ノウハウ オンプレミス型とクラウド型との違いを分かりやすく解説。気になるデメリットとは
更新日:2025年04月22日
投稿日:2021年11月29日
オンプレミス型とクラウド型との違いを分かりやすく解説。気になるデメリットとは

オンプレミスとクラウドは、業務システムの導入における代表的な2つの選択肢です。それぞれに違いがあり、導入コストや運用管理、カスタマイズ性、セキュリティの面でメリットとデメリットが明確に分かれます。
本記事では、オンプレミスとクラウドの特性をわかりやすく整理し、システム導入時における比較のポイントを詳しく解説。導入形態の選択に迷う企業に向けて、より最適な判断を導くための視点を提供します。
オンプレミスかクラウドか
業務システムの導入にあたって、最初に検討するポイントが「オンプレミス型」と「クラウド型」の2つの運用形態の選択です。従来は自社にサーバー機器やネットワーク機器などを導入し、オンプレミス環境でITインフラを運用するのが常識でした。しかし、近年はデジタル技術や情報通信技術の発展に伴って、クラウドサービスの市場も加速度的に成長しており、クラウドファーストやクラウドネイティブという概念が浸透しつつあります。
多くの企業が自社の業務システムをクラウド環境へ移行しており、もはやオンプレミス型は時代遅れと揶揄する声もあります。しかし、オンプレミス型にはクラウド型にはない特有のメリットがあるため、必ずしも時代遅れとは言えません。例えば、自由度やカスタマイズ性といった観点ではオンプレミス型に優位性があります。そのため、基幹系システムや情報系システムの導入を検討する際に、どちらを選択するか悩む企業も少なくないでしょう。
システムを導入する上で重要なのは、自社の事業形態や組織体制に適したソリューションを選定することです。単純にオンプレミス型かクラウド型かという形態で比較するのではなく、それぞれの特徴を把握した上でメリットとデメリットを分析し、自社に適した製品やサービスを選ばなくてはなりません。そこで、まずはそれぞれの特徴や機能など、基本的な概要について見ていきましょう。
オンプレミス型とは?
「オンプレミス型」とは、自社の管理施設にサーバー機器やネットワーク機器といったハードウェアを導入し、システムを構築する形態を指します。「Premises」は「建物と敷地」といった意味合いを持つ言葉であり、そこから派生して自社でシステムを構築・運用する形態を「On-Premses」と呼称するようになりました。いわゆる「自社運用」と呼ばれるシステム環境です。
最大の特徴は、独自のシステム要件を満たせる自由度とカスタマイズ性の高さです。ハードウェアやミドルウェア、ソフトウェアなどを自社で選定・調達してITインフラを整備するため、自社独自の要件に最適化されたシステム環境を構築できます。自社に合った機能を柔軟に追加・変更できる点は、クラウド型にはない大きな魅力です。
しかし、オンプレミス型の導入には、ハードウェアやソフトウェアなどの導入費用など、莫大なコストと時間を必要とします。たとえば、基幹業務を統合管理するERPシステムを構築する場合、数千万円から数億円の初期投資に加え、年単位の開発期間が必要となるケースもあります。もちろんシステムの規模や機能によって大きく異なりますが、ITインフラの保守・運用管理における継続的なランニングコストも必要です。このように、大規模かつ高度なシステム環境を構築するためには、相応の資金力が求められます。

クラウド型とは?
