ノウハウ 一方的な賞与(ボーナス)減額や不支給は違法?法律上の賞与の位置づけとは?
更新日:2024年10月31日
投稿日:2021年12月2日
一方的な賞与(ボーナス)減額や不支給は違法?法律上の賞与の位置づけとは?
朝晩、だいぶ冷え込む日が増えてきました。気が付けば12月が近き、今年ももうすぐ終わりとなります。クリスマスや年末年始の休暇など、楽しみなイベントも多い12月ですが、企業で働く人にとってもう1つの大きな楽しみは、冬の賞与(ボーナス)ではないでしょうか。
一方で、新型コロナウィルスの世界的な流行は経済面にも大きな影を落としていることも事実です。昨今では大企業が業績悪化を理由に、従業員の賞与(ボーナス)を不支給とするニュースも耳にするようになりました。企業側が業績の悪化を理由に賞与(ボーナス)の減額や不支給を決定することは、法的に問題はないのでしょうか?
本記事では、法律上の賞与(ボーナス)の位置づけや企業が従業員の賞与(ボーナス)の減額・不支給を決定する際の注意点について解説します。
賞与(ボーナス)の法律上の位置づけとは?
賞与(ボーナス)の減額や不支給が違法になるのかどうかを考える前に、法律上では賞与(ボーナス)はどのように位置づけられているのかを確認します。
労働基準法、厚生年金保険法、健康保険法の3つの法律における賞与(ボーナス)の定義について解説していきます。
労働基準法における賞与(ボーナス)の定義
労働基準法とは、労働者がはたらく上での労働条件の最低基準を定めた法律です。
昭和22年9月13日の発基17号では、「賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであつて、その支給額が予め確定されてゐないものを云ふこと。定期的に支給され、且その支給額が確定してゐるものは、名称の如何にかゝはらず、これを賞与とはみなさないこと。」と示されています。
賞与(ボーナス)は定期的または臨時的に、労働者の成績によって支給されるものであり、その支給額は予め定められていないものであると解釈することができます。
労働基準法の第11条では「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と示されており、賞与(ボーナス)は賃金の一種であり、労働の対価であるという位置づけになっています。
参照:労働基準法
厚生年金保険法・健康保険法における賞与(ボーナス)の定義
次に厚生年金保険法や健康保険法における賞与の定義について見ていきましょう。
厚生年金保険法の第3条4項では「賞与 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう。」という条文が示されています。
参照:厚生年金保険法
また、健康保険法第3条6項では「この法律において「賞与」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう。」と示されています。
厚生年金保険法と健康保険法上では、賞与(ボーナス)は3か月を超える期間ごとに受け取る労働の対価という位置づけとなっています。
参照:健康保険法
賞与(ボーナス)の支給は労働契約上の決まりに基づくもの
労働基準法や厚生年金保険法、健康保険法の中では、賞与(ボーナス)は労働の対価という位置づけになっています。企業が従業員に賞与(ボーナス)を支給を義務付けるような法律上の定めはありません。
一方で企業と労働者の間で締結する労働契約や社内で定める就業規則や賃金規定などにおいて、従業員に賞与(ボーナス)を支給することを明確に示しているような場合には、企業は従業員に対して、賞与(ボーナス)の支払い義務を負うこととなります。
賞与(ボーナス)の支給は従業員との労働契約上の決まりに基づき支給されるものです。
賞与(ボーナス)を減額・不支給とすることは違法なのか?
新型コロナウィルスの感染拡大による打撃を受けて、業種・業界によっては今冬の賞与(ボーナス)の不支給や減額を決定した企業があるとの報道もされています。
企業の業績の悪化を理由に、賞与(ボーナス)の減額や不支給とすることは、違法行為に当たるのでしょうか。
賞与(ボーナス)の減額・不支給は原則、違法ではない
法律において、企業側が賞与(ボーナス)を必ず支給しなければならないとは定められていません。従って、賞与(ボーナス)の減額を行ったり、支給をしなかったりといった行為が違法となることは原則としてありません。
一方で、労働者と締結した労働契約や社内の就業規則等の規定で定めている賞与(ボーナス)の支給要件の内容によって、賞与(ボーナス)の減額や不支給が問題となりにくいケースといケースの2つのパターンが出てきます。
業績不振による賞与(ボーナス)の減額・不支給が問題となりにくいケース
労働契約や就業規則、賃金規程などにおいて、賞与(ボーナス)の支給やその支給額について明確に定めていない場合は、企業側の裁量が大きく認められる内容であると考えることができます。各企業のこれまでの慣行等も重要な要素となりますが、このような場合は、業績悪化などの企業の経営状況等を理由に賞与(ボーナス)を減額・不支給とした場合でも問題とはなりにくいケースと考えられます。
業績不振による賞与(ボーナス)の減額・不支給が問題となりやすいケース
労働契約や就業規則、賃金規定などにおいて賞与(ボーナス)の支給を確約し、その支給額や支給条件も明確に示している場合は、原則として企業側は賞与(ボーナス)の支払い義務を負うこととなります。
賞与(ボーナス)の減額・不支給を事前告知・通知する義務はある?
