴールが変わるわけではありません。
ガバナンスシステムのデザイン
設定されたゴールに基いて、ガバナンスシステムのデザインを行います。
ここでの「システムデザイン」とは、技術的なシステムだけではなく、組織のシステムやこれに適用されるルールのデザインを含みます。
そのデザインには、①透明性とアカウンタビリティ②適切な質と量の選択肢の確保③ステークホルダーの参加④インクルーシブネス⑤責任分配⑥救済手段の確保といった基本原則を満たすことが重要となります。
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ガバナンスシステムの運用
システム運用の状況について、リアルタイムデータ等を使ってモニタリングしていくことが求められます。また、影響を受けるステークホルダーに対して、自らのシステムのゴール、それを達成するためのシステムのデザイン、そこから生じるリスク、運用体制、結果、救済措置について、適切な開示をすることが不可欠です。
こうした運用の過程・結果を踏まえ、以下の評価・分析を実施しましょう。
ガバナンスシステムの評価
ガバナンスの主体は、当初設定されたゴールが達成されているかを評価しましょう。設定したゴールが達成されていなければ、再度システムデザインを行いましょう。
環境・リスクの再分析
外部システムからの影響によって、ガバナンスのゴール自体を見直さなければなりません。ガバナンスシステムの置かれた環境やリスク状況に変化があるか、これによってゴールを変更するかを継続的に分析しましょう。
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PDCAとの違いとは
PDCA(Plan-Do-Check-Act)の概念とはどのように異なるのでしょうか。アジャイル・ガバナンスのサイクルを比較していくと、Planは「システムデザイン」に、Doは「運用」に、Checkは「評価」に、Actは「改善」(システムのアップデート)に概ね想定します。
PDCAは一度決めたプランを守っていくことが前提にあります。
アジャイル・ガバナンス・サイクルは、Planの土台となる環境やゴールについても常にアップデートを続けながら、対外的に透明性を持ってアカウンタビリティを果たしていくモデルです。
マルチステークホルダーによるアジャイル・ガバナンス
これからは、政府だけではなく、企業や個人を含めたそれぞれがガバナンスの担い手となり、他のステークホルダーも参加していく時代です。
そのためアジャイル・ガバナンスでは下記の図のように、ガバナンスメカニズムが折り重なり、相互に影響し合うことで成立します。
出典:経済産業省 「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2:アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」報告書
このように様々なガバナンスモデルが相互に関連していく中で、社会においてゴールを達成していくためには、「どの部分をどのガバナンスメカニズム(層)によってガバナンスしていくか」というガバナンスのガバナンスが必要になります。
企業が行っていくべきアジャイル・ガバナンスとは
「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2: アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」では、Society5.0におけるCPSの主体となるのは企業だとされています。そのため企業は従来の「垂直的」統治モデルの下で政府によるガバナンスの対象としてではなく、「水平的な」統治モデル(共同規制)の下で、ガバナンスの一翼を担う主体としての役割が期待されます。
出典:経済産業省 「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2:アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」報告書
ゴール設定に関する企業の役割
ゴールは技術と切り離して存在できず、その時々の技術を前提としてその具体的な内容が議論されるようになっています。この技術を提供するのは企業であるため、自らの技術やサービスがユーザーをはじめとしたステークホルダーに対してどのような正のインパクトを与え、また、そこから生じるリスクを管理していくかが、ゴールを設定する上で重要になります。
事業者と消費者の取引を仲介するプラットフォームの運営者の場合におけるゴール設定では、以下のような例が考えられるでしょう。
①事業者(B)と消費者(C)の最適なマッチングを通じた取引コストの低減及び両者の利益の最大化
②プラットフォーム上で取引を行う企業(B)間の公正な競争環境の確保
③プラットフォーム事業者(P)と事業者(B)の間の取引条件の公正性と 透明性の維持
④消費者(C)のプライバシー保護
⑤運営者(P)や事業者(B)によりもたらされるリスクからの消費者の保護
⑥事業者(B)と消費者(C)の間の紛争の迅速かつ公正な解決
システムデザインにおける企業の役割
設定されたゴールについて、企業は、具体的にどのような技術的・組織的手法によってそれを実現するかをデザインします。
ゴールで挙げた例では、以下のようなシステムのデザインが求められるでしょう。
運用における企業の役割
実装されたシステムの利用者ないし提供者として、企業はその運用やモニタリングを行う必要があるとされています。
モニタリングに活用することのできる技術は、急速に進化しています。センサーやカメラ等のデバイスにより、リアルタイムに情報を取得できるようになってきています。こうしたリアルタイムデータを活用することで、リスク状況やゴールの達成状況を随時判断することが可能になります。
評価・改善における企業の役割
アジャイル・ガバナンスの下では、ゴールがガバナンスシステムによって実現されているか、見直しが必要かどうかを継続的に評価を行い、見直しを図る必要があります。
そのため、企業はガバナンスシステムの提供者または利用者として運用状況や実効性について意見を述べたり、製品・サービスの提供やプラットフォームの運用を通じて収集した情報を提供することが期待されます。
問題を認知した時には、事実確認、原因分析を行い、再発防止策の策定、実行、その結果を監督当局等に報告したりすることによって、関連するガバナンスシステムに関与することが期待されます。
まとめ
従来と比べて、価値観が大きく変わってきました。顧客や株主のためのゴール設計では社会には受け入れられません。政府、企業、個人・コミュニティといった様々なステークホルダーが変化を続ける「ゴール」を常に見直し、それを達成するガバナンスのあり方を検討していく必要があるでしょう。