クラウド型とは、コンピュータネットワークを経由して提供されるサービスを利用する形態です。サーバーやストレージ、ソフトウェアやアプリケーションなどをはじめとする、さまざまなITリソースをインターネット経由で利用するサービス形態を「クラウドコンピューティングサービス」と呼びます。代表的なものに、「Google Cloud」があります。
最大のメリットは、ITインフラを自社で保有する必要がなく費用が抑えられる点です。先述したERPシステムの開発を例に挙げると、オンプレミス型の場合はサーバー機器やネットワーク機器などのITインフラを構築し、さらにライセンスコストや導入コスト、アドオン開発コストといったコストを要します。一方、クラウド環境にERPシステムを構築する場合、ライセンスコストや導入コストなどは必要ですが、ITインフラを自社内で構築する必要がないため、その分のコストと開発期間を大幅に削減可能です。
また、システムの運用に大規模なITインフラを必要としないため、システム管理部門の保守・運用管理における業務負担が軽減され、人的リソースの最適化とそれに伴う人件費の削減につながるというメリットがあります。しかし先述のように、クラウド型はサービス事業者が提供するリソースを利用する形態のため、オンプレミス型と比較すると自由度やカスタマイズ性が劣ります。そのため、自社のシステム要件を必ずしも満たせるとは限らない点がデメリットです。

クラウドシステムの種類
クラウドシステムにはさまざまなタイプがあり、「クラウドをどのように使うか」と「どこまでの機能や環境が提供されるか」という2つの視点から分類できます。
それぞれの違いを理解することで、自社に適したクラウドの活用方法をより具体的に検討しやすくなります。
なお、実際のクラウドサービスは、これらの分類が組み合わさって提供されることが一般的です。
例えば、Google Workspace は「パブリッククラウド」かつ「SaaS(Software as a Service)」に分類されます。
このような組み合わせも踏まえながら、以下の分類を見ていきましょう。
クラウドの使い方のスタイルによる分類
クラウドサービスが、どの部分まで機能や環境を提供するのかによって、次の3つに分けられます。
- パブリッククラウド
- プライベートクラウド
- ハイブリッドクラウド
パブリッククラウド
パブリッククラウドはインターネット経由で不特定多数のユーザーに提供されるクラウドサービスです。コストを抑えやすく、導入もスムーズですが、セキュリティやカスタマイズには一定の制約があります。
Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどが代表例です。
プライベートクラウド
プライベートクラウドは特定の企業・団体の専用環境で構築されたクラウドです。自社内や外部の専用環境に構築されるためセキュリティ性が高く、柔軟なカスタマイズが可能です。
金融機関や医療機関など、厳格なセキュリティ要件が求められる分野でよく利用されます。
ハイブリッドクラウド
オンプレミス環境とクラウド、あるいは複数のクラウドを組み合わせて活用する形態です。例えば、機密性の高いデータは自社環境に保管し、業務効率を重視する作業はクラウド上で行うなど、用途に応じた柔軟な使い分けが可能です。
提供されるサービスの範囲による分類
クラウドサービスがどの部分まで機能や環境を提供するのかによって、次の3つに分けられます。
- SaaS(サース:Software as a Service)
- PaaS(パース:Platform as a Service)
- IaaS(イアース:Infrastructure as a Service)
SaaS
SaaSはソフトウェアがインターネット経由で提供され、ユーザーはアプリケーションをそのまま利用できる形態です。
インストール不要で手軽に使えるため、ITに詳しくない従業員でも導入・運用がしやすいのが特徴です。
PaaS
PaaSはアプリケーションの開発や実行に必要なプラットフォーム(OSなど)を提供する形態です。ユーザーはインフラの管理を気にせず、開発に集中できます。スピード感のあるアプリ開発を求める企業に適しています。
IaaS
IaaSはサーバーやストレージなど、インフラ環境がインターネット経由で提供される形態です。OSやアプリケーションのインストール・設定などはユーザー自身が行います。