従業員のなかには、冬に賞与(ボーナス)が支給されることを前提に考えて、賞与(ボーナス)時に住宅ローンや自動車ローンの支払金額を大きな額に設定しているケースもあるでしょう。
このような場合、賞与(ボーナス)の大幅な減額又は不支給が決定すると従業員の生活に大きな影響を与えることとなります。仮に賞与(ボーナス)の減額・不支給が認められる場合でも、減額・不支給を行う場合、企業として従業員に事前に告知や通知を行う義務はあるのでしょうか。
法律上は事前告知・通知の義務はない
法律においては、賞与(ボーナス)の支払い義務も定められていないため、賞与(ボーナス)の減額・不支給についても従業員に事前に告知や通知をするような義務も定められてはいません。
一方で労働契約や就業規則等の社内規程において、賞与(ボーナス)を減額または不支給とする場合に事前に従業員への告知や通知を行うことが規定されている場合は、事前告知・通知を行う義務を負うこととなります。
従業員の立場から考えた対応が必要
法律上は賞与(ボーナス)の減額・不支給について事前の告知や通知を行う義務はないといえど、働く従業員の立場から考えた対応も企業としては必要になります。賞与(ボーナス)の使い道をすでに想定しているような場合や賞与(ボーナス)の支給を楽しみにしている従業員にとって、賞与(ボーナス)の支給当日に賞与(ボーナス)が不支給・減額になることなどを知った場合、企業に対して不信感を抱く従業員がでる可能性があります。
企業の業績についての報告がなされ、その結果として賞与(ボーナス)の減額・不支給が生じることについての事前説明を受けていれば、従業員としても賞与(ボーナス)の減額や不支給について受け入れる可能性はあります。
一方で、支給当日になって初めて、賞与(ボーナス)が減額されたことや支給されないことを知った場合は、企業に対する信頼を失ってしまう可能性があります。賞与(ボーナス)の減額・不支給を行う場合には、事前告知や通知の義務の有無に関わらず、予め従業員にその旨の告知や通知を行う方が望ましいとはいえます。
賞与(ボーナス)を減額・不支給した場合の企業の対策とは?
社内規程や労働契約において賞与(ボーナス)の支払いの明記がない場合は、賞与(ボーナス)の減額や不支給は法的に問題にならないケースが多いと考えられます(ただし、社内規程等に明記がなくても企業のこれまでの慣行等によって問題となることはあり得ます。)。一方で、賞与(ボーナス)の減額や不支給が決定された場合は、生活に支障がでるなど従業員に与える影響が大きいといえます。
賞与(ボーナス)が持つ意味合いとは
賞与(ボーナス)は従業員の働きを評価して、その頑張りに対する対価として支払われる恩給的な意味合いが強いものが多いです。従業員は賞与(ボーナス)を得ることによって企業に対する自分の貢献度合いを知り、毎月支払われる給与とは違う特別な意味合いを持つものとして賞与(ボーナス)を捉える傾向があります。
また、賞与(ボーナス)には、月給だけでは不足する出費を補うための資金として使用される側面もあります。住宅や自動車ローンの返済に充てる場合はもちろん、大きな額の買い物をボーナス払いで支払う設定にするなど、賞与(ボーナス)の支給を前提とした資金計画を立てているケースもあるでしょう。
賞与(ボーナス)は、従業員にとって特別感のある一時金であり、賞与(ボーナス)を受け取ることによって自分の貢献度を知り、仕事へのモチベーションを高めるきっかけともなり得るものです。場合によってには会社への信頼が薄れ、転職を検討する従業員が出てくる可能性もあります。
賞与(ボーナス)の減額・不支給を決定する場合に注意したいこと
企業の業績の良し悪しについて、実際に企業で働く従業員は、肌で感じ取っている場合も多くありますが、財務関係の職に就いていない限り、企業の経営状況について詳しく知ることは難しいことも多いです。
従業員が企業の業績が芳しくないと実感している場合も、賞与(ボーナス)の支給については少なからず期待を抱き、当たり前のように支給されると思っている社員も多いと思います。
企業は、従業員の期待に応えるためにできる限り賞与(ボーナス)の支給を行うことが大事ですが、業績の大幅悪化などの理由で賞与(ボーナス)を不支給・減額を決定する場合もあるでしょう。
そのような場合には、賞与(ボーナス)の減額や不支給を決定するだけでなく、企業の業績が回復した場合に賞与(ボーナス)の支給を再開する、支給額を元に戻すなどのメッセージを従業員に伝える必要があります。
また、従業員にも、賞与(ボーナス)の減額・不支給は、業績の大幅悪化など経営上のやむを得ない判断で決断したものであることを伝えることは、従業員の賞与(ボーナス)減額・不支給に対する理解を得るためにも大切なことです。
賞与の不支給・減額を決定したその後の対応が、従業員からの企業への信頼につながります。
まとめ
本記事では、一方的な賞与(ボーナス)の不支給や減額は違法となり得るか否か、法律上の賞与の位置づけについて解説してきました。
法律上は、企業は賞与を必ず支給する必要があるなど明記されてはいません。そのため、業績不振などの企業の経営状態を理由に従業員の賞与(ボーナス)を減額・不支給を決定することが違法とはならないケースもあります。また法律上、賞与(ボーナス)の減額・不支給を通知する必要があるということも明記されていません。
一方で企業と労働者の間で締結する労働契約や社内で定める就業規則や賃金規程などにおいて、従業員に賞与(ボーナス)を支給することを明確に示しているような場合には、原則として企業は従業員に対して、賞与(ボーナス)の支払い義務を負うこととなります。
従業員は賞与(ボーナス)は企業への貢献度を評価され、自分が頑張ったことの対価として与えられる特別な一時金として捉えられる傾向にあります。賞与(ボーナス)の不支給や減額が従業員に与える影響は大きいものです。
経営上の理由で賞与(ボーナス)の減額・不支給を決定する場合は、従業員のモチベーションに配慮して事前に通知することが大切です。
経営状態が回復した場合は、支給水準を回復されるといった意思を伝えることが企業への信頼へ繋がります。