自由度が高く、開発環境や業務システムの基盤として活用されています。
オンプレミスとクラウドの違い
オンプレミスとクラウドの大きな違いは、自社でサーバーやネットワーク機器を用意する必要があるかどうかにあります。
オンプレミスは、自社内にサーバーやネットワーク機器を設置・運用する方式で、システムのカスタマイズやセキュリティ対策を自社で細かく管理できる点が特徴です。
一方、クラウドはサービス事業者が提供するインフラをインターネット経由で利用する形態で、初期費用を抑えやすく、導入や運用の手間が少ないことがメリットです。
オンプレミスのメリット
オンプレミスは、自社内にシステムを構築・運用する方式であり、企業ごとの要件や方針に応じた柔軟な対応が可能です。
特に、自社の業務に合ったシステムを構築したい企業や、運用を自分たちで細かく管理したい企業、そして安定性を重視する企業にとって、多くのメリットがあります。
カスタマイズしやすい
オンプレミスでは、サーバーやネットワークの選定から構築までを自社で行うため、業務内容やニーズに応じてシステムを柔軟に設計・変更できます。自社独自の業務フローやルールに対応した開発が可能なため、細部まで最適化された環境を構築できる点が大きなメリットです。
さらに、既存の業務ツールとの連携もしやすく、将来的な拡張や安定した運用にも適しています。専属のエンジニアがいれば、状況に応じた仕様変更にも迅速に対応できるため、社内体制との親和性も高まります。
高いセキュリティ性
オンプレミスではクラウドサービスのように常時インターネットに接続する必要がないため、外部からのアクセスを制限しやすく、情報漏洩やサイバー攻撃に対して独自の対策を講じることができます。
さらに、自社でサーバーやデータベースを管理し、自社のセキュリティポリシーに沿って細かい管理や監視を行えるため、特に個人情報や機密情報を扱う業種にとっては、高い安全性と安心感を得られる運用環境となります。
通信の安定性
オンプレミスでは社内ネットワークを利用するため、外部インターネットの混雑や障害の影響を受けにくく、通信速度の速さと高い可用性(システムが安定して稼働し続ける能力)を維持できます。
大量のデータを扱う業務やリアルタイム性が求められるシーンにおいても安定した応答が可能であり、システムのパフォーマンスを重視する企業にとっては大きなメリットとなります。
オンプレミスのデメリット
一方で、オンプレミスには初期投資や運用面での負担など、導入・維持にかかるさまざまな課題も存在します。以下に、代表的なデメリットを挙げます。
初期費用が高い
オンプレミスでは、サーバーやストレージ、ネットワーク機器などのハードウェア購入に加え、それらを設置・構築するための人件費や工事費も必要になるため、初期投資が大きくなりがちです。
さらに、事業の拡大に伴ってネットワーク環境の見直しや最適化が必要となるため、ソフトウェアのライセンス費用や機器の更新費用も発生します。これらに加えて、定期的なメンテナンスや障害対応にかかる費用もすべて自社で負担する必要があり、ランニングコストも高くなりやすい点がデメリットと言えます。
構築・運用・保守の手間や時間がかかる
オンプレミスはカスタマイズ性に優れている反面、サーバーやネットワーク機器などを自社で調達・設置しなければならず、システムの運用を開始するまでに多くの手間と時間がかかります。特に、要件が複雑になりやすい企業では、設計段階から十分な検討が必要となります。
また、システムの構築だけでなく、日々の運用、障害発生時の対応、定期的なアップデートやセキュリティ対策などもすべて自社で担う必要があります。これには専門的な知識を持つIT人材が不可欠であり、人的リソースや時間的コストが大きくなる点もデメリットです。
災害時のリスクが大きい
オンプレミスでは、自社で保有するサーバーや機器が建物内に設置されているため、地震・火災・水害などの自然災害により被害を受けるリスクがあります。万が一の場合、データの損失や業務の停止といった重大な影響を受ける可能性が高くなります。
災害に備えて、バックアップの取得や迅速な復旧体制を整備する必要がありますが、これらの対策もすべて自社で行わなければなりません。もちろん、災害に強いインフラ環境を構築することも可能ですが、それには多くのコストがかかります。
クラウドシステムのメリット
クラウドサービスは、インターネット環境さえあれば場所を問わず利用できる利便性の高さが特徴です。
ここでは、クラウドを導入することで得られる主なメリットを紹介します。
導入にかかる費用を抑えられる
クラウドシステムでは、サービス事業者が提供するサーバーやネットワークを利用するため、自社でハードウェアを購入する必要がありません。多くの場合、サブスクリプション型や従量課金制で提供されており、初期費用を大幅に抑えることができます。
また、必要な機能に応じて料金が発生する仕組みのため、無駄なコストをかけずに運用しやすく、クラウドシステムの導入が初めての企業でも安心して利用を開始できます。
導入・運用の負担が小さい
システムの契約が完了すれば、企業は自社で構築作業を行うことなく、すぐに利用を開始できます。
特にIT人材が不足している企業にとっては、システム運用をスムーズに進められる点が大きな利点です。
また、専門的な知識がなくても扱いやすいため、スピーディに業務へ導入できます。すぐにシステムを活用できることは、業務改善に早期に着手できることにもつながります。
BCP対応しやすい
クラウドサービスは複数の地域に分散されたデータセンターを活用しており、万が一災害が発生しても、他拠点のバックアップにより迅速な復旧が可能です。自社で災害復旧の仕組みをすべて整備しなくても、BCP(事業継続計画)に対応しやすい環境が整っているのが特長です。
クラウドシステムのデメリット
一方で、クラウドにはオンプレミスにはない注意点や制約もあります。
導入を検討する際には、以下のようなデメリットも理解しておくことが大切です。
カスタマイズに限りがある
クラウドシステムは、サービス事業者が提供する機能や構成に基づいて利用するため、自社の細かなニーズや特殊な業務要件に対応しきれない場合があります。
また、既存システムや独自開発したシステムとの連携ができない、あるいは設定が複雑になることもあるため、導入前には十分な検証が必要です。
セキュリティ対策はサービス提供者に依存する
クラウドシステムでは、セキュリティ対策や運用管理もサービス提供者に委ねる形となります。
例えば、サイバー攻撃による情報漏洩やシステム障害が発生した場合も、基本的には事業者側が対応するため、自社で状況を詳細に把握したり、直接コントロールしたりするのは難しいケースがあります。
そのため、クラウドサービスを導入する際には、提供元のセキュリティ体制や認証の有無(ISO 27001など)をしっかり確認することが不可欠です。特に、機密性の高い情報を扱う業務においては、信頼性の高い事業者を選定し、自社のセキュリティポリシーに合った運用が求められます。
システム障害時は使用できない
クラウドサービスでは、障害やメンテナンスが発生した際の対応はサービス提供者が行うため、ユーザー側で即座に復旧することはできません。その影響で、一時的にシステムへアクセスできなくなる場合があります。
このようなトラブルは、業務の停止や遅延を引き起こすリスクがあります。万が一に備えて、代替手段の用意や、アクセス不能時の対応策をあらかじめ整えておくことが、ビジネスへの影響を最小限に抑えるポイントとなります。
オンプレミスとクラウドの比較表
オンプレミス | クラウド | |
導入コスト | 高い | 低い |
利用開始までの時間 | 長い | 短い |
運用・保守 | 自社で対応 | サービス提供者が対応 |
カスタマイズ性 | 要件に応じて自由に構築可能 | 提供範囲内での利用 |
拡張性 | 機器追加などに時間がかかる | 容易にスケールアップ可能 |
セキュリティ | 自社で管理しやすい | 提供者の対策に依存 |
災害対策 | 自社で対応が必要 | データセンターで対応、BCP対策しやすい |
オンプレミス型 VS クラウド型 セキュリティ面で比較ならどちら?
それぞれの特徴を端的に表すなら、オンプレミス型は「必要な機能を100%実装できるものの高額」で、クラウド型は「コストパフォーマンスに優れるものの要件を満たせない可能性がある」と言えます。
このようにオンプレミス型とクラウド型はそれぞれ異なる特徴を持ち、特有のメリットとデメリットがあるため、どちらが優れているとは一概に断定できません。そこで、ここからはセキュリティの観点に主眼を置いた上で、オンプレミス型とクラウド型のメリットやデメリットを比較します。
【関連記事】オンプレミス型とは?セキュリティに特化してクラウド型と比較
厳格なセキュリティ設定をするなら?
オンプレミス型は独自の機能要件を搭載するアドオン開発が可能なため、クラウド型よりも堅牢かつ強固なセキュリティ環境を構築できます。厳格なセキュリティ機能を求めるのなら、企業独自のセキュリティ要件を満たすシステムを設計しなくてはなりません。システムを自社で設計・開発・運用するオンプレミス型は独自のセキュリティ要件やセキュリティポリシーを設定可能です。そのため、自社のセキュリティポリシー次第で、いくらでも厳格なセキュリティ体制を構築できます。
一方でクラウド型の場合は、サービス事業が提供するソリューションのセキュリティポリシーに準じざるを得ず、自社のセキュリティ要件を満たせるとは限りません。特にパブリック型のクラウドサービスは、ユーザーがクラウド環境のリソースを共有するという特性上、セキュリティの脆弱性が懸念されます。もちろん、クラウドサービスのセキュリティも年々向上しているものの、機密度の高い情報を取り扱うシステムであれば、オンプレミス型による設計が適していると言えます。
近年はクラウドサービスの利用を優先的に考える「クラウドファースト」という概念が広く浸透しており、多くの企業が自社のシステムをクラウド環境へと移行しています。しかし、クラウドサービスはセキュリティの脆弱性を懸念する声も多く、クラウド移行を検討しつつも踏み切れない企業が少なくありません。先述したように、オンプレミス型を時代遅れと揶揄する声もあるものの、独自のセキュリティポリシーによって堅牢なシステム環境を構築できるという特性はクラウド型にはない特有のメリットと言えるのです。
【オンプレミス型】
・企業独自の強固なセキュリティ環境を設計できる
・独自のセキュリティ要件を設定できる
【クラウド型】
・特にパブリック型のクラウドサービスは、ユーザーがクラウド環境のリソースを共有するためセキュリティの脆弱性が懸念点
情報流出のリスクが低いのは?
セキュリティインシデント発生のリスクという観点から見ても、優れているのはオンプレミス型です。自社に構築されたITインフラを運用するオンプレミス型は、基本的にローカルネットワーク環境でシステムを運用するため、常時インターネット接続されているクラウド型と比較して、情報の流出や漏えいといったセキュリティインシデントのリスクが大幅に軽減されます。
例えば、ファイルサーバーをクラウド環境へ移行した場合を考えてみましょう。ファイルサーバーとは、LANやWANなどのネットワーク上でファイルを保管・共有するためのシステムであり、企業ではファイル共有基盤やデータバックアップ基盤として用いられるシステムです。このファイルサーバーには従業員の個人情報や顧客情報、または契約書や決算書などの機密情報が保管されています。オンプレミス環境であれば、外部ネットワークから遮断された環境で機密度の高いファイルを保管可能なため、セキュリティインシデントのリスクを最小限に抑えられます。
一方、クラウド型のファイルサーバーは基本的にオンライン環境でしか利用できず、常に不正アクセスやマルウェアといったサイバー攻撃の脅威に晒されています。もちろんオンプレミス環境であっても、「Emotet」のような不正メールを介して社内ネットワークに侵入を許してしまう可能性は否定できません。しかし、ローカルネットワーク環境で運用可能なオンプレミス型と、常時インターネット接続されているクラウド型では、情報の流出や漏えいといったセキュリティリスクが低いのはオンプレミス型と言えるでしょう。
【オンプレミス型】
・ローカルネットワーク環境で運用可能なためセキュリティインシデントのリスクが低い
【クラウド型】
・常時インターネット接続されているため、セキュリティインシデントのリスクは高い
クラウド契約サービス機能比較|安全性やメリットデメリットは?
高度セキュリティ人材が求められるのは?
オンプレミス型は独自のセキュリティ要件を定義し、堅牢かつ強固なシステム環境の構築が可能です。しかし、それは裏を返せば、適切なセキュリティ要件を定義できる知見を備えた人材が必要であることを意味します。サーバーダウンやネットワーク障害が発生した場合、自社のリソースで対応する必要があるため、高度な技術と深い知識を有する人材を常時確保しておかねばなりません。
何らかのアクシデントによってシステムダウンしたり、通信障害が発生したりした場合、迅速に対処しなければ事業活動の継続に支障をきたし、効率性の低下や機会損失によって経済的損失を招く恐れすらあります。このような事態を防ぐためには、システムの安定的な稼働を担保する保守・運用管理が必須であり、システム環境の規模が大きくなるほどそのコストも跳ね上がります。
つまり、オンプレミス型は厳格なセキュリティ環境を構築できるものの、その安全性と堅牢性を担保し続けるためには、高度なスキルを持つ多くの人材を確保しなくてはなりません。ハードウェアやソフトウェアに精通しているのはもちろん、セキュリティ関連やネットワーク分野に深い知見を持つプログラマーやエンジニアが必要です。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少によって、さまざまな産業でIT人材の不足が叫ばれるなか、ITインフラとセキュリティに精通した人材を確保するのは容易ではありません。
【オンプレミス型】
・セキュリティインシデントに自社で対応するため高度セキュリティ人材が必要
担当者のレベルに依存せずセキュリティを確保できるのは?
オンプレミス環境では高度な知見を持つ人材の存在が不可欠です。しかしクラウド環境なら、プログラマーやエンジニアのレベルに依存することなく、一定のセキュリティを確保できます。ただし先述したように、クラウド型でのアドオン開発は基本的に不可能なため、企業が求める独自のセキュリティ要件を満たせない場合もあります。
しかし、オンプレミス型のように厳格なセキュリティポリシーは設定できないものの、クラウドサービス事業者が提供する一定のセキュリティ基準を確保できる点は大きなメリットの1つです。例えば、オンプレミス型は自由度とカスタマイズ性の高さによって、独自のセキュリティ要件を定義できますが、必ずしもその要件に則ったシステム設計が最適解とは限りません。
Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureなどは、クラウドセキュリティに関する「ISO/IEC 27017:2015」や、情報セキュリティに関する「ISO/IEC 27701」など、国際標準であるISO規格のセキュリティ認証を得ているサービスです。つまり、こうしたクラウドサービスを活用することで、オンプレミス型のようにプロフェッショナルに依存することなく、国際水準のセキュリティレベルを担保できると言えます。
【クラウド型】
・クラウドサービス事業者が提供する一定のセキュリティ基準を確保できる
・国際標準であるISO規格のセキュリティ認証を得ているサービスを選ぶことで国際基準のセキュリティレベルを保つことも可能
セキュリティ管理のコストが高いのは?
オンプレミス型は堅牢なセキュリティ環境を構築できるものの、ITインフラの保守・運用管理が必要です。システムの安定稼働を担保するためには知識と技術に卓越した人材を確保しなくてはなりません。システムの規模が大きくなるほど保守・運用管理に多くのリソースを要するため、オンプレミス型はクラウド型よりも多大な管理コストが必要です。
例えば、オンプレミス環境におけるセキュリティを確保するためには、ハードウェアの故障や老朽化に対応しなくてはなりません。物理的なサーバー機器やネットワーク機器によってITインフラを構築するオンプレミス環境では、ハードウェアの故障や不具合の発生は免れず、可用性を確保するためには相応のコストが発生します。日本は地震大国と呼ばれる国であり、自然災害によって自社のITインフラが運用不可になれば、システム環境を刷新しなくてはならない可能性もあるでしょう。
クラウド環境でシステムを運用する場合であれば、ハードウェアの故障や老朽化といった問題から解放されるため、セキュリティ管理におけるさまざまなコストの削減に寄与します。また、オンプレミス型であれば自社で対応しなくてはならないセキュリティパッチの更新も、クラウド型であれば自動的に更新される点も大きなメリットです。「厳格なセキュリティ」という観点ではオンプレミス型に利があるものの、「管理コスト」の面ではクラウド型が優位と言えます。
【オンプレミス型】
・保守・運用管理に多くのリソースを要するため、クラウド型よりも多大な管理コストが必要
・ハードウェアの故障や老朽化に対応しなくてはならない
【クラウド型】
・ハードウェアの故障や老朽化といった問題から解放される
・保守コストが安価
・セキュリティパッチの更新が自動
オンプレミス型 VS クラウド型 他社はどちらを選択している?
冒頭で述べたように、クラウドファーストという概念が浸透しつつあるものの、セキュリティの観点からクラウド移行に踏み切れない企業も少なくありません。特に金融機関や官公庁など、一般企業よりも強固なセキュリティが求められる業界ではオンプレミス環境でシステムを運用する組織が多く、クラウドサービスは敬遠されてきました。
しかし、時代の潮流は確実にクラウド推進の方向へ進展しており、国内の大手金融機関のM社でも、IT戦略の一環としてクラウド移行が本格化しつつあります。また、創業100年を超える大手物流企業のY社は2020年1月に経営構造改革プランを発表し、データドリブン経営への転換に向けてMicrosoft Azure上で稼働するデータ分析プラットフォームの活用を推進しています。
クラウド推進の潮流は保険業界にも波及しています。全国に約1,500拠点の支社や支部を構える大手生命保険会社のS社は、組織体制のデジタル化とデータ活用を目的として、クラウドファーストを掲げた業務改革に取り組みました。こうした堅牢なセキュリティ環境が求められる業界全体で、現状クラウド移行がますます進展しています。このことから、今後もさらにクラウドファーストの潮流は加速していくと予測されているのです。
クラウドサービス利用の割合が上昇 総務省「通信利用動向調査」より
クラウド市場のシェアは年々拡大傾向にあります。総務省が令和3年6月に公表した「令和2年通信利用動向調査」によると、国内企業の約7割がクラウドサービスを導入していることが示されています。具体的には、令和2年度に一部でもクラウドサービスを利用している企業の割合は約7割で、そのうち約8割が、「非常に効果があった」、または「効果があった」と回答しています。
利用しているクラウドサービスとしてもっとも多かったのは、ファイルサーバーやストレージなどのデータ共有基盤です。クラウドサービス利用企業の約6割が「ファイル保管・データ共有」の領域をクラウド化しており、次いで「電子メール」が約5割、「社内情報共有・ポータル」が約4割、「社内情報共有・ポータル」です。
参照元:令和2年通信利用動向調査|総務省(8P)
オンプレミス回帰の動きもあり
世界的に見てもクラウド市場は拡大傾向にあるものの、「オンプレミス回帰」や「脱クラウド」を推進する企業も少なくありません。特に海外市場においてオンプレミス回帰の動きが活発化傾向にあり、脱クラウドを大規模に実行した企業として知られるのが「Dropbox」です。Dropboxは2008年に社名と同じクラウドストレージの提供を開始し、その分野における代名詞と呼ばれるサービスに成長しています。
Dropboxは自社のデータセンターと併用して、Amazon Web Servicesをプラットフォームとして運用していたものの、サービス開始から約7年後の2015年にオンプレミス回帰を宣言し、大きな話題となりました。脱クラウドの理由は、「Amazon Web Servicesで膨大なデータを抱えるようになったため、自社のデータセンターで対応する方が望ましい」と判断したためです。このケースはあくまでも一例であり、オンプレミス回帰は非現実的ですが、クラウド化を再検討する動きもあることは事実です。
オンプレミス型 VS クラウド型 セキュリティ面では互角
オンプレミス型はシステムの規模や機能によって相応の導入コストと管理コストを要するものの、自由度やカスタマイズ性に優れ、自社独自の機能要件を満たすシステム環境の構築が可能です。クラウド型は、「サービス事業者が提供するITインフラへの依存度が高く、自由度やカスタマイズ性は低い」という傾向にあります。しかしハードウェア導入が不要なため、オンプレミス型と比較してシステムの導入コストや管理コスト、開発期間などを大幅に削減できます。
本記事で解説してきたように、オンプレミス型とクラウド型は相反する特徴を備えており、それぞれに一長一短があるのです。システムの導入においてもっとも大切なのは、自社に適したソリューションの選定であり、「セキュリティ・コスト・可用性・柔軟性」など、複数の考察ポイントから総合的に判断しなくてはなりません。
また、「機密性の高いファイルはオンプレミス環境に保管し、社内外で共有するデータはクラウド環境で管理する」など、相互補完的に組み合わせて運用するも有効です。こうした工夫によって、コストを抑えつつセキュアなシステム環境の構築が可能となるでしょう。
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まとめ
時代の潮流はクラウドファーストへと加速しているものの、オンプレミス型にはクラウド型にはない独自のメリットが存在します。どのような物事にもコインの表と裏のように二面性があり、オンプレミス型かクラウド型かという議論においても絶対的な正解はありません。
「オンプレミス型とクラウド型のどちらが有用なのか」という問題については、自社の事業形態や導入するシステムなどによって最適解が異なります。したがって、オンプレミス型とクラウド型を単純な形式のみで比較するのではなく、セキュリティや拡張性、そしてコスト面などを含むすべてを総合的に比較し、自社に適したシステムを選定するという意識を持つことが大事です。
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